婚活はなぜしんどいのか。アプリで微妙な気持ちになる男性とばかり出会うのはなぜなのか。「普通の人」はどこにいるのか──。
婚活をしたことのある女性なら誰もが抱いたことのあるはずの疑問や違和感について、まさにそのような問題をテーマにした小説『結婚のためなら死んでもいい』(新潮文庫)を上梓した作家の南綾子さん(40)。
『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)で婚活のモヤモヤを語った桃山商事のワッコさん(33)と、漫画『普通の人でいいのに!』がSNSで話題になった漫画家の冬野梅子さん(35)をゲストに迎え、3人で婚活について語り合っていただきました。
会う時間帯は昼か夜か問題
南:前回、ワッコさんが「沈黙が続くとお店の人の目が気になる」と言ってましたが、私はそこってほとんど気にならないんです。都心の昼のカフェだとアプリ経由の男女がたくさんいて、みんなどこかしら様子がおかしいんですよ。ぎこちないからすぐわかる。
梅子:そんなにすぐわかるものですか?
南:お店に入った瞬間すぐわかりますね。「あっちもアプリ、こっちもアプリ」みたいな。不自然なのは自分たちだけじゃないとわかってからは、周りの目も気にならなくなって集中できるようになりました。
ワッコ:集中(笑)。南さんは、アプリの男性とはお昼にしか会わないんですよね? わたしは基本、夜しか会わないので意外だったのですが、昼に会う方がメジャーなんでしょうか。
南:夜会うのって、しんどくないですか?
梅子:時間も体力も地味に奪われますよね。
南:お金もかかるじゃないですか。昼だったらお茶をがぶ飲みしたらすぐ出られるし。
ワッコ:確かに。でもわたしの場合、アルコールが入らないと知らない人としゃべれないんですよ。カテキンとかだとちょっと……。
南:カテキンって(笑)。
自然光が明らかにするもの
ワッコ:お酒がないと会えないっていうのは、自分の心の弱さ故なんですけど。
南:私は自分がお酒を飲まないのもあって、「夜しかダメ」と言ってくる人とは会わないと決めてます。お茶だと「丸腰の人」が目の前にいる感じがして、そこもいいなと思ってます。
ワッコ:丸腰のタイマンですね(笑)。
南:そうそう。ありのままのその人がやって来る、みたいな。
ワッコ:こっちもありのままを見られるってことでもあるけど……。
梅子:昼だと相手の顔がしっかり見えるところもいいですよね。夜はちゃんと見えなくて、2回目に会ったら「別人かよ!」となった時がありました。
南:あ〜、それもすごいわかる!
ワッコ:絶対向こうもそう思ってるだろうなとは思いつつ、「全然違う!」ってなりますよね。
梅子:夜はお店の照明で顔がいい感じに演出されるじゃないですか。太陽の光に照らされた時に初めて真実がわかるというか。
ワッコ:自然光はやばい(笑)。
南:靴が汚いとか服がシワシワとかも、自然光だとよくわかるよね。
ムリと思ったけれど
ワッコ:そういえばわたしの知り合いで、婚活で出会った男性と飲みに行き、勢いでその日中にお付き合いを始めた人がいるんです。自然光で冷静に相手のことを見たら、生理的に無理だったらしいんですけど……。
南:付き合い続けてるんですか?
ワッコ:はい。南さんの小説に、主人公の友人がヤシガニみたいな顔の男性と出会って結婚したエピソードが出てくるじゃないですか。生理的には無理だけど幸せ、みたいな。それと似た話なのかもしれない。
南:ヤシガニ顔の男性の話はほとんど実話で、私の友人とその夫の話なんです。婚約する1ヶ月前に彼女と会った時に、「5秒以上見続けられないくらい顔が気持ち悪い」と話してました。
梅子:それは結構な状態ですね……。
南:でも彼はすごくいい人で、「この人と結婚すれば幸せになれるからがんばる」と言ってました。結婚したらそういう話は聞かなくなりましたね。
ワッコ:慣れたのかな。
南:彼が自分の実家へ挨拶に来た時にすごくしっかり話している姿を見て、「かっこいい」と思ったみたいです。それでちょっとスイッチが入ったと言ってました。
「いい人」なんだけど何かが違う問題
ワッコ:スイッチ入るのがかなり終盤(笑)。ちなみに、さっきわたしが話した知り合いの彼は、梅子さんの漫画『普通の男でいいのに』に出てくるヒロくんに激似とのことです。
梅子:私の中では、ヒロくんも「いい人」のイメージです。
ワッコ:確かに。可もなく不可もなく、みたいな感じですよね。
梅子:悪人ではないというか……私はあの漫画で、ずる賢さや人の足を引っ張ろうとするところがない人のことを「いい人」として描きました。けれど主人公の未日子は、そんな「いい人」であるヒロくんに対して「なんか違う」と感じている。
ワッコ:感覚的にはすごいわかるんですけど、実際のところ何が「違う」んでしょうね?
