恋愛、結婚、不倫、ハラスメント、フェミニズム、メンヘラ、おじさん……をテーマに、男と女の間のあれこれをつづった、鈴木涼美さんによるエッセイ『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 〜愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』(集英社)が6月に発売されました。
同書に登場するのは「女は30歳過ぎてからのほうが実は魅力的だよ?」と言ってくる年上おじさんや「大事なのは君の意思だから」ととことん責任を回避しようとする“イマドキ”の男子など、思わず「こういう男いるよねー」とうなずきたくなる男ばかり。
と、同時にそんな男についてああだこうだと言いながらも、結局は男のことばかり考えちゃう女の矛盾もあぶり出されています。
世の中にはびこる「男の勘違い」から世の中にあふれる「正しさ」まで、鈴木さんに3回にわたってお話を伺いました。
【第1回】30歳になった途端「君のこと理解してるよ」おじさんが増えた…
【第2回】「正しさ」から解放されないと恋愛なんてできない…
Contents
平等な扱いはできないけど「公平」でありたい
——「深夜のファミレス」のおしゃべりを横で聞いているような本である一方で、だからといって女同士で「連帯」しているわけでもないですよね。女だからといって一枚岩ではないし、それこそ木嶋佳苗からマザー・テレサまでいろいろいるしなって思うのですが……。
鈴木涼美さん(以下、鈴木):私は、基本はフェアではありたいなとずっと思っていて、いろいろ連帯したい女も連帯したくない女も、男も、どっちかに寄ると話がすごく矮小化(わいしょうか)してつまらなくなる気がしちゃう。基本的に誰に対しても、男に対しても女に対しても平等な扱いはしないけど、公平ではありたいと思っていますね。
もちろん、友人の肩を持ちたいし、男と女がいたら女の肩を持ちたくなっちゃいますよ。でも、そうやって、共感を広げていって、「かわいそうだ」「あいつはひどい」っていうのだけが感染していくのはフェアではない気がするんです。多方面から見る、ということを省いたら、やっぱり不公平で。
それは私がファミレスで話しているただの女であると同時に、書き手でもあるわけで、書き手の責任として、こっちを突っ込むなら、自分の思い込みがないか常に自己チェックをしたいし、あっちも悪ければ両方突っ込まないと、いずれ私の話なんて誰も聞いてくれなくなると思う。
“共感”は暴力にもなり得るから…
鈴木:例えば、とある女性を批判したとして、同調してくれる男の人がいるとするじゃないですか。でも、「俺も超そう思ってて。こうこうこうですよね?」って言われても、そうじゃないなと思ったら「いや、そうでもないよね」って言う、同調に対してかなり慎重なところはあります。共感は、暴力的にもなり得るから。
そもそもの性格として、誰に対しても深く同調することは少ないかもしれません。もちろん、若い時、例えば何か面白い本を読んだら、「うわ、めっちゃそうだよ、100%正しいじゃん!」って思っちゃうじゃないですか。私だってめちゃくちゃそうでした。好きな作家が言ってることがすごく正しい気がして。
でもそれってやっぱり、じゃあこれに同調しない人はどんな本を読んでるんだろう、どんな正義があるんだろうって探るのが学ぶということじゃないですか。そもそも疑い深い性格も相まって、「そうですよね」ってあんまりならないんですよ。友達の恋愛相談でも、いくらでも乗るし、ずっと聞いているけど、「めっちゃ分かる」みたいな共感タイプじゃなくて「へえ、そう思うんだ」みたいな感じというか。
だから、結構ヒドイことを書いてても炎上しないといわれるのは、そういうところなのかもなとは思いますね。片方と連帯しだすと、こっち側に味方ができて、あっち側に敵ができるみたいになりやすいけれど、私はこっち側も平気で突き放しちゃうので。
逆に味方もいないけど、アンチもそんなにいないですね。単に私の本を読んでくれる人が、非常に思考のレベルが高い人が多いというのもあるとは思うのですが。
「あ、これは…」と目配せするような隠し味を仕込んだ
——本についても伺いたいのですが、装丁もオシャレですよね。峰なゆかさんのマンガも入っているし、フォントもこれ何種類あるんですか?
