連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。
精神保健福祉士・社会福祉士で、著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『小児性愛という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)などで男性の“加害者性”について深く考察してきた斉藤章佳さんをゲストにお招きしています。第2回では、世間に溢れるアダルトコンテンツが性暴力に与える影響について深掘りしていただきました。
アダルトコンテンツが、性犯罪のトリガーになる可能性もある
——前回は、日本の男性が性について学ぶ最初の機会がAVであるという指摘があがりました。AVの影響が、実際の性犯罪のトリガーになることはあるのでしょうか。
斉藤章佳さん(以下、斉藤):実際に痴漢をする男性の中には、痴漢もののAV を繰り返し見たことがきっかけになったという人はいますし、痴漢常習者の多くが「再発のトリガー」として痴漢モノのアダルトコンテンツをあげています。
性犯罪が“学習された行動である”という前提で考えると、痴漢やレイプもののAVが誰にでも簡単に閲覧できるような状況は非常に危険だと感じます。特に情報の選択をする力がまだ弱い若年層の子どもたちが、その類の情報に日常的に触れながら自慰行為を続けるのは百害あって一利なしだと言えるでしょう。
それは言い換えれば、男尊女卑的な価値観を強化する装置がいたるところに埋め込まれているということにもなり、そんな社会自体に問題的があると感じますね。
アルテイシアさん(以下、アル):「ファンタジーと現実の区別はついているから問題ない」「むしろ痴漢やレイプもののAVがあるから、実際の犯罪が抑止できてる」と語られがちですけど、何100回も繰り返しそういうコンテンツを目にしていたら、自分もやってみたいという気持ちが湧いても不思議はないと感じます。
少なくともトリガーにはなりうるんじゃないかな、と。私はセックス中に精液を顔にかけられて殺意を抱いた経験があるんですが、おそらくその人もAVを見て、女性が喜ぶと学んでしまったんでしょうね。
斉藤:私は昨年、『小児性愛という病-それは、愛ではない』というペドフィリア(小児性愛障害)に関する著書を出しているのですが、児童ポルノや児童型セックスドールに関しても同じようなことが言えます。
これらは、子どもを性的な存在として消費していいんだということを暗に示している。特に、二次元の児童ポルノを擁護する人たちは、「見たからといってみんなが犯罪を犯すわけではない」と言うんですね。ただ、実際に行動に移さないとしても、誤った価値観が刷り込まれてしまう可能性は十分にあるのだから、しっかり線引きするべきだと私は考えます。
アル:私も「みんなが性犯罪者になるわけじゃない」というクソリプをよくもらいますが、みんながなるなんて言ってない。少数でも性犯罪者を生み出す可能性があることを問題視してるんです。
あとサッカー漫画を読んでサッカーを始める人はいっぱいいるのに、エロコンテンツの話になると「創作に影響なんぞ受けない!」と言い張るクソリパーも多いです。
「明確なNO以外はYESである」という危険な思い込み
——アダルトコンテンツの規制は、表現の自由との狭間で常に議論の対象になっていますよね。斉藤さんはどう考えていますか?
