50代以上の女性をターゲットとした月刊誌『ハルメク』。書店販売なしの定期購読誌で、2020年下期の販売部数は3年前と比較して倍増。雑誌不況やコロナ禍という状況にもかかわらず37万2,885部*を記録しました。
『ハルメク』は、1996年に『いきいき』として創刊。2016年に『ハルメク』と名称を変更し、健康、料理、ファッション、お金など50代以上の女性が前向きに生きるための情報を提供しています。
雑誌が次々と休刊される中、部数を伸ばしている理由は? コロナ禍で読者のインサイトはどう変わった? 2017年8月から編集長を務める山岡朝子(やまおか・あさこ)さん(47)にお話を伺いました。前後編。
*日本ABC協会『発行社レポート』より
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3年で部数倍増! 37万部突破の理由は?
——出版不況と言われる中、『ハルメク』は順調に部数を伸ばしています。3年前にお話をお聞きした時に、「『ハルメク』に期待されている役割をやり続けていく」とおっしゃっていましたが、その結果が出ているということでしょうか?
山岡朝子さん(以下、山岡):そうですね。基本に忠実に、かつ、それをどんどん発展させて積み上げてきたことが、結果につながっていると感じています。私たちが『ハルメク』世代と呼んでいる60代から70代の読者の方が、「今何を悩んでいるのか?」「何を知りたいのか?」ということを、『ハルメク』のシンクタンクである「生きかた上手研究所」と一緒にリサーチをしたり、分析をしたりしながら、愚直に形にしてきました。読者の方に期待されているコンテンツを、年12回やり続けてきたことが、一番大きい理由だと思います。
——読者からの声はどんなものが多いですか?
山岡:ありがたいことに、「どうして私が今知りたいことが、毎月届くのか?」というお褒めの言葉をいただくことが多いです。一般の雑誌は約3カ月くらいで誌面を作ることが多いのですが、『ハルメク』では、1号に約6カ月の時間を費やしています。最初の3カ月で「生きかた上手研究所」と一緒にリサーチをしたり、分析をしたりして、その後の3カ月でようやく誌面を作ります。このように丁寧に雑誌作りに取り組んできた結果、既存の読者の方が購読を継続してくださり、新規の読者の方もどんどん増えているため、部数を伸ばすことができたと思っています。
——コロナ禍の影響はありましたか?
山岡:コロナ禍のステイホームにより、自宅で本や雑誌を読む機会が増えていることも、部数アップの要因の一つだと考えられます。特に『ハルメク』は、直販型の定期購読誌ですので、書店まで買いに行かなくても、定期的に自宅に届きます。そういった意味で、「家に届けてもらえるんだったら、読んでみようかしら」とご注文いただいた方も多くいらっしゃいましたね。定期購読というスタイルが、ステイホームに合っていたんです。
また、既存の読者の方にとっても、月に一回届く『ハルメク』は、エンターテインメントが少ない生活の中で、新しい情報が得られる“社会からの風”として楽しみにしていただきました。
ウェブにも記事を配信、ネットを使う世代の流入も
——新規の購読者も増えているということですが、新聞広告をきっかけに購読する方が多いのでしょうか?
山岡:そうですね。ただ、最近の『ハルメク』世代は、必ずしも新聞を毎日読まれるとは限らないので、テレビCMも新しい接点になってきています。また、インターネット広告から申し込まれる割合も増えてきています。
——インターネットを使う世代が増えてきているのですね。
山岡:はい。現在、『ハルメク』では、紙媒体の雑誌とは別に、『ハルメクWEB』というオウンドメディアも立ち上げています。雑誌では、『ハルメク』世代の普遍的な悩みに寄り添いながら、新しい気づきや発見があるような記事をお届けしていますが、『ハルメクWEB』は、WEBならではのスピード感やトレンド感が持ち味です。共通するのは、どちらも同じように質の高い記事をそろえることで、『ハルメク』のことを好きになっていただく、「私にピッタリのメディアだ」と思っていただくことが目標です。『ハルメクWEB』を読んでいただいている方は、50代が多いのですが、紙媒体の雑誌を読まない方にも、『ハルメク』を知っていただいてファンになってもらえればと思っています。
とはいえ、インターネットは、“検索”が前提なので、まったく知らない状態から見つけていただくのは難しいですよね。そのため、『ハルメクWEB』を知っていただくためのきっかけづくりとして、さまざまなニュースサイトに記事の配信も行っています。
——ちなみに、雑誌の購読者はどのくらいの定着率なのでしょうか?
山岡:定期購読は12カ月契約が基本ですので、1年後の契約満了を機に購読をやめてしまう方も相当数いらっしゃいます。「特定の特集だけが読みたい」というのが主な理由で、致し方ないことだと思います。一方で、毎月読んでいるうちに、『ハルメク』のファンになってくださり、契約を更新する方も多くいらっしゃいます。結果として、3年目以降は、そのまま購読される方が大半になり、やめる方はほとんどいらっしゃいません。3年続けて購読していただけると、大ファンになっていただけるものと考えています。
——定着率を上げるための工夫はありますか?
