「推しを愛する気持ちに共感1000%!」と、話題の漫画『おじさん、ドル活はじめました!』。K-POPアイドルにハマった46歳のおじさん・裕美智(ひろみち)が、先輩ファンのギャル・マミコに弟子入りし、すばらしき“推し活”をはじめていく物語です。
推し活…コンサートやイベントに行ったり、コンテンツを視聴したり、とにかく愛でたり、推しのために活動すること全般
どこをとっても明るく清々しい本作は、どのように生まれたのでしょうか? ストーリーやキャラクターの誕生秘話から、推しの気持ちの言語化まで。著者のシバタヒカリさんに、詳しくうかがいました。
「いまはBTSのことで頭がいっぱい」
——推し活をテーマにしようというアイデアは、どのように生まれたのでしょうか?
シバタヒカリさん(以下、シバタ):担当さんと打ち合わせをしているとき、めちゃくちゃBTSにハマっていたので「いまはもうBTSのことしか考えられません~」って言ったんです。そうしたら「じゃあ、その気持ちを描いてみます?」と言ってくださって。
——シバタさん自身の“推し活”経験を存分に活かして、執筆開始。ともすれば「ファンの内輪ネタ」になってしまう恐れもあるのに、好きなものがない人にも刺さって、とても楽しい気持ちになれる作品です。描くときに心掛けていたことはありますか?
シバタ:最初の打ち合わせで「シバタさんが楽しく描けるものを探しましょう」と言っていただいたので、“推し活の楽しい部分”をとにかく切り取ってみようと思いました。推し活をしていると、メンバーのスキャンダルとかファンのマナー違反とか、そういうネガティブな話もときには聞こえてきます。でも「おじドル」のキャラクターたちは、いまのところそういうことには関わりません。担当さんが「実際の世界でめちゃくちゃ落ち込むことは、この作品ではあえてやらないほうがいいかもしれない」と言ってくださったのも大きかったです。
キャラクターの感情に嘘がないようにしたい
——たしかに、おじさんもマミコも、ルールを守って清く正しく、そして楽しい世界で活動しています。そこがまた素敵です。
シバタ:登場人物のことでいえば、作品になにかフックがほしいから主人公をおじさんにしました。学習意欲があって素直なおじさんならばストーリーのテンポもよくなるだろうと考えて、「裕美智(ひろみち)」というキャラクターが誕生したんです。それから「自分が推し活するときにこんな師匠がいたらいいな」という思いから、明るくて楽しいマミコが出てきました。
——必要以上に苦しい展開はないけれど、おじさんが若い女の子ばかりのドル活の世界にいることを葛藤している、繊細な感情は描かれていますよね。
シバタ:おじさんとマミコの関係性を考えたときに、本人たちはよくても周りからはどう思われているかということは、書く必要があると思いました。そうやって考えた結果、“一番リアルに近い葛藤”はこうなんじゃないか、と思うものを本編に入れたんです。だけど、そういった周りからの目があるなかでおじさんやマミコがどう行動するかは、キャラクターの性格に嘘がない範囲で“推し活をすることへ希望”があるように描いたつもりです。
「エモい」「尊い」だけではない、私が推しを好きな理由
——ハッピーな推し活を漫画で表現するために、どんな努力をされたのでしょうか。
シバタ:仕事の順番として、まず『おじドル』を3話描いたあとに、メイクが大好きな人たちを描いた『だから私はメイクする』を挟んでいるんです。それから1年くらい経って『おじドル』の続きを描きました。テーマにしたK-POPとメイクは、どちらも私の好きなものです。だからこそ、気持ちの源流の部分をきちんと言語化しなければ、「好き」を掘り下げきれないと思いました。「エモい」「尊い」だけではない言葉を、丁寧に探っていったんです。
おじさんが推しについて語るときに使う「超一流の青春(を見せてもらっている)」という言葉は、そうやって出てきた表現のひとつなんですよね。
シバタ:推し活に力を入れている方々って、だいたいすごく観察力があるし、そういう言語化が上手なんですよ。私自身もこうして気持ちを言葉にしたことで、自分の「好き」を深めて、レベルアップさせられる感覚がありました。
——どうして好きなのか、どこが好きなのかを、言葉にしていく……。推し活初心者でも気軽にできるコツがあれば、教えていただきたいです。
シバタ:まずは推しの好きなところを20個、30個くらい箇条書きにしてみる、なんでどうでしょうか。最初は難しくても、書いているうちにノリノリになってくると思いますよ。最初にざっくり「かわいい」と書いたものの、どんどん「眉毛の角度がかわいい」「あの曲のこの振りをするときの目つきがかわいい」みたいに、狭く濃く書きたくなってくるはず。
——『おじドル』『だから私はメイクする』と、がっつり「好き」「推し」の言語化をしてきて、シバタさん自身になにか変化はありましたか。
シバタ:自分の好きなものや好きなことの理由を、しっかり見つめて深めるようになりました。当たり前すぎてもう言わなくてもいいような「好き」も、いまはちゃんと言葉にしていきたいって思ってるんです。「好き」って、すごく根本的な感情なんですよね。私の漫画が、読者のみなさんのプリミティブな感情やその理由を思い出すきっかけになれたらいいな、と思います。
(取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
「楽しい部分をとにかく切り取る」シバタヒカリが大切にした、推し活のリアル