29歳のときに*「氷結®」の開発に関わって以来、18年間にわたって前任者のいないプロジェクトや新規事業に関わってきたというキリンの佐野環さん(47)。
*「氷結®」はキリンの登録商標です。
2016年には同社の事業創造部の部長に就任し、翌17年8月には「プラズマ乳酸菌」を配合した新ブランド「iMUSE(イミューズ)」を立ち上げ、18年には約55億円を売上げました。
プロジェクトも新規事業も「白紙の状態だからワクワクする」と話す佐野さんに、アイディアに生み出し方や「iMUSE」が目指すものについて伺いました。
【第1回】「働いている私」が飲んでも恥ずかしくないお酒を作りたかった
【第2回】“氷結の母”が30代半ばで抱いた不安の正体
新しいアイディアは組み合わせで生まれる
——前回は30代で半ばでぶつかった壁やオーストラリアで商品開発をしていたときのお話を伺いました。オーストラリアから戻ってきたのは?
佐野:2013年です。キリンに戻ってからは、キリンをどう魅力的なブランドにしていくかを考えるコーポレートブランディングを担当しました。2016年に事業創造部の部長に就任し、2017年8月に「プラズマ乳酸菌」を配合した新ブランド「iMUSE」を立ち上げました。
——売り上げも好調だそうですね。
佐野:おかげさまで1年で約55億円の売り上げを記録しました。
——消費者の立場で見ていると「(CMに出演している)柳楽優弥さんがかっこいいなー」「冬にぴったりの飲み物」というイメージなのですが、そもそも「プラズマ乳酸菌」って何ですか?
佐野:プラズマ乳酸菌は、キリン、小岩井乳業、協和発酵バイオが共同研究を行っている乳酸菌で、身体の中で重要な役割を果たす“プラズマサイトイド樹状細胞”から名づけられました。これまでに国内外の大学・研究機関とも研究を行っており、科学的にも多数の成果が認められている乳酸菌です。体調管理をしっかりしたい方に自信をもっておすすめできます。。
キリンは1888年にキリンビールを発売して以来、お酒や飲み物を作ってきたのですが、お客様の口に入るってすごいことなんですよね。もちろん「美味しい」というのも大事なのですが、お客様に一番貢献できることって身体の中から健康を支えることなんです。
そういう意味で「健康」という領域で次のキリンの新しい取組みとして着目したのが「プラズマ乳酸菌」だったんです。当初は「健康領域に貢献する新しい事業をやってほしい」って言われたんですが……。
——ざっくりですね(笑)。
佐野:はい。「また新しい何かか!」って思いました(笑)。振り返ってみると、氷結のときから誰かの後任になったことがないんですよ。全部スクラッチ(ゼロ)からなんです。
——そういうときはどうするんですか? 私の場合、何か新しいことをやるときはいつもうまくいっている人の真似から入るので、そんな状況になったら途方に暮れそうです……。
佐野:私、白い紙が大好きなんです(笑)。白い紙があると燃える。ワクワクしちゃうんです。白い紙を渡されると、何をやろうかな? と思って。ブランド戦略部にいたときにアーカイブ室の室長もやっていて、そこで気づいたことなのですが、新しいものって突然生まれるものではないんですよね。
——どういうことですか?
佐野:氷結もそうなのですが、「急にすごいアイデアが降ってきて発明!」ってほぼゼロなんです。どちらかと言うと、過去からのいろいろなものの蓄積の中で、組み合わせだったり、一つのものを違う角度見たり、お客様がどんなふうに喜ぶかって考え、一つのボールをいろいろな方向から見て、組み合せることで新しいものが生まれるんです。
氷結だって当時としてもそんなに新しいものではなかった。果汁のフレッシュなおいしさが楽しめるチューハイを作りたいって、みんな思っていたことなんです。でもそれに、凍結ストレート果汁を使おうとか、ウォッカを使ってみようとか、ダイヤカット缶を使おうとか、いろいろなアイデアを組み合わせることで新しいものに仕上がったんです。
今回も同じで、プラズマ乳酸菌に行き着いたのは、アーカイブ室で先人がどんな思いでキリンビールと向き合ってきたのか、メルシャンと向き合ってきたのか、協和発酵キリンと向き合ってきたのか、という資料を全部読んだんです。そこで気づいたのが「みんな発酵を原点としているんだな」ということだったんです。
——発酵ですか!!
佐野:キリンは発酵がすべての原点なんです。医薬品も元々は発酵から生まれました。。発酵って何かっていうと、微生物、つまり生き物によってもたらされるものなんですよ。生き物と向かい合った結果、お酒ができて、アルコールができて、医薬品ができて、アミノ酸ができて……。
100年以上微生物と向き合ってきて、全ての原点に発酵があるんです。この生き物を敬う、「生への畏敬」という哲学が社内に脈々と受け継がれている。ということがわかったので、新規事業をやるのであれば、AIビジネスを立ち上げる、ロボットを使う、というのではなくてやっぱり発酵を原点として、発酵が未来にもたらすコトを考えようと思ったんです。
発酵に注目した理由
——過去と未来をつなぐのですね。
佐野:この職務で働いているミッションとして、私の勝手な思い込みではありますが、次の100年をつなぐという使命感を持っているんです。
このポジションは、一生でめったに経験できることではない。とすると、将来にとって意味のあるものにしなければならないので、未来の人から「ありがとう」と言ってもらえるものにしなくてはいけない。
そのためには、しっかりとつないでいくことが大事で、無責任にすぐにポシャるような新規事業はやってはいけないと自分に言い聞かせているんです。
あれこれチャレンジして「いろいろチャレンジしてみてよかったね、以上。」ではなくて、次の世代の人がきちんと刈り取れるような、生んでくれてありがとうと言ってもらえるような仕事でなければならないと思うんです。
そういう思いもあって、これまでの発酵を中心とした事業を全部洗ったところ、プラズマ乳酸菌に着目したんです。実は、2012年に商品を発売してはいましたが、あまり注目されていませんでした。健康に貢献でき、しかもキリンの研究者がが微生物と向き合っていたからこそ見つかった、世界初の発見だったんです。こんな良い技術をどうしてもっと積極的にお客様に届けないのか? ということで、ほかに検討していたプロジェクトを全部一旦止めて、プラズマ乳酸菌に集中したんです。
——今はどのくらいの商品が出ているのですか?
佐野:ドリンクやサプリメント、ヨーグルトなど6種類を発売しています。食品ですので副作用もありませんし、お子さまやご高齢の方にも安心して摂っていただけます。
これまで食品事業を中心とした培ってきたキリンの強みに、グループ内の技術を積極活用することで、多くのお客様がいつまでも元気で美しく、輝いてくださるよう、日本だけではなく世界の人々の健康に貢献していければと思っています。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
「新しいアイデアは組み合わせで生まれる」キリンがプラズマ乳酸菌に注目した理由