結局、好きなことでは生活していけない。何かをやるからには、周りの人に認められるような“ちゃんとした”結果を残さなくてはならない——。でも、何をするにも成功を目指さなくてはダメなのでしょうか?
「無駄づくり」を5年間続ける藤原麻里菜(ふじわら・まりな)さんは、「好きなことを続けるためには“成功”の前に安定した生活を送れるだけのお金を稼ぐこと」だと言います。
「一人でポッキーゲームができるマシーン」や、「会社を休む理由を生成するマシーン」など、ユニークな作品で注目を集め、国内外での個展やテレビ番組の司会、本の執筆と活躍の幅を広げている藤原さんに「無駄づくり」をはじめた経緯について聞きました。
「笑い」の舞台に居場所がなかった
――藤原さんは高校卒業後、芸人を目指して「吉本総合芸能学院東京校(東京NSC)」に入学していますよね。そこからユーチューバーになった経緯とは?
藤原麻里菜(以下、藤原):私、根拠もなく「自分は面白い!」と思っていて……。ナルシシズムを認めるのが早かったんです。褒められるようなことをしたわけでもなく、表彰されるような実績もなかったんですが、幼少期から「自分って才能あるだろうな」って思っていました。
自分のなかにあると信じている「面白さの塊」をどうやって放出するか、考えてたどり着いたのが東京NSCでした。芸人になるのがいいだろうと思ったんです。でも舞台に立ってネタを披露したら、あんまりウケなくて……。
——ツラいですね。
藤原:はい。自分の居場所はここじゃないのかもしれない……。そう思い始めたとき、よしもとクリエイティブ・ エージェンシーで新人ユーチューバーを育てるためのオーディションが開催されて、受けてみたら企画が通ってしまったんです。それがユーチューバーとしてのスタートでした。
——通ってしまった?
藤原:当時はまだユーチューバーという存在がそこまで知られていなかったので、よく分かっていませんでした。ユーチューブなんて横文字だし、なんかカッコつけて……と。
日々の小さな「ムカつき」が発想の源
――でも今では、藤原さんの動画シリーズ「無駄づくり」は、現在チャンネル登録者数が約74,000人。私も観ましたが、「ツイッターに“バーベキュー”と投稿されると五寸釘を打つマシーン」は笑えました。シュールでコミカルな動画ばかりですが、どうやってアイデアを形にしているんですか?
藤原:ムカついたことをメモに書き留めています。ベタですけど、「新宿で終電に乗ったとき、周りが抱き合ってるカップルだらけだった」とか。そのメモ帳を見ながらアイデアを練って、マシーンを作ります。
最初に考えるのはマシーンの動きですね。機械が動いているのを見るのが好きなので、「こういう動きを繰り返していたら面白いな」っていう発想を元に作り始めます。技術面でわからないことがあれば、ネットで検索したり友達に聞いたり。難しそうに見えるかもしれませんが、パターンがあるので覚えてしまえば以外と簡単なんですよ。
――一つの作品を作るのにどのくらいの時間がかかるんですか?
藤原:集中して一気に作るので、たいていのものは1日で終わります。
——思ったより早い。作るのが楽しくてあっという間に時間が過ぎる感じですか?
藤原:いえ。正直、マシーンを作るのはしんどいです。思ったように動かないことがほとんどなので……。
人を傷つけたくないからメッセージ性は削いでいく
――「面白さ」が人を笑顔にする一方で、行き過ぎた表現によって傷つけてしまう場合もありますよね。そのバランスが難しいところだと思うんですが、何か気をつけていることはありますか?
藤原:あえてメッセージ性の薄いものを作るようにしています。例えば五寸釘を打つマシーンが「バーベキューに行った人を絶対に呪うマシーン」っていうタイトルで見た目も怖かったら、不愉快に感じる人も多いと思うんですよね。でもあのゆるい見た目だったから、受け入れてもらえたのかなって。
――たしかに。最近のSNSはゆるくないというか、「何か物申したい!」「正論を言う自分を見てほしい」という投稿であふれていて、見ているだけで少し疲れてしまうかも。
藤原:悪いことをしている人を見つけてみんなで糾弾するのを見ていると、「そこまで言うべきかな」って思うこともあって。だから私の「無駄づくり」は、できる限りメッセージ性を削ぎ落としているんです。何も残らないけど、見ていると何となく面白い。そういうものを作り続けたいと思っています。
「無駄づくり」で人生にちょっとした変化を
――あえて爪痕を残そうとしない藤原さんにとって、「無駄づくり」って何ですか?
藤原:一言で表すなら、エンターテインメントですね。「無駄づくり」というタイトルですが、私はゴミを作っているのではなく、誰の役にも立たないような「無駄なもの」をエンターテインメントに変えるためにマシーンを作っているんですよ。
2年前から「無駄づくり」で得た収入だけで生活していけるようになり、台湾で開催した個展には2万5000人もの人が来場してくれました。2019年3月22日からは、東京日本橋で開催される「TACKING CITY NIHONBASHI」に作品を展示しています。
「無駄づくり」で制作したマシーンを世に出すことで、誰かが何かを思ってくれたり、その人の生活が少し変わったり、そういうちょっとした変化を起こせたらいいなと思っています。それは、私自身が「無駄づくり」を仕事にできて本当に幸せだと思っているから。
まだじゅうぶんに稼げているとは言えませんが、「無駄づくり」で得た収入で食べる牛丼はなかなかに感慨深いものがあります(笑)
(取材・文:華井由利奈、撮影:青木勇太、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
日々の小さな「ムカつき」がアイデアの種に。彼女が「無駄づくり」を続ける理由