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門脇麦、「結婚=幸せ」のお嬢様を演じるにあたり心を砕いたこと【あのこは貴族】

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東京・松濤で生まれ育った「箱入り娘」の華子と地方出身で猛勉強の末、名門私立大学に入ったものの家庭の事情で中退した「地方出身者」の美紀。異なる境遇(せかい)を生きる2人の女性を描いた映画『あのこは貴族』(岨手由貴子監督)が2月26日に公開されます。

原作は山内マリコさんの同名小説で、「結婚=幸せ」と疑わずに育った裕福な家庭の子女・華子を門脇麦さん、富山出身で大学進学とともに上京した美紀を水原希子さんが演じています。

華子を演じるにあたり、「型にハマったお嬢さまを演じるのではなく、人間ドラマとしていかに成立させるか」に心を砕いたという門脇麦(かどわき・むぎ)さんと岨手由貴子(そで・ゆきこ)監督にお話を伺いました。

門脇麦さん(左)と岨手由貴子監督

門脇麦さん(左)と岨手由貴子監督

「ひたすら受けの芝居が続く」華子を演じる上で難しかったこと

——『あのこは貴族』の映画化の企画が本格的にスタートしたのは、2016年の山内さんの出版イベントだったそうですね。山内さんに映画化したいと直訴したということですが、岨手監督が強くこの作品を映画化したいと思った理由を教えてください。

岨手由貴子監督(以下、岨手):『あのこは貴族』って、今までの山内さんの作品とはちょっと違ってて、もちろん、ずっと山内さんがテーマに据えてきた地方出身の女性はこの作品では美紀として描かれるのですが、お金持ちの階層の華子を描くというのは山内さんの作品の中で新しいフェーズに突入したんだなと思いました。

同時に、東京という街の構造もすごく研究されている。映画として描くのは難しいけれど、面白そうだなと思ったんです。その頃ちょうど私も一作目の『グッド・ストライプス』を撮ったばかりで、自分としてもステップアップというかハードルが高いものに挑戦したいという気持ちもありました。

——華子は東京・松濤に居を構える良家の子女という設定ですが、上流階級の方たちに緻密な取材を重ねたと伺いました。

岨手:華子を取り巻く家族や周辺の人たちというのはまったく想像もつかない人たちなので、映画化にあたってはまず取材相手を探すところから始まりました。山内さんが本を書かれた際に取材された方や「知り合いの知り合いの知り合いの娘さん」レベルのすごく細いツテをたどって話を聞かせていただきました。それでもやはりマナーとして自分たちの生活をひけらかさない方たちなので取材も難しかったですね。

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——門脇さんは華子を演じるにあたり意識したことや難しかったことはありますか?

門脇麦さん(以下、門脇):多くの人が想像するテンプレ的なお嬢さまを演じてしまうと、ただ「お嬢さま」と東京の街を描いた、人間ドラマとして深みがあまりない作品になってしまうと思いました。なので、所作やしぐさなど外側の部分も大切にしつつ、華子の実在感をちゃんと感じられるように、どう厚みを持たせるか、人間ドラマとして成立させられるかを一生懸命考えました。

「品がある/ない」は生まれ持ったものなので、そこを意識しすぎてもと思いましたし、衣装やしぐさは所作の先生が現場にいらっしゃるのでお任せしました。むしろ意識しないことが華子を演じる上で大事なことだと思いました。

難しかったことと言えば、芝居をした感があるシーンがあまりなくて日々不安だったことくらいですね。ここの芝居場さえ決まれば少し安心……といった手応えのあるシーンが一個もなくて、毎日これで大丈夫かな……? と思いながら撮影していました。

——芝居をした感がない……。

門脇:華子が能動的に自分の人生を生きるようになるのは、やっと後半で東京の街を散歩して初めて歩いて家に帰ったあたりくらいからなんですよね。その辺からやっと華子の人生が楽しくなっていく。それまではほぼ受け身でひたすら受けの芝居が続くのでその不安との葛藤がありました。

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「華子を演じられるのは門脇さんしかいない」

——岨手監督は「華子は門脇さんに」と脚本の段階からイメージを固めていたそうですね。

岨手:華子は確実に難しい役柄というのは分かっていたので、絶対信頼できる俳優にやってほしいと最初から考えていました。主役でしかも自分の本音をなかなか表に出さない難役なので、門脇さんくらいの方じゃないとこの役は難しいとプロデューサーとも話していました。

美紀のキャラクターはすごく生き生きしてるし、私自身もすごく分かる世界観なので見える部分は多いのですが、華子は主役なのに華子の世界観が俯瞰で分かるわけではないので私自身もすごく不安でした。

でも、撮影が進んでいく中で華子のキャラクターがだんだんと具体性を帯びて立体的になっていったんです。私はひたすら現場で生まれた華子像と、脚本段階で想定していた華子像の溝を埋めるような作業をしていました。現場で生まれた華子のほうに寄せていくような……。なので、役柄に関しては門脇さんに一人で背負わせてしまったかもしれませんが、私は「今、どんな華子になっているのか」を常に見守りながら脚本を直していきました。

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——門脇さんも華子を演じるうちに華子像をつかんでいったのでしょうか?

