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「勇気をもらう人が必ずいる」翻訳者の確信 #MeTooきっかけの舞台裏を追ったノンフィクション

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映画界で「神」とも呼ばれた有名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力を暴き、「#MeToo」運動のきっかけを作ったニューヨーク・タイムズの調査報道の舞台裏を追ったノンフィクション『その名を暴け#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮社)が7月に発売されました。

「ハーヴェイ・ワインスタイン」という名前にピンとこなくても、グウィネス・パルトローが主演した映画『恋におちたシェイクスピア』(1998年)のプロデューサーと言えばピンとくる人もいるのではないでしょうか?

2017年10月5日にニューヨーク・タイムズに掲載された、ジョディ・カンター記者とミーガン・トゥーイー記者によるスクープは瞬く間に世界中を駆け巡り、グウィネス・パルトローをはじめ沈黙を続けてきた女優や従業員らも実名告発に踏み切りました。最終的にワインスタインから受けた被害を告発した女性は100人以上にのぼりました。

日本版の翻訳を手がけた古屋美登里(ふるや・みどり)さんは初めて同書を読んだ際、「『日本でもこの本を読んで勇気をもらえる人がたくさんいるはず』と確信した」と振り返ります。古屋さんに翻訳を通じて感じたことや翻訳という仕事、同書が出版される意義についてお話を伺いました。

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ニューヨーク・タイムズの記事の衝撃

——2人の記者によるスクープは世界的な#MeToo運動のきっかけになりました。アメリカではどんなふうに受け止められたのでしょうか?

古屋美登里さん(以下、古屋):アメリカの捉え方は日本とは全然違いました。なぜなら、ニューヨーク・タイムズは世界で一番と言ってもいい媒体で、それに該当する媒体は日本では見当たりません。「タイムズ」と言えばニューヨーク・タイムズを指しますし、それまで積み重ねてきた調査報道への信頼は揺るぎがありません。そのような新聞がワインスタインの犯罪を書いたのですから、それだけでセンセーショナルなことでしたし、「神」や「絶対権力者」と呼ばれていた人物の地位失墜のきっかけを作った記事を載せたのはすごいことでした。ワインスタインはアメリカだけでなく、ヨーロッパにも影響力を持っていましたし、アジアにも進出しようとしていた流れも本書にある通りです。彼がどれだけの権力を持っていたかは映画界を知らない方々にも想像はつくと思います。

——本書では2人の記者を中心とした取材チームが、証言してくれる人がほとんどいないところからどのように秘密の情報を入手し、裏をとり、証言やメール、示談書などの客観的証拠を丁寧に積み上げていって権力者の真実を暴くに至ったかの調査報道についてつづった本でもあります。

古屋:ここに書かれていたことは調査のほんの一部なんですね。書かれなかったことの大きさを考えるとどれだけ多くの人たちに取材をしたのだろうと思いますし、名前を出せなかった人もたくさんいるでしょう。

翻訳をしているときに「日本ではどうだろう?」と考えました。被害者に対して日本ではどんな扱いをするのか。日本ではバッシングがすごいですよね。「嘘をついている」とか「ハニートラップだ」とか言われて外を出歩くことはおろか日本に住み続けることさえ難しい状況に置かれてしまいます。

——(元TBSワシントン支局長・山口敬之氏から性的暴行を受けたと告発した)伊藤詩織さんの件を見ても……。

古屋:声を上げたらこうなるぞって見せしめみたいに。だから結局、後に続く人がなかなか出ない。実名で声をあげて何かするという行動が起きにくいのでしょうね。そういう意味でも日本の#MeTooは共感をもっと呼び覚まさなければいけなかったと思います。すごく個人的な問題になってしまったでしょう? 社会のシステムや構造が問題なのに、個人の問題に落とし込まれてしまったのが日本の#MeTooの反省点だと思います。

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「勇気をもらう人が必ずいる」という確信

——古屋さんがどんなふうにこの本を翻訳していったかについても伺いたいです。まず、この本の翻訳を古屋さんが手がけることになった経緯を教えてください。

古屋:新潮社から声をかけていただいたのですが、編集の方から「この本はフェミニズムや#MeTooにとって大切なことが書かれた”ルポルタージュ”だと思っています。そのあたりをうまく翻訳していただける人を探していました」とお話をいただいてお引き受けしました。

——どんな手順を踏んで出版されるのでしょうか?

