人の数だけさまざまな恋愛模様があります。大恋愛をすることもあれば、逆に恋ができないということもあるでしょう。ありきたりなように思えて、実は誰ひとりとして同じストーリーがない「恋バナ」。
その奥深さについて、新刊『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(イースト・プレス)を上梓したばかりの恋バナ収集ユニット「桃山商事」のみなさんに話を聞きました。
19年にわたって1200人の恋愛相談を受け、恋バナを集めてきた桃山商事が見せる、新しい恋バナの形とは——?
で、NEO恋バナって何ですか?
——清田代表にはいつも連載『結婚がわからない』でお世話になっているのですが、森田専務、係長のワッコさんとお話するのははじめてですね。今日はよろしくお願いします。
森田専務(以下、森田)、ワッコさん(以下、ワッコ):よろしくお願いします!
——で、早速なんですけれども、新刊の帯にある「NEO恋バナ」って何ですか?
ワッコ:そこ、気になりますよね(笑)。実はこの本の校了直前に、グループLINEでやりとりしてるときに出てきた言葉なんですよ。ちゃんとお話するのは初めてかも。定義決めましょう。
清田代表(以下、清田):そうだね。
森田:「NEO恋バナ」と謳っていますが、何か新しい発見があったというわけではないんです。僕たちがやってきたことに、改めて名前をつけたって感じですね。具体的には、桃山商事が2011年から続けてきたPodcast番組『二軍ラジオ』(註:現在は、ニコニコ生放送へ移行し、『桃山商事の恋愛よももやまばなし』として放送している)の頃から続けている恋バナのことです。毎回ひとつのテーマを決めて、それについて各自が事例を収集して持ち寄って話すというスタイルで。
清田:過去に聞いてきた恋愛相談の中で出てきた話とか、改めて取材をして収集したエピソードとか、あとは自分の経験談などもサンプルにしながらテーマを深掘りしています。その放送内容を元に、改めて書籍としてまとめたのが今回の『モテすべ』です。
森田:元カレが残していった「恋愛遺産」とか、ホテルのお会計をオトコが払いがちなのはなぜなのかとか、妻の鼻毛が気になる話とか……。そういう、日常の些細な話やちょっと下世話な話をしていたはずなのに、ひたすら話し続けていくと、人間の芯の部分やコミュニケーションの本質みたいなものに触れる瞬間があって。そういう瞬間のある恋バナが「NEO恋バナ」だと思っています。
恋愛相談は悩みありき。ただ楽しい恋バナをまとめてみた
——恋愛遺産、妻の鼻毛……パワーワードが飛び出していますけれども、前作の『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)とはまた随分と違ったテイストですよね。下ネタがみっちりというか……。
清田:みんなでエピソードを持ち寄ってワイワイ話すという『モテすべ』のほうが、桃山商事本来のスタイルに近いと思います。下ネタが多いのは、何も積極的に話そうと思っているわけではないんですが、下半身の絡んだエピソードには切実で奥深いものが多く、どうしても下ネタが増えてしまうという……。前著『生き抜くための恋愛相談』は連載に寄せられた相談文に対し、真っ直ぐ論理的に向き合い、悩みを寄せてくれた人や読者の気持ちが少しでもラクになってくれたらいいなという思いで書いた真面目な本だったので、確かに落差がすごいかも(笑)。
森田:『モテすべ』は純粋に自分たちの興味、関心をぎゅっと凝縮させたような感じです。恋愛相談は悩みありきですけれど、『モテすべ』は楽しさありきというか。
清田:恋愛相談もスリリングで面白いんだけど、なかなか笑いは生まれないもんね。
——確かに、『モテすべ』にはいろんなトピックが出てきますよね。ああ、こういう恋バナもあるのかって思いました。作っていて盛り上がったテーマはありましたか?
清田:個人的に思い入れのある章は、「ケンカの火種」。実は本に収録するかしないか、落選候補の章だったのですが、意外とこれが一番「NEO恋バナ」っぽいかもとも思っていて。というのも、恋バナ文脈のケンカの話って、「恋人とこんなケンカをして、めっちゃムカついた」みたいな感情の話か、そのあと別れたとか仲直りしたという結果が多いと思うんですが、じゃあ何が原因だったのかという“火種”の部分にスポットを当てたのがこの章で。これは2013年に『二軍ラジオ』で話したテーマなんですが、今改めて語り直すことで価値観がアップデートされていると感じる部分も多くありました。
ワッコ:最近だと、清田さんがプリンターの電源入れっぱなし問題で夫婦喧嘩をしたり、消費期限が早いものから買うかどうか問題で揉めたカップルの話とか出てきましたよね。
清田:そうそう。それってエコロジーに対する考え方というか、もはや“思想信条”とか“政治的なスタンス”のすれ違いと言っていい話だよね。恋愛の文脈からはずいぶん乖離(かいり)したトピックだけど、夫婦や恋人って結構こういう問題で揉めたりしている。
——いわゆる、保守かリベラルかみたいな話ですよね。桃山商事の文脈でいうと保守的な結婚を志向する「結婚右翼」とか、ツアー旅行や名所めぐりを好まない「トラベル左翼」とか。
清田:そうそう。恋バナからそういう思想信条のすれ違いみたいな話が出てくるとは思わないでしょ? こういう発見が「NEO恋バナ」の醍醐味だなって思ってます。
掘れば掘るほど面白い「恋バナ」という存在
森田:そこはやっぱり、一つのテーマで掘っていくからこそ出てくることなのかなと思います。ケンカしちゃうのはそもそもなんでだろうとか、なんでこんなに怒りの感情が湧いてきたんだろうとか……。ちなみに、僕が書いていて一番面白かったのは、ワッコのセックスカウンセリングのところですね。
——ワッコの……セッ(以下自粛)。
森田:(笑)。「恋愛と遊び」というテーマの章で、ワッコがセックスを楽しめないのはなんでだろうねという話になり、掘り下げていくと……。
ワッコ:「余裕がないからだ」ってことがわかったんです。収録のために語り直しているうちに気づくことがどんどん出てきて、話がドライブするような感覚が面白かった。
——そういえば、ワッコさんのセックスにまつわる話で、「彼氏が巨乳AV好きだったことにショックを受けた」というのが衝撃で。私最近、自分は「義父モノのAV」が好きだなってことに気づいたんですけど……。
清田:安次富さんのぶっ込みがきた!!
——すみません。私も自己開示スタイルなので(笑)。どうしてかなって考えたんですけど、私は未婚で周囲におじさんもあんまりいないからなのかなって。架空の人物だからファンタジーとして見ていられるというか。
清田:なるほど、そういう背景があるのかもね。
——はい。だから、『モテすべ』を読んでそういうことを考えたのも……「NEO恋バナ」してみたってことですよね。
一同:NEOですね。
清田:「NEO恋バナ」をしていると、自分自身を知るきっかけになる瞬間がめっちゃあるんですよね。他人の話をしていたはずなのに。
ワッコ:確かに。思い出しますね。シナプス繋がった! みたいな。
森田:そうやって誰かのエピソードを受けて話し始めることがほとんどなので、原稿を書いていると接続詞が「そういえば」ばっかりになるんですよ(笑)。細かいことですけど、そこをどう書くかは結構苦労しました。
——意外な苦労! 続く後編ではワッコさんが加入したことで変わったことや、NEO恋バナの面白さについて教えてください。
(取材・文:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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