25歳のときにAVやアダルトグッズを制作・販売するメーカー「トータル・メディア・エージェンシー」(以下、TMA)に入社し、以降、営業職として4年目になる堀江もちこさん。
堀江さんの著書『“オナホ売りOL”の日常』(光文社)には、若い女性がアダルト業界の裏方として働くことについて、リアルな現状が事細かに書かれています。
たぶん多くの方が気になるであろう「なんでこの仕事に就いたの?」「具体的にどんな仕事なの?」「偏見はないの?」の三本柱を中心にお話をうかがいました。全3回に分けてお届けします。第1回は現在の仕事に就くまでのことを伺いました。
職を転々とした20代前半
——「オナホ(オナホール)」といえば、主に男性の自慰行為をサポートするアイテムですよね。単刀直入にお聞きしますが、どうして“オナホ売りOL”になろうと思ったのでしょうか? きっかけがあれば教えてください。
堀江もちこさん(以下、堀江):AV業界とかかわる最初のきっかけは、大学生のときにアルバイトでAVのライターをやったことでした。1日5本AVを観てレビューを書くバイトです。漠然とマスコミ関係に就職したいと思っていたので、何かの足掛かりになればと思いまして。
——以前からアダルトに興味があったんでしょうか?
堀江:それが、そのバイトを始めるまでAVもエロ本ほとんど見たこともなかったんですよ。だからか、多少の偏見というか「いやらしいもの」という認識がありました。でも、大学のときに社会学概論の授業で紹介された永沢光雄さんの『AV女優』(ビレッジセンター出版局)という本を読んで、AV女優さんたちへの認識が変わったんです。ひとりひとり真面目に仕事に向き合っているんだ、いろんな事情をかかえているんだって。
——ほとんど観たことない状態からAVライターにって、躍進っぷりがすごいですね……! 大学卒業後はそのままライター業を?
堀江:はい。求人広告の製作会社にライター職で就職しました。だけど、続かなくて……。業務量が多いのに好きなことが書けないというのも苦しかったです。
広告という仕事だから仕方ないのですが、クライアントの意向に沿ったものを書くという作業に楽しみを見出せなくなってしまい、退職しました。
その後は、何社かライター職を転々としてからAV会社の広報職に就きました。ところが、営業の人が辞めたとかで、急に異動することに……。広報職で入社したのに、広報の仕事は3か月くらいしかできなかったんですよ!
——えっ、たった3か月で!? じゃあ、営業に異動って聞いたときは……。
堀江:正直、イヤだなと……(苦笑)。営業職に対してノルマがあっていっぱい怒られそうってイメージもありましたし、過去の仕事で見てきた営業さんはみんな大変そうだったので。
こんなことやりたかったわけじゃないのに
——それでも営業職を受け入れたのはなぜなんでしょう。
堀江:渋々ですね。3か月しか働いてなかったので、ここでやめたら次がないと思って、本当、渋々です。そのときは20代半ばくらいだったので、そろそろ何かをやり遂げなければいけないという焦りもありました。理想の自分と当時のの状況がすごく離れているような気がして、焦っていたんだと思います。
——わかります……。24、25歳くらいの時って、「ここで失敗しちゃうと、もう未来がないんじゃないか」って、そんな強迫観念を持ちがちですよね……(遠い目)。本当はそんなことないんですけど。
堀江:そうなんですよ! 30歳を過ぎたら新しいことができないと思い込んで、何としてもここで30歳以降のキャリアの下地をつくっておかなきゃって思ってました。今考えると、ただの思い込みなんですけど。
——ホント思い込みですよ。いくつになっても再スタートをしている人、たくさん見てきました。でも、ありますよね。20代のうちに「何者か」になっておかなきゃという焦り。では、“オナホ売りOL”になったのは、「アダルト業界が好きで、なりたくてなった」、というよりも「後には引けない」という、割と消極的な理由だったと。
堀江:本当に好きというよりは消去法ですね……。「大学生のときにやったAVライターの仕事が楽しかったな」ということを思い出して、辞めるよりはこっちのほうがよさそうかなくらいの感じで。異動した当初は毎日「こんなことやりたかったわけじゃないのに」って思っていました。
——「こんなことやりたかったわけじゃないのに」という気持ちから、営業の仕事が楽しいと思えるようになったのはいつでしょうか。
堀江:営業を続けていくうちに徐々にでしょうか。日々“オナホ売りOL”をしていくうちにこの仕事が楽しくなってきました。そうやって仕事をしているうちに、自信もつきましたね。
——自信がついたのは、仕事関係の方に褒められたとか、自分で自分に納得がいったとか、何か要因があったんですか?
堀江:営業先のアダルトショップの方が、いろいろ助けてくれて、教えてくれて、それで自分が成長したと実感できたからだと思います。今、アダルト業界で仕事をし始めて5年になりますが、地に足がついたというか、ここに自分の居場所があると思えるんですよ。20代半ばに感じていたような謎の焦りも、もうないです。
——おお。「何者か」にならなきゃという焦燥感が成仏したんですね……!
堀江:はい(笑)。今は、今後のキャリアをどうしようっていう焦りが全然なくて、「ま、いっか」くらいの落ち着いた気持ちです。もしかしたら突然、営業から別の部署に異動になるかもしれないですし。漠然と海外のアダルト業界の仕事に興味はありますが、それも状況次第で考えればいいかなと思います。
やりたい仕事≠合う仕事
——今現在、仕事以外でも思い込みや焦りってあまりないですか? たとえば、何歳までに結婚すべき、とか。
堀江:この職に就いたころ、8年付き合っていた彼と結婚しようと思っていました。けれど、それがなくなっちゃったから、結婚はまあいいかなって思ってます。
——本の中にも書かれてましたが、当時の彼氏さんはアダルト業界を辞めてほしがっていたそうですね。
堀江:たぶん、彼に限らずそう考える男性はいると思いますし、これから先も、仕事を理由に普通の家庭を持つのが難しくなる場面もあるかもしれません。アダルト業界の中でも既婚の方はいますし、わたしも仕事を理解してくれる人だったら家庭を持つのもよいとは思っています。だけど、だからといって、結婚のためにこの仕事を捨てる気はないんです。結婚の優先順位は2番目、3番目くらいですかね。
——結婚に限らず、人生においてどういう選択肢を選んでも、これが正解だったと自分で思える生き方ができているという感じですか?
堀江:そうですね、「なんとかなるだろう」と思えるようになりました。それは、やっぱりこの仕事が自分に合っているからだと思います。合う仕事を見つけて続けられたからこそ、今の自分になれた気はしています。
——堀江さんの場合、好きな仕事に就く、というよりも、就いた仕事を好きになった、という感じですよね。
堀江:そうです、その通りです! 別に営業職に就きたかったわけじゃないんですよ。本当にやりたい仕事はライターだった。でも合わなかったんです。やりたいって自分が思う仕事と、合う仕事って違うのかもしれませんね。
——これは真理……ちなみに、仕事を好きになるためにしていた工夫があったら教えてください。
堀江:実は、目の前のことをやっていただけなんですよ。本当に、ただそれだけ。営業先の方が、「こういう資料がほしい」とかいっぱい課題を出してくれたので、ひたすらそれに応えていました。そのうちに、だんだんと仕事のやり方がわかってきて、自分の頭で考えられるようになって、仕事が楽しくなってきた感じです。
——今、目の前のタスクをこなすのに精いっぱいで、「自分は何をやってるんだろう?」って思ってしまう方に響く言葉ですね。次回は、あまり知られていない“オナホ売りOL”の仕事内容についてお聞きしたいと思います。
(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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