古屋:まずはデータで原文を読みレジュメを書きます。レジュメというのは、「この本はこれこれこういう本です」という内容と読んだ感想や評価を簡潔に要約したレポートです。レジュメをいったん担当の方に送り、それを元に出版するかどうかが編集会議で検討されます。編集会議で出版すると決まったら版権を取ります。でも、その際に他の出版社に版権を取られて出版できないこともあります。

——古屋さんにお話がきた時点で出版が決まっているわけではないんですね。この本を原文で初めて読んだときの感想を教えてください。

古屋:今回はレジュメをすごく興奮して書いたのを覚えています。ちょうど手元にレジュメがあるので、今、そのまま読みますが、「多くの女性が、声をあげられない女性たちのために戦っている記者の姿を知って、どれほど救われることだろう。この作品が書かれるまで過酷なまでに戦い抜いたジャーナリストたちの姿はとても尊い」と書きました。

「言葉はストレートに勇気を与えてくれる、生きる力を与えてくれる、本書はそのことがはっきりとわかる作品だと思う。ひとりの非情な男を、(2人の記者が)大勢の女性に会って取材を重ねながら追い詰めていく様子は、まるでミステリー小説のようにスリリングで興奮する」。

そんなふうにいろいろ書きました。この本を読んで私自身、ものすごく勇気を与えられましたし、きっと同じように勇気をもらう人が必ずいるし、大勢の人が読むべきだということを熱っぽく語りました。

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違和感をなくしていくのが翻訳者の仕事

——翻訳はどのように進めていくのですか?

古屋:やり方は人によって違いますが、私の場合は最初にバーッと全文を訳してしまいます。作品の世界により近づいていくには、最後まで訳さないと見えないものがたくさんあるんです。そこからまた初めに戻って、こうじゃないああじゃないと思いながら訳し直し、どんどん磨きあげていくんですけれど、これには結構時間がかかります。

——日本版は400ページに及ぶ大作です。

古屋:これはそれなりに大変でした。出産に喩えるつもりはないのですが、何かを生み出すには、ひとりだけで出来るものではなく、周りの人のサポートや応援や理解がどうしても必要ですね。そういう環境がなければこれほどの大著を短時間で訳しきれるものではないんですね。これまで80冊くらいの本を訳していますが、本当に毎回違います。出産の痛みがみな異なるんです。

——今回の翻訳はどんな“痛み”だったのですか?

古屋:共感を得るための“痛み”でしょうか。この本では、女性の記者たちや女優たちが戦っていることへの共感を大事にしたかったんです。でも、そのまま訳しただけではそれほど共感が得られないような気がしました。そこで、もちろん加筆などはしませんが、ちょっとしたニュアンスを薄めたり濃くしたりというチューニングをしました。

翻訳の技術にも関わるので、具体的にどこがどのようにとは言えないのですが、読者が読み進めていく途中で飽きてしまったらおしまいですよね。もちろん、内容が内容なので飽きることはないのですが、読み手が抵抗なく本の世界に入っていって、内容だけに集中できる訳し方をしなければなりません。途中で、「え?」とか「あれ?」という違和感を読者に抱かせてはいけない。そういう箇所をしらみつぶしに消していくのが、私の本当の仕事です。

つまり、英文を日本語にすれば終わりではなくて、日本語にしたあとどのくらいの完成度を目指すかが翻訳の仕事であり、それによって読者の共感のあり方が変わると思います。

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——翻訳を通じて気づいたことや考えたことはありますか?