鈴木:フォントは5種類ですね。今回はフォントで遊んでもらっててデザイン性が高いです。これまで担当さんからフォントについて相談されたことなかったので、びっくりしました(笑)。
連載ではひたすら男に説教してたけど、本はやっぱり峰さんのイラストもあるし、女性が手に取って正直なところに刺さる本になってほしいなと思って。男には正座して読んでもらって、女の子には軽く小脇に抱えてもらえる本になったらいいなと思いますね。
デザインのイメージは洋書のペーパーバックです。女子の軽やかさとテキトーさと支離滅裂さが、ページのごちゃごちゃ感で伝わったら面白いな。
——「30歳の誕生日〜すべて失う5秒前」とか「売春大好き日本〜『シロウト』女、上から見るか下から見るか」とか歌や映画の作品名にかけたタイトルを見ているだけでもニヤニヤしちゃいますね。
鈴木:例えば、映画でも『オースティンパワーズ』って、『007』を知らなくても面白いけれど、『007』のパロディだって分かるとより面白いじゃないですか。タイトルやサブタイトルが歌詞になっているのに気付く人は気付くみたいな隠し味みたいなものを入れ込むのは得意だし大好きです。
今までの本もパロディタイトルや微妙な引用は多いと思うけど、今回は特に、アラサーに刺さる歌詞みたいなものを多めに隠し味に入れています。
気付かなくても普通に読めるけれど、特に30代の人が読むと「あ、これは……」と分かるのが目配せし合ってるみたいな楽しさがありますね。
来るべき30代に震えてる女の子に読んでほしい
——ペーパーバックみたいに常にバッグに入れて女子とああだこうだ言いながら読みたいなと思いました。あらためてどんな人に読んでほしいですか?
鈴木:全世界の男に正座して読んでほしいのと、男の人が「すごい良い話だったー」みたいな感じになられても、ちょっと困るっていうか反省してほしいかな(笑)。あとはやっぱり私は女だし、女の子にも読んでほしいですね。同年代もそうだけど、来るべき30代にちょっと震えながら、若くて可愛い子たちに読んでもらえたらうれしいです。
やっぱり若い時って当事者意識しかなくて、俯瞰(ふかん)して見てはいなかったな、と思うんです。年を経て少しだけ年を重ねたなりの景色が見えることもあります。今の若い子にとって、私がかつてそうだったように、30代後半に差し掛かる私なんてもう時代に付いていってないおばさんに見えると思う。
でもかつて若い女の子の側にいた自分が「おばさん」になって今度は他者として若い子を見ると、かつての自分を重ねてすごく滑稽(こっけい)な姿に見えることもあります。当時はイケてると思ってやってた変な駆け引きを赤面で思い出しながら、「あ、同じことしてる!」っていうふうに気になっちゃうこともある。
だから、じゃあ自分が30歳になった時に見える景色って違うんだっていうのを、若干スキップして、タイムスリップみたいにして見える本だといいなあと思います。もちろん、私みたいになれっていうことじゃないですよ、でも年を取ると見える景色って変わるんだろうな、くらいに。
——本にあったような「聞き分けの良い女」側の人にも読んでほしいなって勝手に思ってるんですけど。
鈴木:常識的な女の人に読んでほしいですよね(笑)。「好きなの」「来てくれないと死ぬ」とか言えない、常識があっていい女なはずなのに“損する側”の女の人に。そう言ったほうがが得なことは分かってるけど、そうしたいわけじゃないっていうのもあるじゃないですか。だから良識的な女のストレスをちょっと吸収する本であったら、言うことなしです(笑)。
(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)
- 男と女の間のあれこれ…#MeTooよりファミレスの空気感で伝えたい【鈴木涼美】
- 男は40歳で“別れ話”に目覚める 痛々しくも目が離せない「おじさん」とは?
- 「おっさんへの“媚び”に得はなし」働き女子が30歳までに知っておくべきこと
- 「安心しておばさんになってください」阿佐ヶ谷姉妹の“これから”と不安だった“あの頃”
- 「キャバ嬢」も「東大生」も魅力的だから…女子もおじさんも矛盾だらけでいい
- 「カッコいいおばさんは、若いときからカッコいい」小池一夫さんから一生懸命な貴女へ
情報元リンク: ウートピ
男にも女にも平等な扱いはできないけどフェアではいたい【鈴木涼美】