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皮膚を突き破れ、そして街へ出よう【スクールガールズ】

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1992年、バルセロナオリンピックに沸くスペインを舞台に修道院に通う少女・セリアが友人たちとの新たな経験を通して家族や自分自身のことを知っていくスペイン映画『スクールガールズ』(ピラール・パロメロ監督)が9月17日(金)に公開されます。

近著『ニッポンのおじさん』(KADOKAWA)や『往復書簡 限界から始まる』(幻冬舎)も話題の作家の鈴木涼美(すずき・すずみ)さんに寄稿いただきました。

少女たちが制服を着崩す時

思春期の女の子たちが与えられた制服を原型を留めるギリギリのところまで着崩して歩いているのを見ると、クラックの入った卵みたいだな、と思う。怪獣が卵から生まれるように、与えられた居場所を突き破って外に出てこようとする。親たちが渋い顔をするのは、一度壊してしまったその殻は、絶対に元に戻らないと知っているからだ。それで過剰に傷ついたふりなんてして、自分の可愛い怪獣たちが安全な卵の中に今暫く居てくれるように仕組んでくるけど、女の子たちはお構いなしに、クラックをどんどん大きくして、メキメキと頭や腕を突き出していく。

男の子たちだって盗んだバイクで物理的に走り出したり、パンク音楽とドラッグで精神的に走り出したりして殻を突き破ろうとしているけど、その前に初潮や胸の膨らみなど、自分らの意思とはほとんど関係なく内側から子供の殻を突き破ってくる変化を経験する女の子の暴走のほうが躊躇い(ためらい)がない。それに彼女たちは知っているのだ。卵の時にはまるでみんなが同じ形で同じところから来たような気がしてしまうけれど、それを突き破った先に、それぞれ全く違う形になっていくことを。

スクールガールズ●サブ2セリア (1)

「スクールガールズ」の主人公セリアは、母親と二人暮らしをしながら90年代初期スペインの超保守的な修道院に通っている。片田舎の修道院でシスターたちは女子生徒たちの服装や振る舞いの乱れを厳しくチェックして戒めてくるが、都会からやってきた大人もののブラジャーをつけている少し垢抜けた転校生や、バンドのレコードやタバコを持っている友人の姉たちの影響でセリアたちは少しずつ、優等生の少女という枠の中から逸脱していく。タバコをみんなで回して吸ってみたり、お酒を飲んだりしながら、ママの可愛い卵だったセリアもその殻にクラックを入れていく。その過程できちんと着ていた制服が徐々に着崩され、顔も少しだけ大人びていく。

少女たちの逸脱は、コンドームに興味を持ったり、ロックバンドの音楽を始めて聴いたりと、とてもありきたりで自然で、日本の中学校に通う似たような年齢の女の子たちにも、かつての私にも身に覚えのあるものばかりだ。JR大船駅のトイレで中学に入って仲良くなった友人たちと始めてコンドームを袋から出して、ベタベタした質感とゴムの匂いにウッとなって、トイレットペーパーで汚いものを掴むようにして触ったのを思い出して、そういえばあのコンドームを持ってきた友人にも年齢が近くて大人っぽいお姉さんがいたな、と懐かしく振り返った。ポップスの歌詞やファッション雑誌の後ろのほうにある性的なキーワードに過剰反応して、少しずつ下着も人にみられることを意識したものに変えていった。

自分の入れ物が窮屈に感じだしたころ、もっとも劇的に殻を突き破ってくれるのはセックスで、それは具体的に外から長い棒を突き刺して、私たちが外に出るための、或いは息をするための口を開いてくれる行為なのだと思う。思春期の始まりが多くの女の子にとって、性的な逸脱とともにあるのはそれ故で、初めてつける口紅もブラジャーも、手始めの夜遊びも教科書に載っていないロック・ミュージックも、それが少しでも性への誘いを含むものであればあるほど大きな誘惑となって私たちの関心を引き寄せた。セリアたちにとっても、性的な予感のするアイテムや話題は極度の興奮と興味をもたらすもので、それは、その行為がゆくゆくは自分の殻を大きく壊してくれる期待があるからだろう。

スクールガールズ●サブ3セリアとブリサ (1)

なるべく多くの角度から見たり触ったりして、自分の形を知っていく

さてシングル・ママとしてセリアを育てる母親は当然、徐々に子供の殻を破りつつある自分の娘の変化にはナーバスで、学校で逸脱行動を指摘されれば娘を引っ叩き、安全な卵の中にいましばらくとどめようとする。母親は今まで、片親である家庭の事情をセリアに詳しく話したことはなく、耳ざわりの良い言葉で簡単に説明してきた。母自身の親との関係についてもその話題からセリアを締め出して、子供にとって知らなくて良い領域をそのまま守ろうとしてきた。

