父親が認知症になった経験を記録した『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)を上梓した、コラムニスト・フリーライターの吉田潮さん。
実際に介護生活に入ってみて実感したのは、「介護はプロに任せるべき」ということ。「子どもは親の面倒をみてこそ」「施設に入れるのはかわいそう」……そんな思い込みや“罪悪感”の上に成り立つ介護は共倒れになることが多いですが、吉田さんはそうではない介護生活を模索しているそうです。
いつか認知症になるかもしれない親のために、私たちができること、「本当にすべきこと」ってなんだろう? 3回にわたって、お話をうかがいます。
子どもの役割は「介護のプロにつなぐ」こと
——親の介護なんてまだまだ先の話……と思っていたのですが、自分がアラフォーと呼ばれる年代になって、ふと「親にあと何回会えるだろう」と思いまして。年に1度帰省するとして、5回会えば5年。それだけの時間が経てば親がなんらかのヘルプを必要とするかもしれないですよね。「あれ、介護、そろそろ考えなきゃいけない?」って。
吉田潮さん(以下、吉田):若いときの5年とは感じ方も変わってきますよね。でも、元気なときに介護や老後の話をすると親は嫌がるでしょ? 私が30代のときもそうでした。ところが、いつ誰が認知症になるかなんてわからないんですよ。それこそ、自分も発症するかもしれないし。
先日、NHKスペシャル「認知症の第一人者が認知症になった」という番組を観たんです。長谷川和夫先生は40年以上認知症の治療、診断をやってきた人なのですが、そういう人だって予期せず認知症になるんですから。
——誰がいつ介護を必要とするかわからないと、気持ちの備えをしておいて損はないと思います。潮さんのお父さんは「特別養護老人ホーム(特養)」に入所していますが、老人ホームとかデイサービスって実際どんな感じなんですか?
吉田:まぁちゃん(編集部注:吉田さんのお父さん)に面会に行くと、「こんなところ嫌だ」「帰りたい」「寂しい」とこぼすこともあります。先ほどの長谷川先生も、今まで患者さんと接してきて、家族に負担をかけないようにデイサービスを受けたり、老人ホームに入ることを勧めてきたけど、いざ自分がデイサービスに行ったら「つまらん! 早く帰りたい!」とおっしゃっていましたね。
——そうなると、家族は「かわいそう」「家にいたほうが幸せなのでは?」って思っちゃいそうですが、吉田さんは介護のアウトソース推進派ですよね。
吉田:状況によるので一概には言えませんが、うちの場合は「介護はプロに任せるのが一番!」という結論。ちゃんと介護のプロとつないでおくことが子どもの役割だと思うんです。死ぬまで自分が面倒を見ようとか、下の世話をしようとか、仕事を辞めて介護しようとか考えるのではなくて、道筋をつけてあげるのが子どもの役目なんじゃないかな。
そういう意味では、太田差惠子さんの『親の介護には親のお金を使おう! ―あなたを救う7つの新ルール』(集英社)は、とっても役に立ちました。さまざまなケースに合わせたお金の話が載っているんです。やっぱりみんな、気になるのってお金じゃない?
——確かに。お金は心配です。潮さんの本を読んで一番ホッとしたのが、「介護に自分(子ども)のお金を使っちゃいけない」というところ。いざ介護となったら、私の収入では全然足りないので、どうしようと思っていたのですが「親の介護は親のお金で」と聞いて、過剰に心配する必要はないんだなって。
吉田:親に収入や資産がない場合は、負担額が一割になるので、最安値で特養に入れます。「お金がないから入れない!!」と諦めなくてもいいケースもあるんですよ。なので、まず知っておきたいのが、離れて暮らす親の経済状況。収入がいくらで支出がいくらで、どんなものを買っていて、どんなところと契約していて、もしかして株とかやってないよね……? とか、そういうところって子どもは何ひとつ知らないと思いません?
——うっ。知らないです……。
吉田:だよね。全部は無理かもしれないけど、少しずつそこを知るところから始めないといけないんだと思います。
親にお金の話、聞ける?
——でも、親に資産や借金の有無について聞くのは難しくないですか?
