ジェーン・スーさんの対談集『私がオバさんになったよ』と、能町みね子さんが自身の5歳当時を描いた私小説『私以外みんな不潔』(共に幻冬舎)の刊行を記念したトークイベントが4月、「代官山 蔦屋書店」(東京都渋谷区)で開催されました。
『私がオバさんになったよ』の最終章に登場したのが、能町さん。同書は、ジェーンさんが過去に対談したことがあって「もういちど話したかった」という人との対談をまとめた一冊ですが、能町さんとは初対談で、「人生は有限。会いたい人には会ったほうがいい」というジェーンさんの思いが結実した対談だったといいます。
その“延長戦”として実現したのが、このたびのトークイベント。「大勢が苦手」という2人の友達付き合いについて、パートナーとの生活について、男女差別についてなど、トークの内容を3回にわたってお届けします。
怒られなくなる30代、成長しないことより怖いことは?【ジェーン・スー】
「ジェーン×能町」は“発注”がない
ジェーン・スーさん(以下、ジェーン):ちゃんとお話しするのは本の対談以来、二度目です。ホントに、この組み合わせは発注がないんですよ。
能町みね子さん(以下、能町):私は対談の企画自体がそんなにないかも。
ジェーン:ラジオをやっていて、文筆もやっている女性はそんなにいない。私たちはそういう共通点があるわりには接点がなく、ラジオ局でほんの一瞬会ったことがあっただけ。
『私がオバさんになったよ』は「もういちど話したかった」というタイトルの連載(「小説幻冬」)を収めた本なのですが、最終章にほぼ会ったことのない能町さんを呼んだという(笑)。最初依頼した時、能町さんも「なぜ?」とおっしゃっていたけど、誰も対談を組んでくれないから、自分から依頼するしかないと思ったんです。
能町:最初は探り探りでしたよね。『私がオバさんになったよ』を読み返したんですけど、他の方は何度か会っているだけあって、いきなりラウンドが始まってる感じなんですけど、私とは遠方から見合ってるボクシングみたい。距離の詰め方って難しいなと思いました。
ジェーン:人との距離を詰めるのは得意ではない?
能町:まったく得意ではないですね。基本、年下にも敬語です。大学生でギリ。ちゃんと働いてる20代だと、まずは敬語。
ジェーン:私は逆で、ちょっと柔和な人やオープンスタンスの人に会って楽しくなっちゃうと、アクセルをベタ踏みして、仲良くなるというより偉そうになっちゃう。いるだけでハラスメントという、“いるハラ”なところがある。
高校を卒業する時のサイン帳には、3分の2くらいの人から示し合わせたように「最初会った時は本当にこわい人だと思った」って書かれた。「今はこわくないから、こんなこと書けるんだよ」みたいなフォローの部分までみんな一緒(笑)。
能町:私もこわがられるほうです。
ジェーン:高3の時に同じクラスにこの2人がいたら、ちょっとイヤですね。
「友達 100人できるかな」の弊害
ジェーン:でも、人と仲良くなるのって大人になるとなおさら難しい。
能町:どうやったら、アクセルをベタ踏みできるのかな?
ジェーン:対談の中で酒井(順子)さんもおっしゃってるんですけど、出会って1カ月くらいの人とハワイに行ってる芸能人とか、ああいうのが信じられない。
能町:芸能界って、本当にそういう人がいるんですよね。私はもともと踏み込めないタイプだから、たまにすごく踏み込んでくる人に会ったりすると、「これは、この人が長年の経験でやっている処世術であって、本音ではない」と疑ってかかっちゃう。
ジェーン:「私に興味があるわけではない」と。結局は昔からの友達といるほうが気が楽だということになる。もったいないですよね。もしかしたら、もっと友達の輪が広がるのかもしれないのに。
能町:(輪を)広げたいのかどうか? という疑問もある。
ジェーン:「新しい友達」という響きに、若干惹かれるところはあります。「友達100人できるかな?」と歌わされた弊害がどこかに残っている。
能町:「友達は多いほうがいい」という思い込みがありますよね。私は大勢が苦手なんですよ。『私以外みんな不潔』でも書きましたが、幼稚園の時代からそうでした。基本1対1か、せいぜい3、4人くらいがいい。「今度パーティーやるから来なよ」は、もう厳しいんですよ。ホームパーティーは本音で呼ばれたくない。遠慮じゃなくてほんとにイヤ。
ジェーン:ホームパーティーは、呼ばれると嬉しいんですけど、日が近づいてくるとなぜかおなかが痛くなる。“パーティーに呼ばれた私”という絵には満足するんだけど、実際参加するとなると……。「友達連れて行っていいですか」と聞いて、「お一人でどうぞ。みんな待ってるわ」なんて言われると、ホントに緊張します。
能町:仲間がいればいいんですけどね。
能町「パリピであればあるほど、肉が雑」
ジェーン:「仕事の幅を広げよう」みたいな異業種交流会にも行ったことあるんですけど、クッソつまらなかった。「おまえら全員つまらない!」と憤慨してました。これは単に私の偏見でしかないんですけどね。その空間を楽しむことに長けている人たちってだけだから。プロの「ホームパリピ」ですよ。あの、「結局、何をしてたんだろう?」という時間を楽しめないと、簡単に距離は詰められないんじゃないでしょうか。
能町:あれを楽しんだら詰まりますかね、距離。詰めたいですか?