しかし、徐々に自分を守り閉じ込めてきた殻を壊しつつあるセリアは、友人たちとのゲームの中で、自分と似たように両親が揃っていない友人に向けられた心ない言葉から、自分がどこからきたのか、どうして「普通の」家庭と自分の家が違うのか、ひいては自分の母親とはどんな人間なのかに強い興味を抱くようになる。結婚せずに自分を産んだと話される母を、自分の知る良識や道徳の中で審査して、母親について、自分の家庭について知ろうとする。

実は、制服を着崩したり、今まで知らなかったタバコやお酒に触れてみたり、或いはセックスの話題や新しい音楽に興味を持ったりする行為は、女の子たちにとって、社会に期待される等身大、親に期待される子供としての姿としての自分の形ではなく、もっと生身の、もっと他者と違うはずの、もっと個性的な自分の形を手で触れて確かめていく過程にあるのだ。社会の期待する子供の形はみんな同じで、それはつるんとした卵のように無害なものであるけれど、クラックの入った卵から出現しだす腕や脚は十人十色で、隣の親友と自分の形は違い、それぞれ別の個性を背負った、別の未来へ向かう怪獣である。その形は自分では裏までしっかり観察することはできないから、鏡を使ったり、自分の手や友人の手を使ったり、或いは誰かとの初めてのセックスを使ったりしながら、徐々に確かめなくてはいけない。

その過程は必ずしもみんながみんな個性的なわけではなく、むしろ通る道は誰しもどこか似通っていて、制服のボタンを外し、スカートの丈を変えたり、頭髪の色を変えたりして、大人の遊び場に入っていくものなのだけど、過程を通して発見していく自分の形は実に多様で、だからこそ青春というのは多くの場合に孤独を知り、劣等感を知り、そのせいでちょっと腕を切ってみたり、過食嘔吐してみたりと何かと不穏な動きを孕(はら)む。そして親たちが、娘が自分らのグロテスクで実に魅力的な形に興味を持ち出すことを極端に嫌うのは、半分は無害でつるんとした卵の中身の本当の形がどれだけ個性的か計り知れないから、もう半分は娘が娘自身を知ることはひいては娘の批評眼に親自身が映りこむことを恐れるからだろう。

それでも、たまたま子供のうちに命を落とさない限り、娘たちは必死にボタンを外して靴を履き潰して、卵に入れた小さなクラックから外に出ようとする。親たちも承知なように、誰もが卵の中に永遠に安住はできない。自分の具体的な本当の全体像は、どんなに大人になっても把握することなどできないけれど、なるべく多くの角度から見たり触ったりして、少しずつ自分の形を知っていくのだ。

スクールガールズ●サブ1セリア (1)

大人だって自分の形なんて知らない

思春期に必死に自分に与えられた形にクラックを入れる行為は、大人になって、なんとなく自分の形を知ったような気分になってからは酷く退屈なものになる。私は中学に入った頃からちょっとずつ化粧することを覚え、髪の色も色々に染めたし、色々な服に身を包んでみたし、皮膚に穴を開けたり削ったりしながら大人になった。今でも毎朝鏡の前で化粧をするけど、自分に与えられた殻を壊す行為だったはずのそれは、いつしか自分に期待された殻を作る行為に変わっていて、身だしなみとか世間体とか、そんなもののために顔を脱毛したり凹凸や皺を消したり、標準的な肌の色や唇の色に整えたりする。中学の時、1800円のクレージュのリップを友人と色違いで買って、初めてルミネのトイレでつけてみたときの高揚はそこにない。

でも本当は大人だって、自分の形なんて知らないのだ。思春期に散々なでくりまわして、いろんな角度から、或いは色々な人の目を使って見ようとした自分の形は、どんなに把握した気になっても未完成で、ちょっとした落胆と軽い希望によって作り上げた自分製の殻でしかない。だとしたら、明日の朝に鏡台に座って塗る口紅も、今年の秋に買おうと思っているヒール靴も、本当はそれほど退屈なものではないのかもしれない。それを退屈だと感じてしまうのは、自分の把握している自分の形を過信している証拠なのだろう。

(鈴木涼美)

■映画情報
『スクールガールズ』2021年9月17日(金)新宿シネマカリテほかロードショー
【監督・脚本】ピラール・パロメロ 
【出演】アンドレア・ファンドス、ナタリア・デ・モリーナ、ソエ・アルナオ
【クレジット】 (C)2020 Inicia Films, Bteam Prods, Las Niñas Majicas AIE 
【配給】ファインフィルムズ

情報元リンク: ウートピ
皮膚を突き破れ、そして街へ出よう【スクールガールズ】

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