梅子:アプリとかでも、ああいう「いい人」って多いじゃないですか。結婚に前向きで、世の中の人全般を好意的に見ていて、裏もない。それってシンプルなんだけど、反面、何も考えていないとも言える。
南:何も考えていないところが嫌いなんじゃないですか?
梅子:そうだと思います。何も考えてないのがわかるから、「これじゃ何も合わないな」ってなる。ただ、そういう「可もないけど不可もない」というのが、みんなが言うところの「いい人」なんじゃないかなとも思うんです。
ワッコ:「不可がない=普通」ってことにされがちですよね。
梅子:そうそうそう。不可がない人だと、周りから「その人で決めちゃいなよ」みたいなことを言われがちというか。「殴らないしいいじゃん」みたいなレベルなんですけど。
ワッコ:わかる。男性はギャンブルとかモラハラをしないだけで「不可がない=普通=いい人」みたいに言われて……なんか……有利ですよね。
梅子:ギャンブルしない・殴らない・正社員、その3つが揃えば「いい人」みたいな。
ワッコ:すごい簡単。
梅子:一方でこちらには、「30過ぎてるんだから全てにおいて妥協しろ」という大前提があるなと思う。「好み、語るべからず」みたいな。
妥協すれば幸せになれる?
ワッコ:妥協ってよく言われるけど、なんなんですかね……。
梅子:周りで結婚している友人を見ても「妥協してる」っていう感じは別にしないので、正直よくわからないですね私は。
南:婚活している女性を超ざっくり分けると2つに分類できると思ってるんです。もちろんそれは雑過ぎる分け方なんですけど。
ワッコ:どういう分け方ですか?
南:一方は、多少のことに目をつぶってもどうしても結婚したいという人で、とにかく誰かの奥さんになりたいという気持ちが強い。もう一方は、結婚という形にはこだわらないけど、好きな人とパートナーになりたいという人ですね。
ワッコ:なるほど。
南:婚活を続けてみて、自分は後者なんだなと思うようになりました。30代後半の時に、条件のいい人にアプローチされたことがあるんです。性格がよくて、若くて、いわゆる高スペックと言われる男性でした。けど、その人の価値観や考え方の面でどうしても納得できないところがあった。
ワッコ:それは厳しいですね。
南:自分に対して他人目線になって「その男いけないんだったら、あんた一生結婚できないよ」と突っ込んでました。この人で「妥協」できなかったら、誰とも妥協できないんじゃないかって。
梅子:うーん。
南:私はそこで、だったら一人でいいという道を選んだんです。
間接照明が部屋に必要かどうか
ワッコ:決断したんですね。
南:どうしても結婚したいか、納得できないなら一人でもいいか。最終的にはそこの決断になるんじゃないかな。「絶対に一人はイヤ」という人もいて、そういう人は多少のことには目をつむるんだと思います。きっと目をつむっていても得られる幸せがあるんだと思う。誰かが側にいてくれることが楽しくて、幸せ。根本的なところで考え方が合わないなと思っても側にいてくれれば、幸せ。
ワッコ:それはそれでひとつの考え方ですよね。
南:うん。一方で、誰かが側にいたって、相手が考えていることが気に食わないならそれは不幸なんだという人もいる。私はそちら側なんだろうなと思ってます。
梅子:わたしも同じ考え方ですね。なんとなくイメージとして間接照明が浮かぶんですけど、そんなに欲しくないものを部屋に置いておく必要って、やっぱりないじゃないですか。
ワッコ:確かに(笑)。
梅子:「これだ」っていう感覚がないなら、なくてもいい。妥協して結婚しても「わたしは妥協した」という事実だけが残り続けそうな気がしています。私はもともと「何歳までに子供が欲しい」とか考えたことがないからかもしれないんですけど。
ワッコ:なにがなんでも結婚したいという人は、やっぱり子供や家族が欲しいんだろうなと思います。わたしもお二人と同じく、そういうモチベーションは皆無です。でも「いい人がいたら結婚したい♪」みたいに話すと「そんな呑気なこと言ってるからダメなんじゃない?」と言われたりして……。「結婚したい」にもグラデーションがあることを伝えるのが難しいなと感じています。
(構成:森田雄飛/桃山商事、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
妥協しなきゃダメなの? 婚活で感じた「好み、語るべからず」な空気