山岡:『ハルメク』は定期購読ですので、書店で1冊だけ買う雑誌とは異なります。そのため、1号だけが面白くてもダメで、続けて読むことに意義があるような誌面づくりを大事にしています。例えば、メインの特集以外にも、小さな連載ページで新しい考え方に出会ったり、生き方のヒントが見つかったり。そういった発見が、毎月一つ二つと見つかると、『ハルメク』を読んでいてよかったと思ってもらえるかなと。
そのため、人生の先輩のインタビューだったり、同世代の方のチャレンジだったり、あるいはエッセイや小説など、さまざまな形で何か発見があるような工夫をしています。毎月、読んでいると、「今月はこの言葉が良かったな」「今月はここが勉強になったな」といった体験が積み重なっていくんです。そうやって『ハルメク』が人生のパートナーになっていき、「長く読み続けたい」という気持ちになっていただける。そのようなコンテンツ作りを心掛けています。
コロナ禍で変化した読者のインサイト
——コンテンツ作りについてお聞きしたいのですが、コロナ禍で内容の変化はありましたか?
山岡:ありました。時期によっても違うのですが、去年の最初の緊急事態宣言が発出された頃は健康への関心が非常に高まりました。初期には、コロナが怖い、かかりたくないというような直接的な情報が求められました。布マスクの実物大型紙と作り方など、紙媒体ならではの記事も人気がありました。
次には、ステイホームによって「体力や筋力が落ちるのではないか」「認知機能が下がるのではないか」という中期的な不安を抱える方が増えてきました。そこで、おうちでできるエクササイズや脳トレ、免疫力を上げる食事法など、健康に関するコンテンツを多くそろえました。
秋くらいからは、「楽しくて明るい記事が読みたい」というニーズが高まってきました。テレビでは毎日、感染者数や死亡者数のニュースが流れ、巣ごもりも長期化して憂鬱になっていた頃でしたので、月に一回届く『ハルメク』までが不安をあおるような内容であってはならないと思いました。そこで、読んでいるだけで明るく楽しい気分になれるようなおいしいお料理や美しい風景といった特集にシフトしました。花や緑、美しい庭、海外の風景といった写真をはじめ、レイアウト、文言などすべてにおいて、明るい気持ちになれる誌面づくりを心掛けました。
オンラインイベントにシフトして分かったこと
——コロナ禍以前は年間約200回のイベントを開催していたと伺いました。コロナ禍でなかなかリアルイベントの開催は難しくなったと思うのですが、変化はあったのでしょうか?
山岡:イベントに関しては、180度変わりましたね。しばらくお休みをして、その間に研究をして、秋ごろからオンラインイベントを始めました。ただ、最初の頃は、参加者の方々はもちろん、私たちもZoomのイベント運営に不慣れなので、とても大変でした。「どう説明すれば画面に入れるのか」「どう説明すればマイクがオンになるのか」といったことも含めて、手探り状態で……。接続のための説明書を作成して、何回も何回も改訂して、最終的に、誰が読んでも分かるマニュアルを完成させました。
——オンラインイベントになったことで、新しい発見はありましたか?
山岡:それまでのリアルイベントでは、どうしても開催地に近い方しかイベントに参加できなかったんです。誌面に載っているイベント情報を、いつもただ見ているだけという読者の方がたくさんいらっしゃって。一方、オンラインイベントであれば、日本中どこからでも参加することができるので、「初めて参加できた」と喜んでくださった方もいました。
また、家族を介護していらっしゃる方や歩行が困難な方なども、自宅からイベントに参加できるといったメリットもあります。オンラインならではの利点は今後も生かしたいので、コロナ後も、リアルとオンラインを合わせたイベントを開催していきたいと考えています。
ネットの接続に四苦八苦も…読者からのうれしい声
——読者のニーズにしっかり合うコンテンツを作るため、年50回以上の座談会やアンケートを行っていると伺いました。座談会やインタビューもオンラインで行っているのでしょうか?
山岡:はい。今は、座談会やインタビューもオンラインに切り替えています。それこそ、最初の頃は10人参加する予定が、画面にたどり着けたのが2人だけだったり……。インターネットのつなぎ方が分からなかったりして、途中で諦めちゃうんです。でも、四苦八苦して、やっと参加できた方からは、「70歳を過ぎて、こんな新しい体験ができると思わなかった。寿命が延びました」といううれしいお便りもいただきました。今は、私たちも参加者の方も経験を積んでスキルアップして、新しい世界の扉を開くことができてよかったなと感じています。
——インターネットの活用が、『ハルメク』世代にとって新しい体験になったのですね。
山岡:そうですね。私たちは、長くシニア世代向けの雑誌を作ってきた編集部として、「どんなことでも『ハルメク』世代に分かりやすいように解説できる」という自負があります。それはインターネットの活用法についても同じ。例えば「ブラウザ」をシニアにどう説明すれば伝わるか、それを寝る間も惜しんで考えているのは多分私たちだけ。「生きかた上手研究所」と一緒にリサーチと分析を繰り返しながら、『ハルメク』世代に寄り添ったコンテンツ作りを行っている私たちだからこそ、新しい体験を提供できると思っています。
※後編は9月17日(金)公開です。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
雑誌不況、コロナ禍もなんのその…37万部突破の『ハルメク』部数倍増の理由