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気付いたら金正男を殺していた…! 女の柔らかい部分と映画が示す希望

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2017年2月にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起こった、北朝鮮の朝鮮労働党委員⻑・金正恩の実兄・金正男暗殺事件の闇と真相に迫ったドキュメンタリー『わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない』(ライアン・ホワイト監督)が10月10日から公開されます。

金正男の顔に神経猛毒剤「VX」を顔に塗った“実行犯”はベトナム人とインドネシア人の2人の若い女性でした。彼女たちは「私は(SNSに投稿するための)いたずら動画を撮るために雇われただけで、雇い主の目的は一切知らなかった」と主張し、世界を驚かせました。

「有名になりたい」「お金がほしい」というキラキラした夢を追いかけていた彼女たちはいかに歴史的暗殺事件に関わっていったのか……

作家の鈴木涼美(すずき・すずみ)さんに寄稿いただきました。

真っ黒な蜘蛛の糸を必死に掴んだ彼女たちの素顔

事件の実行犯として逮捕された二人の女性とその弁護団の戦いを詳しく追う中で、移民女性の置かれる状況や弱みが浮き彫りになっていく。なぜ知らぬうちに殺人のコマになっていたのか、なぜ胡散臭い動画製作者の言うなりになっていたのか、なぜ誤解はなかなか解けなかったのか、なぜ長く拘束されなければいけなかったのか。すべて彼女たちの立場の弱さと、人としての柔らかい部分に原因があった。

世界中が注目したクアラルンプール空港での金正男暗殺劇。断片的に見る報道の情報などで、どうやら現地に住む移民女性が工作員の指示で実行したらしい、という程度の認識でいる人が多いのではないか。弁護団への取材を主軸に、事件現場の検証から法廷での争いを追う本作のなかで、実行犯として逮捕された彼女たちの素顔が紐解かれていく。プロの殺し屋かとも疑われた彼女たちの日常は、とてもそのような印象とはかけ離れた、より良い暮らしや理想の仕事を夢見るささやかなものだった。

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インドネシア出身のシティはジャカルタでの劣悪な労働環境から逃れて、クアラルンプールにやってくるが、最低限の教育しか受けることができなかった彼女に仕事を選ぶ自由などなく、次第に夜の街へと入っていく。ベトナムの地方出身であるドアンは、希望の職を得ることができず、モデルなどの仕事をしながら女優という夢に向かうチャンスを待っていた。

頼れる大人やたくさんの友達がいない環境で、彼女たちは「日本のテレビ向けイタズラ動画」への出演を打診される。日本で人気が出れば、今より豊かで、クアラルンプールの夜景のようにキラキラした、理想の生活が手に入るかもしれないと思った彼女たちは、悪意ある蜘蛛の糸を必死で掴(つか)む。そして、殺人の予行練習だなんて知らずに毎回おしゃれして一所懸命動画撮影に挑み、気づけば手に塗った猛毒で国際要人を手にかけていた。

移民としての彼女たちの弱みにつけ込んだのは北朝鮮の側だけではなかった。マレーシアの検察や政府は、彼女たちの潔白を証明しようとする弁護士らをはなから相手にせず、キーパーソンとなりうる工作員を、人質交換のようにして国外へ逃してしまう。その経緯は露骨に、自国に住んでいた移民女性よりも、在北朝鮮の大使たちの命を優先するものだった。こうして、北朝鮮側にとってもマレーシア側にとっても彼女たちが移民であるという事実、知識のない若い女性であるという事実、夜の世界の小さな花でしかない事実は都合よく解釈されていく。

北朝鮮の隣国でありながら、日本の女性としてこの事件が報道された時、北朝鮮の脅威や数奇な事件への単なる興味以外に何か思うことがあったかというと、あまりなかった。しかし、容疑者となった彼女たちの物語は、かつて彼女たちのように若く愚かであった者として、同じように柔らかい部分をもつ女性として、あまりに切実なもののような気がした。

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柔らかい部分に突き動かされて犯した罪の代償

ちょっとした邪心や好奇心で危うい世界に入り込んだ女の話は日本でも多くの場所に転がっている。モデルになれるかもしれない、お金持ちと知り合えるかもしれない、刺激的な世界に入れるかもしれない、華やかな生活をおくれるかもしれない、チヤホヤされるかもしれない、と、大人の常識で考えればあまりに愚かな選択をする仕掛けは、この世界にいくらでもあるからだ。そうした選択をしても、9割の者たちは無事に生還したり、その場所で居場所を見つけたり、稀(まれ)に本当にお金持ちになったりする。それはおそらく賢かったからでも素質があったからでも世界が優しかったからでもなく、たまたま運が良かったからだ。

ただもちろんそのような運の良い者ばかりではなく、実際に危険に巻き込まれるケースも多くある。その時、ふわふわと柔らかい部分に突き動かされて、常識的な判断をしなかった、という事実は、彼女たちではなく、彼女たちを陥れたい者や、彼女たちを救うための労力を惜しむ者たちに、とても都合よく作用する。自己責任や浅はかなんて言葉が飛び交って、同情に値しない、救う必要がないと切り捨てられ、孤立を深めていく。そして何より、彼女たち自身の心に、後悔と諦めと自己嫌悪の影を落として、正当な救いを求める気力を奪っていく。

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「わたしは金正男を殺してない」が示した希望

私も、かつて一緒に働いていた夜の蝶たちも、どこからしら似たようなところがあった。だから、金正男の顔に、ベビーオイルのようなものだと思って猛毒を塗った彼女たちは、根本的には私たちでもあるように思う。だからといって、人に柔らかい部分がある限り、そこにつけ込む人間は常に湧いて出てくるだろうし、弱みがある限り、利用しようという人間も湧いて出てくるだろうし、しかし一般的な意味での「愚かな選択」によって運よく居場所を見つけるものもいるし、すべてを否定することはできない。なるべく賢くなることと、せめて救う人間たちがいることを願うくらいしかできない。だからこそ、救済の力が揺るぎなく突き進んでいくこの映画は、心強いものだった。

ちなみに、映画に登場する女性は、弱く若い彼女たちだけではない。金正恩とその異母兄である金正男の確執や争いだけでなく、彼らの母親の物語まで網羅的に解説する。さらに、彼女たちの身の潔白を示すために奔走した弁護団や、長く北朝鮮を追うジャーナリストの中には女性の姿も目立つ。どこを切り取るかで女性の物語の様相も多様に変化するのは、徐々に広がりつつある女性社会の豊かさだ。

■映画情報
『わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない』10/10(土) シアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開

【クレジット】 (C)Backstory, LLC. All Rights Reserved.  
【配給】ツイン

情報元リンク: ウートピ
気付いたら金正男を殺していた…! 女の柔らかい部分と映画が示す希望

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