吉田:私だって30代のころは聞けませんでしたよ。でも、年金暮らしなら支給額がどれくらいかとか、持ち家だったらローンは終わっているかとか、借家なら、家賃はどこに払っていて、どの銀行口座を使っているのか——。“管理”と言うとおこがましいですけど、最低限のお金の出入りは知っていたほうがいい。
実は借金があるとか、年会費の支払いが高額になっていたとか、いざというときになって発覚することもけっこうありますから。額は小さくとも、解約するまで自動更新されるような契約にも気をつけたほうがいいですね。
——スマホの契約でいろんなオプションをつけていたとかも聞きますね。何を契約しているのか、自分でも把握できていないものがあるかも。それが親ともなると把握は無理なんじゃ……。
吉田:そういうものも含めて書き出してもらうために、コクヨの「エンディングノート」、すごくいいですよ。現在の状況とか、自分の葬式に誰を呼ぶかとか、銀行口座はどこがメインバンクで、何月何日に何の引き落としがあるかとか、そういう情報を一式書き込めるようになっていて。こういうのを書くのが嫌いじゃない人なら、「ちょっと書いてみてよ」みたいな感じで渡しておけば、もしかしたらやってくれるかもしれない。ちなみに、うちは母しか書いてくれなかったけど(笑)。
——「親が元気なうちに」が合言葉ですね!
吉田:そうそう、認知症だけでなく、病気もこれから増えてくるので。高度医療を受けるか受けないかとか、そういう話からするのもいいかもしれない。
——あと、きょうだいがいる場合は、きょうだい間の意思疎通も大事かなと思います。
吉田:私は姉がいてすごく助かった! 家族で話し合うにあたって、私がどこか感情的になったり、お金を出そうとするのをドライな性格の姉が止めてくれた。「それは負担しちゃだめ」「特養でいいよ」「そんなにお金かける必要ないよ」とか、すごく冷静に見てくれる人が家族の中にいるとすごく助かりましたね。
——客観視できないと、罪悪感から各々負担を増やし、結局共倒れになるケースが想定できます。吉田家の場合、お母さんが「お父さんかわいそう」と、自分を犠牲にしてまで自宅介護を貫こうとしたんですよね?
吉田:そう、母がね……罪悪感の塊で。でも、昨年母も体調を崩して。もう体力的にも自分が介護するのは無理なんだと諦めがついたようでした。それまでどれくらいかかっただろう? 2、3年はかかったと思います。
——「お父さんかわいそう」にずいぶん長くとらわれていたんですね。
吉田:長かったですね。でも、私としては介護に疲れて疲弊している母の横で父が糞尿を漏らしている状況のほうが「かわいそう」だと思って。その点では私もドライだったので、母を説得し続けました。さらにスーパードライな姉がいたので、母・姉・私の3人のチームでうまくバランスをとって、今に至ります。
血のつながりよりプロを頼りに
——家族の誰かがホームに入れることに反対したら、説得できる自信がないです。
吉田:先日、タクシーの運転手さんが話してくれたことなんだけど……。彼の奥さんのお姉さんは、仕事をやめて両親を自宅介護しているそうなんです。お姉さん以外の親族はみんな「施設に入れたほうがいい」と思っているけれど、お姉さんは「私がこれだけやってるんだから、私の指示に従って」と、介護方針を決める主導権は自分にあると考えているみたい。
もし、働かなくても金銭的に十分な余裕があって、「私は両親2人の自宅介護をやりたい! やり切りたい!」っていうのなら、どうぞ自宅介護してくださいって思うんです。やりたいならね。でも、やりたくないけど、やらざるを得ないみたいな状況は一番精神的には良くないし、そういうケースで自己犠牲を払っちゃいけない。
——その前提を、きょうだい間で共有しておきたいです。
吉田:実家が遠くて、集まるのに飛行機に乗らなきゃいけないとなると大変だけど、今はスカイプもLINE電話もあるわけだし、話し合いだけはしておいたほうがいいですよね。子育て中だったりして超忙しいのはわかる。でも5分だけでも。どうしても連絡ができない、話し合いが絶望的という場合には、きょうだいに一切頼らないという覚悟も必要かも。
実際のところ、家族よりも、頼りになるのはケアマネ(ケアマネージャー)さんとか、地域包括支援センターの人ですよ。そちらのほうがよっぽど事情もわかってくれるし、話も聞いてくれるし、何でも相談に乗ってくれるので。そういう人と連携するほうがいいと思いますね。
——なるほど……介護をどうしようかという段階からプロに相談できる環境を作っておくことも大切なんですね。
(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
『親の介護をしないとダメですか?』元気なうちに聞いておきたいこと