お金を稼いでいる人や才能に恵まれて活躍している人、いつもたくさんの友達に囲まれている人を見て「羨ましい。それに引きかえ私は……」と落ち込んでしまう経験は誰にもあることなのでは?
でも、それってみんなが持っているように見えるから欲しいだけじゃないの? みんなにとっての幸せが自分の幸せとは限らないのでは?
2017年3月に出版された書籍『宝くじで1億円当たった人の末路』(日経BP社)のコミック版『マンガ 宝くじで1億円当たった人の末路』(同)が昨年末に発売され、シリーズ累計18万部を突破しました。
「宝くじで1億円当たった人」「『友達ゼロ』の人」「子どもを作らなかった人」の“末路”を追うことで、世間がイメージする「幸せのカタチ」に対して「それって本当?」と疑問を投げかけています。
“末路本”企画のきっかけは? 自分にとっての幸せの見つけ方は? 著者で「日経ビジネス」の副編集長でもある鈴木信行(すずき・のぶゆき)さんに前後半にわたってお話を伺いました。
人気の“末路”本、裏テーマは「同調圧力をぶっとばせ」
——『宝くじで1億円当たった人の末路』は電車の広告で見かけてまずタイトルにひきつけられました。マンガ版は人気のあるエピソードを厳選したと伺いましたが……。
鈴木:書籍のほうは、ある意味「ごった煮」というか、いろいろなエピソードの詰め合わせだったので、マンガ版は、一冊を通して伝えたいことがもっとクリアに伝わるように23本の“末路”エピソードを10本に絞りました。
——伝えたいことと言うのは……。
鈴木:まえがきにも書いた「同調圧力をぶっとばせ」ということですね。日本は暮らしていて便利だし、楽しいは楽しいのだけれどみんないろいろな悩みや不満を抱えている。その最大の原因は「みんなと同じものを自分も同じように手に入れなきゃ」という欲望、同調圧力なんですよね。同調圧力でがんじがらめになっている中で、いろいろな末路を知ることでちょっとでも気が楽になってほしいなと思いました。
——「ウートピ」でも、子供がいる女性に向けて「外食でも全然いいじゃん!」という記事を掲載するとアクセスが上がるんです。「母たるものこうあるべき」という同調圧力に苦しんでいる人が多いのかなと感じることはあります。
鈴木:わかるなあ。「手料理を作れ!」とかね。結婚してない人には「なぜ結婚しないの?」という同調圧力がきちゃうし、結婚したらしたらで「子供作らないの?」とか「よき母であるべきなのに、何でそうしないの?」っていうね。
——鈴木さんは新卒で日経BPに入社して、現在は日経ビジネスの副編集長と伺ったのですが、どういう文脈で「同調圧力」を感じていたのですか?
鈴木:いろいろありますけれど、やっぱり仕事は仕事で「こうあるべき仕事のかたち」というのがあるんですよね。世の中では、「新しい働き方」と言われているけれど、なかなかそうはいかない。
多くの人は、どうしても帰りにくい雰囲気があって残業するし、なかなか働き方改革も進まない。その裏側には同調圧力があるんですよね。飲み会にしても、やっぱり行くべきだって思っている。働き方改革を進めるにしても、一人一人が自由な感じでいいんじゃないかなってずっと思っていましたね。
——先ほど「母親だからこうあるべき」という例が出ましたが、時には男性のほうが女性よりも同調圧力をより強く感じているのかなと思うのですがいかがですか?
鈴木:強いですよ。今は流動性が進んでいると言われていても、多くの人は同じ会社でずっと過ごすわけですよね? そうすると同調するのが一番早いんですよね。仕事が進みやすいというか。同じような考え方を持った人がいて、同じように会議して、同じような発想で同じような仕事を進めていくと、スピーディーに効率化が進む。でも、それだとイノベーションなんて起きないですよね。
アップルやグーグルとか、GAFA(ガーファ)*って呼ばれている人たちは自分の個性を押して仕事しているから、イノベーションを起こすにはいろいろな人がいていいんだけれど、仕事を円滑に進めるにはなるべく同質的なほうがよくて、日本企業はそれで成長してきた側面もあるわけで……。
なので、この本を読んで、特に昭和世代に染み付いているであろう同調圧力から読者が少しでも楽になってもらえればと思いました。あともう一つは、「幸福指南本」への違和感が企画のきっかけですね。
*GAFA:グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の4社のこと。
ビジネス書の第三の道を目指した
——「幸福指南本」への違和感?
鈴木:世の中の「幸福指南本」って二つに分けられるんです。「死ぬ気で挑戦すれば何だってできる」という「なせばなる」系と、「あなたはありのままでいい」系です。
——自己啓発書とかビジネス書ですね。私もよく買うんですが、「そうか、死ぬこと以外かすり傷なんだ!」って思ってアドレナリンが出るんですが、結局傷だらけになって疲れて「ありのまま系」に流れて、気がつけばその間を行ったり来たりしています。
鈴木:みんな悩みを抱えているんだけれど悩みって大別すると3つくらいしかないんです。お金がないか、仲間がいないか、才能がないかのどれか。で、本屋に行って今おっしゃったような本を手に取るんですよね。
第1パターンはお金も仲間も才能も身に付けましょう。10年後の自分をまずイメージしてください、と。そこから逆算して、今あなたがやるべきことを考えて、同時に年収何百万、何千万のスキルを磨くために資格を取りましょう、と。すごく立派でいいと思うんだけど、「それってどうよ?」っていう。
——読んだ後は元気になるんですよ。「よし、明日からバカは相手にしないぞ!」って思うんです。
鈴木:しばらくは元気になるよね。ちゃんと実践する人もいると思うんですよね。手帳をつけたり……。
——メモとか!
鈴木:そう、「○○発想法」とか。でも、なかなかみんなができることじゃないんですよね。それで「どうしようか」って思って手に取るのが、「お金も仲間も才能もそんなの考えなくていい。あなたはありのままで素晴らしい。お父さんとお母さんが奇跡の確率で出会って、そのまた奇跡によって今のあなたがここに存在している。十分に奇跡で価値があることなんだから、ありのままでいいのだ」というのが本屋の一角を占めるわけ。
でも、「よっしゃ、ありのままでいこう!」と思って1日中ボーっとして「ありのまま」でいるのも違うよねって。もっと中間というか、普通のでいいじゃんって。さっきの例で言えば、お金と仲間と才能の全部をコンプリートしなくてもいい。でも、1個や2個はあったらいいんじゃないの? と思ったのがきっかけだったんです。
でも「お金なくてもいいじゃん」と言うだけでは説得力がないし、ただの説教本になってしまうので、そこまでみんなが思うなら、お金をたくさん持っちゃった人がどんな末路をたどったか見てみましょう、とか、「友だちがいないと生きていても価値がない」って思うなら、友だちゼロの人がどんなふうになるのか見てみましょう、とかね。それが“末路”で伝えたかったことなんですよね。
——ビジネス書の第三の道を示したってことですよね。
鈴木:そんな感じですね。例えば、30代女性なら世の中からの結婚圧力が強くて「結婚してない私はダメなんじゃないか?」って思っちゃうけれど、調査を見てみると、子どもがいる人よりも子どもがいない人のほうが人生の満足度がちょっと高いというデータもあるんです。「人それぞれでよろしいんじゃない?」というのがわかるので、手にとっていただければと思います。
※後編は2月7日(木)掲載です。
(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子、撮影:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
同調圧力がしんどい…“末路本”が問いかける「幸せのカタチ」