ジェーン:詰まってるのかな、あの人たちは。でも、すごく楽しそうじゃん。
能町:すごく楽しそう。バーベキューとか。私、バーベキューにも偏見がありすぎるんです。
ジェーン:25歳くらいの時に、日陰の友達と10人くらいで「とにかく今年の夏はお台場でバーベキューをやるぞ」とお台場に行き、ジリジリ耐えるようにバーベキューして、バレーボールをやり、ボールに当たって鼻血を出すやつがいるという感じで“修行”としてやったことはあります。バーベキューが悪いんじゃなくて、どのバーベキューに呼ばれるかってことですよ。肉が悪いわけじゃない。
能町:でも、肉が悪いこともある。
ジェーン:どういうことですか?
能町:そもそも肉がマズいというパターンもある。バーベキューってホントは肉が大事なのに、みんなそこを重視してなくて、「野外で何か焼いて食べれば美味しいだろう」みたいな雑な感覚でやるから、いい肉を買わない。パリピであればあるほど、肉が雑。
ジェーン:パーティーって肉はいらないんですかね。
能町:太陽があればいいんじゃないですかね。
ジェーン:そもそも私たち太陽がダメっぽい。
ホームパーティーや異業種交流会で「うまく振る舞わなきゃいけない」という強迫観念があるから、マナー本とか、「最初のトークはどう進めるか」みたいな本が売れる。ということは、みんな本質的にはパリピじゃない。
能町:パリピのほうがステージが上の人間だって、みんな思ってるってことですよね。やめたほうがいいですよね。
ジェーン「私の旅は『クレア・トラベラー憧れ』みたい」
ジェーン:大学時代、サークルには入ってなかったんですか?
能町:入ってはいたんですけど、シャープな感じはまったくなかったです。一応音楽サークルだったんですけど、そこで音楽の趣味のいい先輩に鍛えられたということもなく……。
私は「サブカルの人」だと思われがちなんですけど、サブカル的なものに詳しくなったのは、大学卒業後なんですよ。もともとオシャレでも何でもない田舎の人で、(子供時代を過ごした茨城県の)牛久にあった「ライトオン」をカッコいいと思っていて、店に入れなかったような中学時代を送ったので(笑)。
ジェーン:音楽に興味を持ち始めてからがすごいですよね。
能町:そこから泥くさい勉強をした感じです。1人暮らしで、新聞もケータイもなく、TVの番組表が欲しいから、当時一番安かった「TVBros.」を買った。
ジェーン:そこでレモンを持った表紙のやつ(「ザ・テレビジョン」)を買ってたら人生変わってかもしれないですね。パリピだったかもしれない(笑)。
能町:それはどうかなぁ(笑)。「TVBros.」を読んでみたら、CD情報も斬新なものが載っているし、面白くて。自分が音楽に詳しくないことはわかってたので、記事を切り抜いてCDを買いに行った記憶があります。音楽について教えてくれる友達もいない中、大学を出てからやっとそういうものを知ったという感じですね。
ジェーン:そこから自分でセンスを磨いて確立するというところが、私に欠落してる部分なんですよ。
お互いのツーリズムも違いすぎる。私は欧米資本の東南アジアのリゾートなんかが大好きなんですよね。同じ東南アジアに行っても、能町さんが(ミャンマーやラオスなどで)全然違う旅をしているのを見ると、しょぼんとなる。私の旅は「クレア・トラベラー憧れ」みたい。
能町:私は泥くさい旅が好きなんですよね。
ジェーン:能町さんは好みが一貫してるように見えて、それが、自分にオタク的なものが一つもないことへのコンプレックスにつながるんです。
能町:でもスーさんは、広く深めに興味を持ってる感じがします。
ジェーン:それで対談の話がこないんですかね? 「この2人は話が弾まないぞ!」と。私はアメリカのコマーシャリズムみたいなものが好き。「ビヨンセ最高!」みたいな。そこが違うんですかね。
能町:いいんですよ、全然違って。
ジェーン:まあ、多様性ですよね。
能町:みんな違って、みんないい(笑)。
※第2回は5月30日(木)公開です。
(取材・文:新田理恵、撮影:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
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