門脇:真っ白な子がいろんなことを経て何色になっていくのかという物語なので、私も実際に演じてみないと分からない部分はありました。そこはもう相手との化学反応というか、華子がいろんな人と関わっていく中で少しづつ変わっていく話なので、誰かとの芝居でしか華子がどうなっていくかの手がかりがなかったんです。(高良健吾さん演じる華子の婚約者の)幸一郎と初めて出会うシーンはまさにそうでしたね。

岨手:高良さんも最初から「僕の芝居、これで大丈夫ですか?」って言っていたんです。私は「難しいと思いますが、幸一郎自身が社交で話しているので手応えはないと思うのですが、このままで」と言っていました。そして華子と初めて会うシーンでまた高良さんが「すみません、僕ちょっと華子がかわいいなと思っちゃっているんですが、この幸一郎でいいんですか?」と言ってきたんです。

脚本の想定とはちょっと違ったというか、脚本上では機械的に華子を奥さん候補として合格か不合格かで見ている設定だったのですが、「そう思っちゃっているならそうしましょうか」と変えたんです。だから、高良さんの幸一郎についての設計も門脇さんとの芝居でちょっとずつ変わっていったんじゃないかなと思いますね。

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「古い価値観を背負わされている若者たちの青春譚」

——華子と美紀が初めて対面するシーンで、華子の親友でバイオリニストの相楽逸子(石橋静河さん)に言わせていたセリフがこの映画を表しているなと思いました。

世間では、例えば「ライフステージが変わると女同士は分かり合えなくなる」とか、「女の友情はもろい」という言い方がよくされますが本当だろうか? と。ある意味、そういうふうに思わされちゃってる部分があるのかなと思っているのですが、この映画ではそんな世間の思い込みやステレオタイプが見事にかわされていてシスターフッドが描かれていると思いました。

岨手:原作はシスターフッドについて厚く描かれていますが、映画版では「女対男」のような二項対立とは捉えていなくて。親世代の古い価値観を背負わされている若者たちの青春譚だと思っています。

例えば華子と美紀が出会うシーンでも一見対立しそうと思うんだけれど、そうではない。「はい、ここで対立すると思ったでしょ〜?」みたいな(笑)。もちろん要素としてシスターフッドはありますが、人が持っている自然な感覚として描きました。

傷ついているであろう女の子が目の前にいたら当然手を差し伸べるし、温かい飲み物を出してあげて優しい言葉の一つもかけてあげますよね? 人と人との自然なやりとりだと思うし、それは相手への優しさであると同時に自分自身もそういう人間でありたい。人として正しくいようとするのは自分のためにもなるというか。

なので、男女の二項対立や女性同士のシスターフッドを強く意識したというよりも、ベーシックな部分での人間賛歌と捉えています。

『あのこは貴族』メイン

門脇:私もあまり女性同士の対立というのはピンとこなくて。今まであまり苦労していないんでしょうね。そしてこの作品は本当に人類愛の話だなと思いました。

岨手:ただ、社会の中で女性同士が対立するように仕向けられていると感じたことは何度もあります。例えば、同じチームに女性がいると「岨手さんと何とかさんは仲悪いから」と言われたりね。こっちは真摯(しんし)に仕事に向き合って意見しているだけなのに、その真剣な気持ちを娯楽として消費されていると感じるし、それですごく不本意な思いをしたことは死ぬほどありますね。

門脇:みんな好きですよね。あの女優とこの女優は仲が悪いとかよく記事になるじゃないですか。それで言えばこの映画は「そんなの(女同士の対立を)見せるかよ」っていう映画なんだと思います。

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■映画情報
『あのこは貴族』2021年2月26日(金)全国公開
【クレジット】 (C)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
【配給】東京テアトル/バンダイナムコアーツ

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

情報元リンク: ウートピ
門脇麦、「結婚=幸せ」のお嬢様を演じるにあたり心を砕いたこと【あのこは貴族】

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