初めての出産の戸惑いや気づき、理解されにくいしんどさを30代の働く女性・キリちゃんの目線で描いたねむようこさんの新刊『君に会えたら何て言おう』(祥伝社)が4月に発売されました。マンガ誌『FEEL YOUNG』で2019年7月号から2020年4月号まで連載された作品で、2018年に出産したねむさんの体験が色濃く反映されています。
ねむさんに作品を描く上で意識したこと、妊娠・出産を取り巻く女性の状況について思うことなどを伺いました。前後編。
【第1話を読む!】子供ができたら、夜中にテキトーなごはん食べられなくなるんだよ?
Contents
“いい母親”の沼に自分からハマっていった
——日本の社会を見渡すと子供を産まなかったら「わがまま」「少子化の原因」とか言われたり、産んだら産んだで「ベビーカーが邪魔」と言われたり、産んでも産まなくても社会の当たりがキツいなあと感じることがあります。女性自身も社会の目を内面化して自分を責めてしまっているのではないかなと。
ねむようこさん(以下、ねむ):私はそもそもお母さんになるにあたって頑張れる気がしなかったので、頑張らなくてもいい準備をしていました。「夫に任せることは任せて夜はこれだけ寝よう」とか「ベビーフードを使いまくろう」とか「保育園に預けて自分の時間を確保しよう」とか出産に備えて着々と準備をしていたのですが、いざ出産すると子供がベビーフードを食べなくなって、つい「ベビーフードしか与えていなかった私がいけないのか?」と思ってしまいました。育児って自分がやっていることなので原因を突き詰めるとすべて自分のせいになってしまうんですよね。「私がみんなみたいに手作りしなかったからいけないんだ」と頑張らない自分を責めるようになってしまいました。
子供って勝手に育つと思っていたけれど、そうかもしれないし、そうではないかもしれない。その答えは今ではなくて子供が成人する20年後に出るので、子供の将来が人質に取られている感覚で、今頑張るしかないなと思ってしまいました。確かに「母親はこうあるべき」という外圧もありますが、自分でその沼にハマっていっちゃうというか……。
子供がいなかった自分を「かわいそう」なんて思いたくない
——新刊の発売を記念して公開されたねむさんと担当編集の方との対談で、ねむさん自身に「『子供を作らないとかわいそうって思われるんじゃないか』という偏見があった」と話されていましたが、詳しく教えてください。
ねむ:子供を産んだ今では、子供がいない人に対して「かわいそう」なんて決して思えないですね。それは、子供を産んだ側に来たから言えるというわけではなくて……。私の場合は大きなトラブルもなく子供が生まれたけれど、それはたまたま運がよかっただけで、何かが違えばそうではなかった自分もいるんですよね。そうではなかった自分のことを「かわいそう」なんて思いたくないし、本当に生き方は人それぞれなんだと思います。
子供を産む前は、子供を産むのが普通の世の中でどちらかというとマイノリティであることや、子供がいない人生を想像しにくくて怯えていた部分があります。自分自身、「子供を産むのが普通」で「子供を産むのが女」だと思っていたんだという偏見に気づかされました。あとは、妊娠前から女の人が女の人の体で生きる理不尽さみたいなものを感じていた自分としては、子供を産むことで何かに屈してしまう気がして悔しいという葛藤もありました。
母から「お母さんになることが嬉しい」と言われて思ったこと
——同じく対談で、お母様から「『自分に孫ができることじゃなくて、あなたがお母さんになることがとても嬉しい』と言われて、とても複雑でした」とおっしゃっていました。
ねむ:「お母さんになれるのがうれしい」って紛れもなくいい言葉だと思うんですよね。それは、母が私たちを産んだことを喜んでくれているってことだから。もちろんうれしいのだけれど、一方で自分が今まで仕事で頑張っていたことや、子供がいなかった今までも幸せだったのに母はそれを認めてはくれていなかったのかなと考え込んでしまった。まあ「深読み」と言われればそうなんですけれど、子供としては母に自分そのものを認めてほしいという気持ちがありました。
——言ったほうはそこまで考えていないのかもしれないし、こちらの捉え方が「ひねくれている」って言われたらそうなんですけれど、すごく気持ちが分かります。
ねむ:夫によく言われるのが、私は「生まれ育った環境を再現しようとしているよね」と。元の家族にとらわれがちというか、例えばスーパーで調味料を買うときにも実家で使っていたものを選んでしまうところがあるんです。
——でも、生まれ育った環境を再現しようとしているのは、ねむさんが自分が育った家族を肯定的に捉えているっていうことですよね?
ねむ:ただ、夫は私の実家の人ではないし、夫を巻き込んで元の家族を作るのは違うなのかなと。夫と新しい家族を作らないといけないのに、あの家族に戻りたいという気持ちでいることが苦しかったんです。今も幸せなのにどうしようってずっと考えていました。でも、そういう苦しさも子供を産んで多少は減ったのかなと。家族の一員が増えたことで、新しい家族を作っていこうという気持ちが強くなったのはよかったのですが、同時にそれは子供に「呪い」をかける立場になったということでもあるので気をつけないとなと思います。
「呪い」をかけてしまいそうな自分が怖い
——「呪い」をかけてしまう立場……。
ねむ:本当に些細なことなのですが、今はランドセルの色をどうしようと悩んでいます。例えば、子供がラベンダーピンクのキラキラしたランドセルが欲しいと言ったときに「土屋鞄のランドセルのほうがいいよ」と言ってしまうのも親からの「呪い」なのかなって。自分はフラットな人間でいたいけれど、そうすると「フラットとはなんぞや?」と考えてしまう。そもそもこの世にバイアスがかかっていないものなんてないのですが、いろいろ考えちゃいますね。
——私も、友人に女の子が生まれたときに「ジェンダーバイアスをかけてしまうかも」と心配になって、ピンクの服ではなくてグリーンの服をプレゼントしたのですが「でも、彼女がピンクが好きだったらピンクの服をあげるのが正解だよな」「ジェンダーバイアスをかけないように過剰に意識するのも私の考えの一方的な押し付けなのでは?」と悶々としたのを思い出しました。
ねむ:そうなんですよね。いろいろ考えちゃう。でも、子供が育っていく中で親の影響を受けないということはないし、人間と人間が出会えば必ず影響を与え合うものなんですよね。それに、子供の服をいただく立場になって気づいたことなのですが、自分の子供って何を着ていてもかわいいし、ちょっと趣味の合わない人からいただくブリブリのリボンの服もかわいいんですよ。「あなた、これも似合っちゃうの?」って(笑)。親の立場からすると、プレゼントしてくれたその気持ちがうれしいんですよね。
——それを聞いて安心しました(笑)。
ねむ:親がかけちゃう呪いの話で言えば、親は他人と思えたらいいですよね。親に言われる言葉と他人に言われる言葉だったら、親の言葉のほうが重みがある。どうしても親といる時間が長いし、親の影響を強く受けちゃいがちだけれど、「親も自分とは違う人間なんだな」と切り離せたらいいのかなと。
小さい時は親は絶対的な存在で、親は親でしかないけれど、大人になってふと「お父さんって会社の人や同世代の人から見るとちょっと煙たがられてるんじゃないの?」って思ったときがあったんです。そう思えると、親と子供の曖昧だった境界線がはっきりして切り離せるようになって楽になるんじゃないかなと思います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
子供にランドセルの色を押し付けるのは“呪い”? 親になって思ったこと【ねむようこ】