斉藤:表現の自由が守られるのでれば、同時に、子どもに対して性的同意を含めた包括的な性教育を行う義務があると思います。過去に私が担当した若年の性暴力加害者のなかに、好意を持っている同級生の女子生徒の下着の中にいきなり手を入れ、何の悪気もなく性器に触れて問題になった男子学生がいました。
相手が騒がないので、てっきり同意の上だと思い込んでいたそうですが、あるとき女子生徒が親に相談して警察沙汰になった。加害者の少年は、狐につままれたような顔をしていました。
彼に犯行のきっかけを尋ねてみると、YouTubeでアダルトコンテンツを繰り返し見て学んだというんです。どこにでもいる普通の男子が、「抵抗しないということは相手もそれを望んでいる」という誤った認識をメディアからインストールしてしまったひとつの具体例ですね。
アル:膝パーカッションが止まりません。私も7年前に、男性向けの正しいセックスや性知識について書いた本『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』を出版したことをきっかけに、男性から相談メールがよく届くようになったんです。真面目そうな大学生が「女性の“イヤ”というのは、自分を安い女に見せないために言っているだけであって、本心ではないんですよね?」みたいなことを聞いてくるんですよ。
彼は恋愛工学を教科書にしていたようですが、やはり全般的に見て日本の男性は、「明確なNO以外はYES」という思い込みがすごく強いなと感じました。欧米と逆ですよね。
斉藤:たしかに欧米の文化は、「明確なYES以外はNO」ですよね。
アル:オーストラリア人の男友達が、日本のAVを見てショックを受けたと言ってました。「日本の男は、レイプに興奮するのか」と。向こうのアダルトコンテンツでは、そもそも女性が嫌がっている表情自体がNGだから、その違いに驚いたそうです。
みたいなことをコラムに書くと「オーストラリアにも性犯罪はあるだろ!」とクソリプが来ますが、一般の人々の間に「性暴力は許せないもの」という共通認識があることが重要ですよね。
それによって、加害者が擁護されて被害者が責められる風潮を変えていけるし、性暴力をしづらい社会に変えていけるのだから。
あと「表現の自由は、批判されない権利じゃないぞ」ということは、声を大にして言いたいです。
性犯罪は「性欲が強いから」ではない
——日本のアダルトコンテンツを思い浮かべると、女性が嫌がっているところを無理やり性的行為に及ぶシーンが非常に多い印象がありますよね。
アル:少年誌にもそういった表現がありますからね。服を脱がされて半裸の女の子が、恥ずかしがって涙ぐんでいるイラストだったりとか。それを見た子どもが、その表現をエロだと認識してしまうことが非常に問題だと思います。けれどもこういう指摘をすると、Twitterで大炎上します。
「フェミニストがオタクを迫害しようとしている」、「萌え絵を規制しようとしている」とか。
エロや萌え絵がダメだと言ってるんじゃない。「子どもを被害者にも加害者にもしないことが大人の責任なんだから、表現方法とゾーニングを考えよう」という指摘が伝わらない。トンチキなクソリプがわんさか来て、飽き飽きしてます(笑)。
——そもそもなんですが、性犯罪に及ぶ加害者に何か共通点はあるのでしょうか。異常に性欲が強い、とか。
斉藤:私も加害者臨床に携わる前は、性犯罪を繰り返すのは性欲が異常に強い人間だとか、非モテ男性だという先入観がありました。しかし2000人を超える加害者の再犯防止プログラムに携わるなかで明らかになったのは、そういう性欲過剰な人はほとんどいないという事実です。
彼らになぜ犯行を犯したのか尋ねると、引き金になったのは性欲ではなく、弱い者を支配したいという欲求。弱者を追い詰めることで得られる優越感や達成感、ストレスの発散が目的だと答えるんです。
アル:女性や子どもなど、自分より弱い存在を征服したいのであって、性欲がコントロールできないから性犯罪を犯すわけではない、と。
斉藤:性欲が抑えられず制御できなかったのではなく、複合的な快楽が凝縮された行為だからこそ、反復した性犯罪に繋がっているということですね。このことに気づいて以来、私は「男性の性欲はコントロールできないものである」という性欲原因論に疑問を持つようになりました。
そもそも、「性欲がコントロールできない生き物」だなんて、男性にとっては屈辱的な言われ様ですよね。それがなぜ常識的価値観として、連綿と受け継がれてきたのか。おそらくその理由は、性犯罪にせよ不貞行為にせよ、制御できない性欲の問題として矮小化して捉えることで、男性(権力者)にとって都合の悪いことが隠蔽でき煙に巻けるからなんですよ。
アル:「お腹ぺこぺこだったから、おにぎり万引きしたけど許してね!」みたいな話ですよね。「それは普通に許されない」ということは、子どもでもわかる常識ですよね。
斉藤:許されませんよね。でも男性にとっては必要な価値観だからこそ、性欲原因論は語り継がれてきた。性暴力を語る際に、性欲の問題に矮小化して考えてしまうことは本質を見誤る危険性があると感じます。「そろそろ性暴力を性欲で語ることをやめましょう」。これは性暴力の本質を理解するうえでも、非常に重要なポイントになってくるのではないでしょうか。
第3回は9月22日(火)公開予定です。
(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
「明確なYES以外はNO」アダルトコンテンツに振り回されないために【アルテイシア・斉藤章佳】