山崎ナオコーラさんの新刊『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社)が7月10日に発売されました。ところで、「ブス」の自信の持ち方……というタイトルを見て、どう思いましたか?
誰だって、ブスと言われるのは嫌です。ブスだから~と自虐するのも嫌です。でも、「ブスって言わないようにする」だけでそのモヤモヤは解消されるのでしょうか。
ブスという言葉で人を傷つけようとする人の背景には何があるのか。ブスという罵りを許してきた社会にはどんな問題があるのか。容姿に自信がない人が傷つかずに生きるにはどうすればいいのか。
本書は、ブスという言葉を使わずには議論できないこと、考えられないことがあると気づかせてくれます。山崎さんと、ブスについてたっぷり語り合いました。
社会を変えなければいけない
——自分が「ブス、ブス」と言われてきて、見た目をよくすることでそれを解決しようとしてきた人ほど、他人の容姿に厳しくなったりしますよね。だからこそ、ブスをテーマにした本って、「こうすればキレイになるよ」とかそういうテーマが多かったように思えます。ブスってこんなに切り口があるものなのかと驚きました。
山崎ナオコーラさん(以下、山崎):デビューしてから15年間、ため込んできたものが全部放出されたんだと思います。
——最初にブスについて考えたのは、いつごろなんでしょうか?
山崎:ブスって言葉が私にとって身近になったのは、デビューしてネットに「ブス、ブス」っていっぱい書かれたころからです。そこから始まったと思います。当初は単純に容姿をよくする努力をしないといけないんじゃないかと思ってしまって、どちらかというと自分が悪いんじゃないかという受け取り方をしていました。
でも、「自分は悪くない」「ブスって言う人のほうが絶対に悪い」と考えて始めて、それで「社会を変えなければいけない」というふうに徐々に徐々に変わってきた感じです。
——本を読むと、最初はブスと言って罵ってくる男性への宣戦布告かと思ったのですが、最後のほうでは、「ブスと罵ってくる人は、社会的な刷り込みでそういうことをしてしまっている」というところまで踏み込んでらっしゃいましたね。問題は社会であると。
山崎:私は「ブスと罵ってくる男性が加害者で、これは男性対女性の問題だ」とはとらえていなくて、だから敵は男性じゃないというのを書きたいと思ったんです。罵ってくる人のことは憎んでるけど、男性のことは憎んでいない。
私はデビュー時から一貫して、どちらかというとフェミニンな男性を肯定するような小説を書いてきていて、それを自分の仕事だと思ってきたんです。女性の権利を主張して男性を変えていくというのは私の仕事じゃない、そうではない自分の仕事を見つけたいと思っていたものですから、ラストのほうでは力点がうつっていったのかなと思います。
——自分も「おじさん」という言葉を無意識のうちに悪口として使っているかもしれない、という視点にもハッとしました。ブスと罵ってくる人が現れる社会的背景に踏み込むだけでなく、自分が加害者になるかもしれないという視点にまで踏み込んでらっしゃる。
山崎:私にも、おじさんという言葉を「ブスと言われて嫌だから、こっちからも言ってやる」みたいな気持ちで使っていたことがあったので、そこは自分自身変わっていかなければいけないなと思っています。
身体的なところや容姿を愚弄するのは悪口
——ちなみに、「フェミニストなのですか?」とか「女性のために頑張っているのですか?」とか言われることはありますか。
山崎:言われたことはないですけど、なんとなくの空気で、女性の味方になる文章を求められているのかなと思うことはありました。でも、私はけっして女性の味方ではなくて、弱者の味方でいたいと思っています。性別非公表でやりたいと思っていて、女性と男性を分けて考えることがあまり好きじゃないんです。
もちろん、女性の権利のために頑張っている方はものすごく立派だと思うし、私も恩恵にあずかっているので、そのまま頑張ってほしいと思っています。でも私の場合はたぶん、“女性として”という仕事はしないほうが合っているので……。
——弱者の味方でいたいというのは?
山崎:体制側と弱者であれば弱者の側、大きい側と小さい側がいたら小さい側につこうと思っています。それは芸術家であればみんな思っていることで、太宰治とかもそう書いていましたし、私もそうだなというのは若いころからずっと感じていました。でも、体制側、権力側に対しても悪口を言うのは好きじゃないので、それはしないようにしています。
——悪口か悪口じゃないかの違いってなんですか?
山崎:身体的なところや容姿を愚弄するのは悪口だと思います。主張や批判はぜんぜん悪口じゃないですけど、主張のために身体的なことを言うとか、批判のために容姿のことを言うとかはやっていけないと思います。
弱者や少数派には意義がある
——弱者のために声をあげるというのは、そうしていかないと多様性というものが保持できないからというのもあるのでしょうか。多様性が保持できないと、社会どころか、極端な話、種の存続も危ぶまれますし。
山崎:生物自体が多様性に向かっているようですよ。私、最近「ナショナルジオグラフィック」にすごくハマっていて、ペンギンの動画を観たりしているんです(笑)。ペンギンも同性愛者がいっぱいいるらしいんです。子供を産むということだけが種の存続のための活動だと思いきや、そうではなくて、違うことをやり始めただけで種の存続にとってプラスになる。人間も同じだと思うんです。
——種が生き残る戦略ですもんね。全員が全員同じだったら、同じ条件下でみんな死んじゃうけど、はみ出してるやつがいたら、そいつだけは生き残れるみたいな。
山崎:そうなんです。少数派や弱者にはすごく意義があると思います。たとえば、本だってそうです。売れる本しか本屋さんになかったら本の世界が狭まっちゃうから、あまり売れない本もなくてはいけないと思っていて。私の本は100万部とか10万部売れる本じゃありませんが、たとえ1000部でも意味がある、売れないけれどいい仕事をしているというのを誇るようにしています。
——ご自分の仕事をちゃんとやっているという自信があるから言えることですね。すばらしいです。
山崎:みんなそれぞれそう思えるようになったらいいですよね。そんなに認知されてないけどいい仕事してる、自分は自信があると思えるような社会になるといいです。ブスだって、いろんな顔がいる中で、こういう顔も必要なんだという自信を持ちたいですね。
(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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