暑くなってくると、「今年も夏バテか……」と全身がだるい、顔色が悪い、めまいがする、頭が重いといった不調に悩まされることが増えます。
臨床内科専門医で女性外来がある正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長によると、「気温が上がると、夏バテなどで立ちくらみを伴う脳貧血を起こす人が増えます。ただし、脳貧血は鉄が欠乏する貧血という病気とは原因が別で、対処法も違います。混乱する患者さんは多いのですが、対処法を間違うと改善しないので注意しましょう」ということです。
夏バテによる脳貧血と、病気の貧血では何がどう違うのか、詳しく教えてもらいましょう。
脳貧血は脳の血流が不足する状態
正木医師はまず、初夏から夏に増えるという「脳貧血」について、こう説明をします。
「気温に適応するために体温や血圧を調整する自律神経に負荷がかかってバランスが崩れる、一時的に血圧が低下する、また、血液を心臓に戻す機能が低下して脳に十分な血液が流れなくなることで起こります。
長時間の立ちっぱなしや運動、長湯、また疲れが溜まっているときなど、目の前が暗くなる、頭がふらふらとして立ちくらみがする、顔面が蒼白になる、冷や汗がひどい、めまいなどの症状が現れ、意識を失うこともあります。女性に多い症状で、医学的には『起立性低血圧症』と呼びます」
そういった症状には思いあたりますが、急に脳貧血が起こった場合はどうすればいいのでしょうか。
「可能であれば、すぐにあお向けに寝て足を上げ、頭のほうが下がるようにして安静にすると、数分で回復するでしょう。寝転ぶのが無理な場合は、さっとその場で座って頭を低くしましょう」と正木医師。
貧血は鉄が不足してヘモグロビンの濃度が薄くなる
次に、「貧血」について、正木医師は次の説明を続けます。
「貧血は脳貧血とはまったく違う病態で、血液中のヘモグロビン(赤血球の赤い色素成分)の濃度や、赤血球の数が少ない状態を言います。貧血の診断は、血液検査をしてヘモグロビンの濃度の数値を確認します。その基準値は次のようになります」
<血液検査でのヘモグロビンの基準値>
女性:11.4-14.6g/dl・男性:13.0-16.6g/dL
※1デシリットルの血液中のヘモグロビンの量(グラム)を示す。
貧血と診断するガイドラインについては、
「WHOの基準では、ヘモグロビン濃度が成人女性・小児は12g/dl未満、妊婦・幼児は11g/dl未満、成人男性は13g/dl未満の場合に貧血と診断します」と正木医師。
では、ヘモグロビンが少なくなる原因は何でしょうか。
「ヘモグロビンは血液中で酸素とくっついて(結合)全身を巡り、酸素をすみずみまで運ぶ役割があります。そのヘモグロビンのおもな成分は、鉄を含む『ヘム』という色素と『グロビン』というタンパク質です。体内の鉄が少ないと必然的にヘモグロビンも少なくなるため、全身に酸素を運びづらくなって酸素が不足し、多様な不調に見舞われるようになります。そこでこの病気を『鉄欠乏性貧血』と呼びます。
貧血が関わる病気はいくつかありますが、その80%以上が鉄欠乏性貧血であるため、一般に貧血というと、このタイプを指します。治療が必要な病気です」(正木医師)
貧血は血液量が減っているのではない
ときに、貧血は全身の血液の量が少ないのだと思われる場合がありますが、そうではなく、血液が薄い状態だとイメージしていいのでしょうか。
「そうです。脳貧血の場合は脳の血流不足であり、鉄欠乏性貧血の場合は、鉄が欠乏して血液中のヘモグロビンの濃度が薄くなり、酸欠状態で呼吸や血色の変化、血流悪化などによるつらい症状が出てくるわけです。全体の血液量が減るわけではありません」
下まぶたの裏を確認。貧血に特有の症状のポイント
汗をかく季節になって冒頭で述べたような症状だと、夏バテや脳貧血を疑うと思いますが、実はもっとも多いという鉄欠乏性貧血との違いについて、正木医師はこう説明を続けます。
「まず、夏バテによる脳貧血も鉄欠乏性貧血も、疲労感、けん怠感、眠気、顔色が悪い、めまい、立ちくらみ、頭が重い、肩がこる、食欲がない、胃腸の不調などの症状が現れます。診断として違ってくるのは、暑さで自律神経のバランスが乱れることによる夏バテなのか、脳貧血なのか、また、鉄の欠乏による貧血なのかという点です。
それは先ほどお話ししたように、血液検査で診断ができますが、鉄欠乏性貧血の場合は、脳貧血と同様の不調に加えて次のような症状が現れます。これは夏バテによる脳貧血との違いのチェックポイントになります。思いあたることはありませんか」
<鉄欠乏性貧血を疑う症状>
・下まぶたを指で降ろし(あっかんべーをする)、結膜を見ると白い。
・ツメの下の皮膚が白い。
・ツメが反っている。また、割れやすい。
・顔面が蒼白か、黒っぽいと言われる。
・朝、起きるのがとてもつらい。
・抜け毛、切れ毛が多い。
・肌あれがひどい。
・口角が切れやすくなる。
・舌がヒリヒリする。
・食べ物の味がわかりにくくなった。
・脚がむずむずして夜寝つきにくい(レストレスレッグス症候群)。
・氷をやたらと食べたくなる(氷食症)。
・動悸、息切れがひどい。
「このうち、動悸や息切れは、鉄の欠乏による貧血で心臓が酸素不足になってくると、体が少しでも酸素を運ぼう、また取り込もうとして呼吸に影響し、心拍数が高まるために起こります。
また、夏バテと同じ症状の肩こり、だるさ、疲労感は筋肉の酸素不足、めまいや立ちくらみには脳の酸素不足なども関係している場合があります。
いずれにしても、女性は夏バテなどの疲労と混同して、脳貧血、鉄欠乏性貧血ともに見過ごすことが多いので、チェックポイントにひとつでも思いあたれば早めに内科を受診してください」と正木医師。
脳貧血と貧血の違いは「鉄が欠乏しているかどうか」にあり、症状によって貧血を疑うことは可能だということです。ただし、「最近、貧血に特有の症状がなくて、一般の血液検査でもわかりにくい無自覚の『隠れ貧血』が20~40代の女性にとても増えています」と正木医師。これについて、次の後編で詳しくお伝えします。ぜひ合わせて参考になさってください。
(構成・文 品川 緑 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
夏バテと間違えないで! 初夏から貧血が増える理由を専門医に聞きました【前編】