“足立区で一番気さくな税理士”として活躍する田村麻美(たむら・まみ)さんによる『「フツーな私」でも仕事ができるようになる34の方法』(日経BP)が8月5日に発売されました。
田村さんと言えば、己の現実を冷静に見つめて目標(結婚と経済的な自立)を実現するための戦略をつづった『ブスのマーケティング戦略』(文響社)が話題に。
今回の新刊では、「頑張っているのになかなか評価されない」「八方美人の同僚ばかり評価される」など、仕事で悩む女性たちに向けて、「自分が評価されやすい市場(=職場)」を見極める方法や自分の弱点を最小化する方法などについてつづっています。
人間関係の捉え方やコンプレックス解消の取り組み方について、田村さんにお話を伺いました。前後編。
悩んでいるのは「仕事の能力」だけではない部分
——『「フツーな私」でも仕事ができるようになる34の方法』を執筆された経緯から教えてください。
田村麻美さん(以下、田村):もともとは『日経ウーマン』のマネーコラムの取材を受けたのがきっかけです。『ブスのマーケティング戦略』を読んだ同誌の編集者さんから「仕事に特化したものを書いてみませんか」とお声がけいただきました。
なので、『「フツーな私」でも仕事ができるようになる34の方法』という、私がめっちゃ仕事できるって言ってる感じのタイトルになっているのは、お声がけいただいたからです(笑)。
——一冊の本になってみていかがですか?
田村:正直、恐れ多い題材ではあったんです。この本にも散々書いたのですが、もともと仕事に対しても自分自身に対しても自信がないところからスタートしているので、そんな私が仕事をできている前提で何かを論じることに考えるところはありました。編集者の方といろいろやりとりしながら自分が普段やっていることを書き出してみたらあまりにも普通のことしかやっていなくて……。なので、世間の方にどのくらい響くのかはまだちょっと心配なところはあります。
——発売から1カ月がたとうとしていますが(取材時)、反響などはいかがですか?
田村:感想をいただくのは『日経ウーマン』 読者の方からが多いのですが、「ちょうど仕事で悩んでいる時にこの本を手にとって、なぜ自分がうまくいかないのかが分からなかったけれど、確かに独りよがりで仕事をしていたかもしれません」とか「もう少し冷静に周りを見てみようと考えるようになりました」といった声をいただきました。
——田村さん自身はどんな読者を想定して書かれたのでしょうか?
田村:会社という組織に属していて、人間関係や仕事の進め方とか何かにモヤモヤしている人を思い描いて書きました。今はわりと自由に仕事をしているので、正直その手のしがらみから距離は置いているのですが、10年前はわりと大きな税理士事務所にいて、組織の中で働く悩みは常にありました。言われたことをやるだけではなくて、人間関係などにすごく気を使っていたんです。なので、いわゆる「仕事の能力」だけではない部分でモヤモヤしている女性たちに向けて何か書けたらと思いました。
「自分は好かれてない前提」で物事を進める
——職場の悩みトップはおそらく人間関係だと思うのですが、第三章の「『デキる人』よりも『気さくな人』を目指す」というのは納得する部分が多かったです。田村さんが人間関係で意識していることを教えてください。
田村:基本的に「自分は好かれてない前提」で物事を進めます。特に男性上司からは最初の頃はあまり目線を合わせてもらえないことが多かったと感じています。もうただの「被害妄想」と言われるかもしれないのですが、まずは目線を合わせてもらうにはどうすればいいかな? を考えます。やっぱり、私よりちょっとニコニコしてかわいい子には目線がいくのに自分には向けられてないと感じることが多かったので……。
——その感じ、すごく分かります。「思い込みじゃない?」と言われますが、確かにそういうことってあると思います。
田村:ありますよね。「女性、女性している感じじゃないからかな?」とか「印象が薄いのかな?」とか勝手に自分を無意識に分析していました。ただ、自分を卑下し続けても意味がないし、その上司とうまくやっていかないと仕事にならないわけですよね。なので、どうやったらこの上司とうまくやっていけるかを考えるようにしました。今の時点ではあまり好かれていないようだけれど、どうやったらニコニコと話してもらえるか? みたいな。常に客観視するというか常に自己否定をしている感じだったんです。
——自己否定しつつもどこか冷静に自分を見つめているんですね。
田村:そうですね。冷静に考えると、人間は生きていく上でお金は必要じゃないですか。大抵の人は働かないといけない。今の職場を辞めてもいいけれど、転職してまた同じ環境に身を置かなければいけないですよね。お金を稼ぐことからは逃れられないなら、じゃあ少しでも楽しく稼ぐためにはどうすればいいかなと。そこだけちょっと前向きなんですが……。
