2019年9月末。仕事仲間数人と3軒目に行った焼き鳥屋のトイレで私は泣いていた。時間は25時を回っていたと思う。酒好きで365日飲むような生活をしていたけれど、トイレで吐くのは珍しかった。吐いているうちに、次第に悲しくなってきた。「いつか子どもが出来たらいいなとか思うけど、こんな生活をしていたら無理だよな」と。無性に悲しくなって涙が止まらなくなった。で、他の仲間を置いてタクシーで自宅に帰った。それが妊娠のサインだとわかったのは、数日後のことだった。
妊娠中だから書けるリアルな感情を残したい
今回から3回に渡り、仕事人間である私の突然の妊娠についてつづっていきます。なぜそんなことをするのか。理由は2つあります。
1つは、働く女性の妊娠について生々しく書かれた情報が必要だと思ったから。妊娠はデリケートな話です。全妊娠のうち約15%は流産すると言われるほど、妊娠・出産は奇跡的なことです。また、心身ともに不安定になりがちで、自分の状態を冷静に発信するのも難しいです。なので、多くの女性は出産するまで妊娠自体を積極的に語らない傾向があります。でも、妊娠は初期の段階ほど不安や、考えなければいけないことが多く、そういうときに必要なのは経験者のリアルな声だと思ったのです。
もうひとつの理由は、「変わっていく自分」を残したかったから。妊娠すると、ホルモンの関係なのかメンタルの問題なのか、好むと好まざるとに限らず、自分がどんどん変わっていきます。まるで、勝手にDNAが書き換えられていく気分です。これは当初、ものすごく恐怖でした。今までの「私」が、死滅していくかのような。
妊娠は素晴らしいことだと思いますが、それだけじゃない。美しいところばかりが注目されると、葛藤している自分がまるで、「素直に喜べない私は母として不完全な人間なんじゃないか?」とさえ思えてくる。でも、きっと多くの女性が、喜びの裏に悩みや葛藤を抱えているはず。そのひとつの形を文章に残すことで、今、妊娠中の方、これから妊娠について考えている方の参考になればと思っているのです。
仕事に、趣味に、旅に。365日走り回るフリーランス
あらためまして、落合絵美といいます。2018年1月にPR会社から独立し、2年のフリーランス生活を終えて、2020年から都内でPR会社を経営する37歳の女性です。結婚はしていません。昔、一度したことがあったのですが、いろいろあって懲りちゃいました(笑)でも、私の中にはいまこの世に存在しはじめて6ヶ月目に入るいのちがいます。
妊娠がわかるまでの私は、実の親にすら「今、日本にいるの? 海外?」と聞かれるくらいあちこち飛び回っていました。会社員時代から仕事が好きで、会社の仕事だけでは飽き足らずに副業やNPO活動を始めて、それが高じて独立。平日は仕事と会食でぎっちり埋まり、土日もオフィスで仕事しているか、地方に出張しているか。趣味は海外旅行で、3日以上の休みが取れるときはパソコンとカメラを抱えて旅に出て、観光しては仕事をする、そんな生活をしていました。
それなりに異性に興味もありますが(いや、かなり……かも)、それよりも仕事中心。早くに結婚して25歳で独身に戻ってからは特に結婚願望もなく、「一人の老後は寂しいとか言うけれど、今の時代全然いけるな」なんて思いながら、結婚を見据えた恋愛ではなく、純粋に恋愛を楽しんできました。
とは言え、人間の真理なのか、DNAの陰謀なのか、35歳を越えた辺りから漠然と、「もし子どもを授かることがあったら、産み育ててみたい」と思うようになりました。「女性は子どもを産むべき」と言う気はありませんし、妊娠した今でもそんなことは思っていません。ただ漠然と、「仕事人間で通してきたけれど、そういう経験が出来るものならしてみたいな(とはいえ、積極的にアクションを起こす気はない)」というくらいの思いでした。
吐き気、腰痛、不正出血。自分の妊娠に気づく
最初に自分の身体を疑ったのは、生理周期より若干早いタイミングでの不正出血でした。ズボラなので基礎体温も生理周期もまともに記録していませんでしたが、そんな私でも「タイミングも出血の様子もいつもと違う」と気づきました。出血は2日ほどで終わるも、肝心の生理は来ず。にもかかわらず、腰だけが痛い。そして熱っぽい。
そういえば、この前飲み会で珍しく気分が悪くなったな……もしかして。そう思って薬局で妊娠検査薬を購入するも、判定は曖昧。とはいえ妙に確信があったので、念のためにもう1キット購入して翌日試すと、今度ははっきりと陽性。
私にとって最も辛い時期が、実はこの「妊娠検査薬で陽性が出てから、婦人科で胎胞(赤ちゃんを包む膜)が確認されるまでの期間でした。すぐにかかりつけの婦人科に行きましたが、「検査薬が反応しているので妊娠しているのは確実だけれど、まだ初期過ぎてエコーでは何も見えない。1週間後にまた来てください」とのこと。ドラマのように「おめでとうございます!ご懐妊です!」みたいなシーンを想像していた私は、なんとなく嬉しいものの、宙ぶらりんのまま家に帰ることになります。曖昧な状態というのは、喜ぶことも出来ないし、特に誰かに報告する事もできないし、対策を打つことも出来ない。白黒はっきり付けたがりの私にとって、「待て!」の時間は苦痛でした。
交際中のパートナーとの関係は良好でしたが、結婚している夫婦とは事情が違います。確定する前に報告する気持ちにはなれませんでした。また、今後の仕事についても考えなければいけないわけですが、曖昧な状態では対策も打てません。とにかく長く辛い1週間でしたが、「出来ることならおなかの中にいてほしい。生きていたら、絶対に産むから」という気持ちだけは固まっていました。
(落合絵美)
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情報元リンク: ウートピ
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