古屋:この本を翻訳している最中に思っていたのは、自分の過去をさらっていく作業だなあと。あとがきにも書きましたけれど、自分が女として生まれて、これまで仕事をしてきて、いろいろなことがあったわけです。それについて考え直すような経験をしました。

小学校の時の出来事で今も忘れられないことがあるのですが、私は比較的胸が大きかったんです。早くブラジャーを着けたかったのですけれど親になかなか言い出せませんでした。ある日クラスの男子に言われた「古屋、胸でかいよな」という言葉にずっと傷ついていたことに気づきました。逆の立場のエピソードもあって、私には娘がいるのですが、小柄で小食なんです。そんな娘に小学校の頃から小柄であることがさも悪いことであるような言い方をしていました。申し訳なかったと思います。身体的なことで自分も傷つけられたことがあるし、子供を傷つけてしまったこともある。それ以外にも、仕事がらみで嫌なことを言われたこともあります。

「女言葉は使わない」翻訳する上で意識したこと

——私もこの本を読みながら自分に起こった出来事とリンクして考えざるを得ませんでした。翻訳していく上で注意したことはありますか?

古屋:「~だったわ、~のよ」などの女性的な言い回しは極力使わないように注意しました。だって、私たちはいまではもう、そうした言い方はしませんよね。

——海外の映画やドラマを見ていると女性言葉は結構耳にします。

古屋:舞台になっているのがどのような時代かで状況は違ってくるでしょうね。小説でも男の人が訳すと女が妙に女っぽくなることがありますね。女性はそうあってほしいという願望かもしれませんが。

でもこの本で女性言葉を使うとメッセージ性が弱くなりますし、そんなところでジェンダーを出したくないじゃないですか。「性的嫌がらせをされちゃったのよ、私」と訳したとしたらどうでしょう? その訴えに力が入っていない感じがします。ですから女性言葉には極力注意しました。担当の編集さんとも「~のよ」とか「だったわ」という言い回しはできる限りやめましょうと話しました。これは「闘いの書」ですから。

確かに女性的な言葉を使えば発言の主体が女性だと分かりやすいという点はあるのですが、そこは「〜と彼女は言った」と書けば分かることです。片仮名を使うのもなるべくやめようと決めました。

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——片仮名というのは?

古屋:「セクシャルハラスメント」ではなくて「性的嫌がらせ」「性的虐待」「暴行」ときちんと日本語を使うようにしました。さもないと本質がぼやけたり、見えなくなったりすることになるからです。

あともう一つ、かなり考えたのはワインスタインの弟がワインスタインに出した手紙です。呼びかけるときに、「兄さん」とすべきか「あなた」とすべきかで悩みましたが、「兄さん」と書いたら関係が近すぎてしまうかなと思い「あなた」としました。小説であれば「兄さん」と訳したほうが盛り上がる場合がありますが、これはフィクションではないし、しかもすごく大事な手紙なのでセンチメンタリズムを排そうと思ったのです。

——最後に読者へのメッセージをお願いします。

古屋:この本を読んでいろいろなことを考えていただければと思いますし、今まで当たり前だと思って受け流したり我慢していたりすることが「おかしい」ことだったと気づくかもしれません。その際にこの本が支えになればと思います。

それからこの本のとても大事なシーンは、最後になって被害者の女性たちがグウィネス・パルトローの家に集まって話をするところですね。女性たちの連帯意識が芽生えるところです。被害者をひとりにしてはいけない、と彼女たちは考えます。どんなことがあっても、悪いのは加害者なんです。「あなたが声を上げるなら、わたしたちが守る」と最後にパルトローが言いますが、だれもがこの言葉を求めているのではないでしょうか。多くの人がそう言えるようになればどんなにいいだろうと思いますね。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

情報元リンク: ウートピ
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