——少しでも自分が楽に仕事をできるかという感じですね。
田村:そりゃあ才能がある人はやりたいことをやったり、起業すればいいという考えもありますが、それって本当に一握りの人ですよね。よく「人の目を気にするな」とか「ありのままでいい」とか「自分の好きなようにやればいいんだよ」という論調がありますが、それって本当に突き抜けた人間じゃないとできないことで、一般人がうのみにして「私はありのままで」とか言っていたら大事故起こしますよね。
——大抵の人は『ドクターX』の大門未知子ではないですからね……。「ありのまま」に相手にストレートに言葉をぶつけて事故起こしている人、たくさんいます。
田村:起業したとしても、自分の作った商品やサービスを誰かに評価していただいて、買っていただいて、初めてお金をいただく。会社員だったら会社から評価を受けないとお給料はいただけないわけで。どんな環境であれ、自分一人で完結することはないんですよね。「自分以外の誰かから評価されないと生きていけないじゃん!」というところをスタートにしてもう少し、冷静に謙虚になる必要はあるんじゃないかなと思います。むしろ自分は何者でもないと思っているのだったら余計に謙虚に生きなければいけないことを懇々と書いただけなんです。
——話を戻しますが、件の上司にはどんなふうに接していったのですか?
田村:自ら話しかけるようにしました。関係値ができていないのであれば、まずは自分のことを知ってもらわないとと思いました。見た目が良ければこんなにおしゃべりを頑張らなくても多少は印象が良いのかもしれないでしょうが……。
——でも、大抵の人は石原さとみではないから……。
田村:そう。話さないと関係値がよくなっていかないので。とにかくちょっとしたことでも話しかけたり、仕事のこともちょこまか聞きに行ったりしていましたね。聞きに行きすぎて「ちょっとは自分で考えろ」とか「まずググって」とか言われましたけど(笑)。でも、やっぱりコミュニケーションって接した時間に比例すると思うんですよね。
——自分を振り返っても、きっと「好かれていない」というよりも印象が薄いだけなんでしょうね。
田村:「私という人間がここにいるよ!」とまずは知ってもらう。そのために自分から話しかけることを大事にしていました。
いつ「下克上」されてもいいように相手によって態度を変えない
——人との接し方で「ビジネス八方美人」を目指すと書いてらっしゃいました。人によって態度を変えない、みんなに平等に接するということで「媚びる」とはまた違うのかなと思ったのですが、どんなことを意識していますか?
田村:どっちにも媚びてます。上にも下にも。
——あ、媚びているんですね。田村さんの「媚びる」とは?
田村:さっきの話ともつながるのですが、いつの時代も誰かから評価されないといけないじゃないですか。おそらく目先のことだけ考えれば、自分よりも上の立場の人だけに媚びていればいいと思うんです。その人が評価してくれるので。ただ、自分より下の立場の人がいつ自分より上の立場になるかは分からないので、いつ「下克上」されてもいいようにしておく。いつの時代でもキーパーソンに評価されるようにとにかく感じよくするのが大事かなって。
とはいえ、何も下手に出たり、卑屈になったりする必要はなくて、相手によって態度を変えない。そうすると周囲からの信頼が自然に得られると思います。
——確かにそうですね。むしろ、相手によって態度を変えるのも結構めんどくさいというか疲れます。本でも書かれていたように「感じがよくて丁寧」をデフォルトに設定しちゃえば自分も楽ですね。
田村:私は足立区で仕事をしてるんですけれど、結構知らないところでみんなつながっていたりするんです。例えば、初めて行った飲み屋さんでドライな対応をしたとして、印象を悪くしてしまったことがどこからともなく伝わっても嫌だなと思って。だからどこに行ってもニコニコしちゃう癖があるんですけれど……。一歩外に出たらみんな敵だと思っていますね(笑)。
時々、お店の人に横柄な態度を取っている人とかいると思うのですが、すごくマイナスですよね。店員さんからは間違いなく嫌がられるし、同席している人も「この人こんな人だったんだ」って印象が悪くなる。あれを見て、どんなところでも丁寧な対応をしようと、当たり前のことですが、改めて心に刻みました。
※後編は9月29日(水)公開です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
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