恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。
第26回は、小泉進次郎環境大臣の育休宣言について。「パフォーマンス」だという声も耳にするけれど、ちょっと待って。「パフォーマンス」はダメなの? 小島さんに聞きました。
小泉環境大臣の育休宣言
職場で何か斬新なことや思い切ったことをすると、たいてい「単なる人気取りだ」「あんなのパフォーマンスだ」と批判されます。実際、自分の宣伝になるよう計算して行動する人もいるでしょう。でもたとえそれが心の底からの信念に裏打ちされたものではなく、ただの見せかけだったとしても、何か新しいことをやった人がいるという事実自体が人々の意識を変えることはあるのです。
最近の例で言えば小泉進次郎環境大臣の育休宣言。たった2週間、しかも仕事に支障のないよう隙間の時間を活用して2週間分を育児に充てるということですから、あんなの形だけだという人もいるでしょう。ニュージーランドではアーダーン首相が首相就任後1年未満で出産し6週間の産休を取り、復帰後には子連れで国連総会に出席していますから、一人の大臣がたった2週間分の育児時間で妻を助けると言っても自慢にもならないかもしれません。
でも、日本ではこれまで現職の大臣が育児のために仕事を調整したことはなく、議員が育休をとった前例もありません。明確な規定すらないのです。男性が育児のための支援制度を使おうとすると左遷されたり不利益な待遇をされたりする、いわゆるパタハラも社会問題化しています。そんな状況で、メディアの注目を集める男性の現職大臣が「産後3カ月間という母親が一番大変な時期に、夫が育児をすることは重要である」と明言したのは、少なからず人々の意識を変えたのではないかと思います。永田町や霞ヶ関の働き方にもきっと影響があるでしょう。
その行動が周囲にどんな影響を与えるのか
私は小泉氏の環境大臣としての言動には賛同できない部分がたくさんあるし政治資金流用をめぐる疑惑の行方にも注目しています。ただ、この「男性が育児をするのは当然である」という空気を作るために、自ら率先して前例を作ったのは正しい判断だと思います。
「誰がそれをやったのか」と「その行動が周囲の人にどんな影響を与えるのか」を分けて考えるのは、大事です。とは言え実際やるとなると結構難しいもの。
例えばどうしても好きになれない先輩が「うちの職場でも#KuTooを」と女性のハイヒール義務付けに反対したら。「目立とうとして」「意識高いアピールか」と言いたい気持ちもあるし、女性にだけ服装規定があるのが当たり前の職場よりも、そうでない職場の方がいいと思う気持ちもある。二つの気持ちが鬩ぎ合って、結局「言ってることは正しいけど彼女が言うなら無視」という結論に達してしまうかも。
けど冷静に考えたら、自分にとって快適な職場環境を作るためのアクションはした方がいいですよね。誰が言ったかは好き嫌いの問題だけど、何が起きるかは自分の暮らしに関わる問題。だったら嫌いな人が言ったことでも、自分にとって望ましい結果を生む動きは応援した方がいいのです。
一部の特別な女性の話は「自分には関係ない」?
日本は世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数ランキングで121位。先進国では最も男女格差が大きい国です。特に政治、経済分野での女性の数の少なさは際立っています。「2020年までに女性幹部を3割に」という目標を立てたり(実現は難しそうだけど)、「選挙の候補者は男女同数で」という法律ができたりして(政治分野における男女共同参画推進法)、ジェンダー格差をなくそうという動きがありますが、まだ道のりは遠そう。
女性の数を増やそうという議論になると、「幹部になる女性や議員になる女性なんて一部の特別な人。自分とは関係ない」と言う女性も少なくありません。遠い存在の人たちがやれジェンダー平等だのと旗を振っているのは白々しいというか、単なるパフォーマンスに見えてしまうと。有名大を出て一流企業に入って総合職で働いて役員になって……という経歴の人が語る「ジェンダー格差問題」なんて全然説得力がない。だって彼女たちは男社会で生き残った「勝ち組」だから。
ただ、まだまだ男性が圧倒的優位を保つ日本の社会で、影響力のある立場にある女性が「ジェンダー平等を」と訴えるのは、たとえそれが同性の人気取りのパフォーマンスだったとしても、確実に少しずつ職場の空気を変えていきます。そういう人が増えれば、社会の空気も変わっていきます。
批判よりエールを
このほど明らかになった聖マリアンナ医科大学の入試の採点不正でも明らかなように、残念ながら日本では社会のあちこちに男尊女卑が染みついています。医大を受験する女性なんて身近ではないですよね。でも、女性であるというだけの理由で不当な扱いを受けていたことには同じ女性として強い憤りを覚えます。
女性をそんなふうに扱ってもいいという考え方が、一昨年問題になった東京医科大をはじめとした複数の医大でまかり通っていたことに衝撃を受けたし、同じような発想は企業の採用の現場でもおそらく珍しいことではないでしょう。どれほど実力があっても男性よりも不利な条件で競争しなければならない社会に生きていたいと思う女性はいないはずです。
どれほど自分とはかけ離れた立場の女性の掛け声でも、あまり好きなタイプではない女性の発言でも、それがめぐりめぐって自分が生きる社会を生きやすくするものなら、応援するのがお得です。単にお得というだけではなく、意外にも自分が感じている理不尽さや苦い諦めに気づき、「あなただけじゃないよ」と手を差し伸べられたような、温かい気持ちになることもきっとあるはずです。
2020年は女性の分断を超えたシスターフッドと男女の分断を超えた連帯がキモだよな、と個人的には思っています。だから、ジェンダー平等に声を上げた人には「パフォーマンスだ」とくさすよりも、「いいよね!」とエールを。
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情報元リンク: ウートピ
「パフォーマンス」はダメなこと? 正解に悩むより「行動」にエールを【小島慶子】