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世間が押し付ける“幸せモデル”に惑わされないで…山本文緒が7年ぶり新作で描きたかったもの

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作家の山本文緒(やまもと・ふみお)さんによる7年ぶりの新作小説『自転しながら公転する』(新潮社)が9月に発売されました。

主人公・都(みやこ)は母親の看病をするために東京から茨城・牛久の実家に呼び戻された32歳の女性。「自転しながら公転する」地球のように、家事と仕事、恋愛、親の看病で頭がぐるぐるして自分の幸せが分からなくなっていく都の姿を描いています。

7年ぶりの新作小説となる山本さんに話を伺いました。

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7年ぶりの新作、「共感」に挑戦したけれど…

——『婦人公論』のインタビューで、これまでは読者に共感してもらいたいと思ったことがなかったけれど「『共感、受けて立とう』という思いで書きました」とお話しされていました。「共感」に挑戦されてみていかがでしたか?

山本文緒さん(以下、山本):確か本が出る前か出た直後か、まだ読者の方の感想をまったく読んでいないときにお話ししたことなのですが……。それまで私の小説では癖のある人物が多かったので、今回は同性に嫌われないような子を主人公にしたつもりだったんです。でもいざ本を出してみたら、都にイライラした読者が多かったようで驚きました。そして、私やっぱり「共感」ダメだわ、「共感」失敗したなって思いました(笑)。

むしろ都の年下の幼馴染のそよかが人気でしたね。どちらかというと、私の中でそよかは理屈型でちょっとだけ思いやりに欠けるというか、ズバズバ言い過ぎるところがある子として描いたのですが、今の人はわりとそういうタイプに好感を持つみたいですね。だから都にイライラするんだなって。時代の流れを感じます。

——母親が更年期障害になったのをきっかけに東京から茨城県牛久の実家に呼び戻された32歳の女性を主人公に執筆した経緯を教えてください。

山本:牛久は、一時期筑波に住んでいたことがあって近くの牛久にアウトレットモールが開業したときに遊びに行ったんです。目の前に大仏があるし、不思議な場所だなって。私は小説で、東京まで日帰りで行ける距離に住む女の子を主人公を設定することが多いんです。首都圏の縁(ふち)にいて、昼間は都内に行くんだけど夜に地元に帰ってくる。その環境の落差のようなものを書きたいと思いました。

私が育った横浜もそんな感じなんです。横浜というと都会をイメージされる方が多いかもしれないのですが、都会なのは港の周辺だけでほとんどは山。ベッドタウンでイオンすらないような地域で日帰りで東京に行って帰ってくると違いをまざまざと突きつけられる。「東京にはお金がないと住めない。でも本当に住みたいの?」と揺れる感じがありましたね。

——アパレルショップの販売員として働く非正規雇用の女性という設定にしたのは?

山本:もともとアパレルで働く女の子を書きたいと思っていました。でもファッション業界の中枢で商品を作ったり、企画したりというのではなくて、服を直接売っている女の子を書きたいと。自分が洋服を買うとき彼女たちに触れ合う機会があるのですが、どんな仕事でも中枢や中心で働いている人よりも、現場近くで働いている人のほうに興味を惹かれるんです。

もしかしたら私自身、正社員経験が少なくてずっとアルバイト情報を見続けるような生活だったから興味があるのかもしれません。小説家というのは安定した仕事ではないし、自分が書きたくなくなったらそこで終わり。不安も多い職業なのですが、不安と同時に自由さもあるんですよね。そういう感じを書きたいと思いました。

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——都が恋人の貫一との会話で言っていた「一人っ子だから私しかいないの」というせりふが印象的でした。というのも、ただでさえ女性であるというだけで世間から家事と子育て、仕事との「両立」を求められる。多くの女性が置かれている、あるいは将来置かれるであろう状況と、親の看病と仕事を両立している都を重ねてしまいました。

山本:日頃から一人っ子のつらさはすごいと思っていて書きたいテーマの一つでした。兄弟姉妹がもう一人いれば分担してできることが一人っ子はすべて自分で背負わなければいけない。もちろんきょうだいがいても何もしてくれなかったら頼りにならないかもしれませんが、都のつらさは一人っ子であるがゆえのつらさでもあります。一人っ子の女性が結婚したら、自分の両親と相手の両親の4人を気にかけてあげないといけないのはつらいですよね。

両立については、個人的には「女性にだけ」とは思っていません。ただ、女性には国から「働いて、産んで、育てて、自分で貯金もして、老後までに2,000万円貯めて、人に迷惑かけることなく死んでいってね」のような圧力がかけられているのはすごく感じます。そして、みなさんその要求にわりと素直に応えているような気がします。

「幸せ」って言うけれど、それって誰の幸せ?

——都ははっきりとしたビジョンはないものの、「幸せになりたい」と願っている女性です。「幸せ」も今作のテーマの一つだと思うのですが……。

山本:恋人の貫一から「幸せ原理主義者」と揶揄(やゆ)されるほど幸せになりたいと願っていた都が最後には「少しくらい不幸でいい」と口にするまでにたどり着く過程を書きたいと思いました。

そもそも「幸せになる」というけれど、どの時点で幸せだったら人生がすべて幸せなのかは判断が難しいですよね。「幸せ」そのものが悪いわけではないですが、「幸せになる」と動詞で表現されることに昔から違和感がありました。「なる」というと達成したら終わりというニュアンスもある。達成しても人生は続くのになあと不思議に思っていました。

もしかしたら国に「幸せ」を逆手に取られているのかなとも思います。結婚して子供を産んで家を建てて幸せな家庭を築いて2,000万円貯めて孫に囲まれて死ぬというのが「幸せ」のモデルですから。あなたたちもモデルのようにやってくださいよと要求されて、「それが幸せなんだ」とたくさんの人が思ってしまう。もちろんそれで幸せな人もいるけれど、そうでない幸せも存在することに思い至らないというか、必ずしも国や世間が提示する“幸せモデル”が自分に当てはまるとは限らない。無理にそちらに寄せていってしまって生きづらさを感じている人もいるのではないかなと。

無理に結婚をしなくてもいいし、子供も産まなくていいし、親の介護もしなくていい。自分がやりたいように自由に生きてもいいはずなのに、なかなか自由になれないのは何でだろう? と思います。

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——もしかしたら自分の本当の欲望というか気持ちに気づいてないのかもしれないですね。最後に読者へのメッセージをお願いします。

山本:誰でもこうしたいという希望はあって、それはまごうことなき自分の本心だと思っているかもしれないのですが、その50%くらいは今という時代の影響なのでそこを忘れないでほしいですね。

例えば、子供が欲しい、結婚したい、家を建てたいと思ったとして、特に私の世代はそういう人が多かったのですが、半分くらいは時代の要求だったんですよね。今思えば本心ではなかった。少なくとも私はそうでした。

時代によって希望や願望、欲望は変わるから自分の欲望の半分は時代に押し付けられている、というのは言い過ぎかもしれないですが、どこかで時代に影響されているということを自覚すると少し楽になるのではないかなと思います。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

情報元リンク: ウートピ
世間が押し付ける“幸せモデル”に惑わされないで…山本文緒が7年ぶり新作で描きたかったもの

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