百聞は一見にしかず——という言葉があるように、たった1枚の写真が私たちに強烈なメッセージを伝えることがあります。世界中のメディア、ポップカルチャー、広告、アートのクリエイターたちがいったいどのような写真を求めているのか、「検索ワード」からも社会の動きを知ることもできるのです。
世界最大級のデジタルコンテンツカンパニーであるゲッティイメージズは、デジタルコンテンツ(静止画、動画および音楽)を世界 100 カ国以上に提供しています。さらに、年間4億点を超えるライセンス購入された素材や年間10億回を超える検索キーワードを分析するとともに、メディアやポップカルチャー、広告、アートシーンの重要なイベントを研究し、毎年、世界基準のビジュアルトレンド「Creative in Focus(クリエイティブ・イン・フォーカス)」を発表。
2018年のトレンドのひとつは「Masculinity Undone(脱・男らしさ)」。ぱっと見では男性か女性かわからなかったり、男性が苦悩の表情を浮かべていたり……。従来のマッチョな男性ではなく、多様な男性イメージを切り取ったコンテンツが共感を得て、広告ビジュアル等の表現として使用されているそうです。
ビジュアルトレンドは社会を映し出す鏡。2018年のクリエイティブ・イン・フォーカスをテーマに、ゲッティイメージズ ジャパンの島本久美子社長にお話をうかがいました。
“マッチョであるべき”という流れを変えた、王子の告白
——海外のビジュアルトレンドが日本に入ってくるのに2年くらい時差があると聞いたことがあるのですが、どうして海外と日本でそういう時差が生まれるのでしょうか。
島本久美子さん(以下島本):いつも日本が遅れているわけではありません。たとえば2018年のトレンドのひとつ「Masculinity Undone(脱・男らしさ)」については、日本のほうが早かったと思います。
日本では昔からテレビやCMなどで、疲れているサラリーマンや、娘とどう接していいかわからず悩んでいるお父さんなどの姿が描かれてきました。一方、海外メディアでは、男性が内面で悩んでいることを表に出すということがなかなかできない社会的プレッシャーがあって、いわゆる“男らしくない”姿は広告などで取り上げにくかったという側面があります。
——たしかに、海外メディアではマッチョな男性像が多いイメージがありますね。
島本:流れが変わり始めたのが、2017年。プリンスハリー(ハリー英王子)が「母親であるダイアナ妃の死をきっかけに感情をすべて押し殺し、心の問題を抱えていた」と告白したことがきっかけになっていると私は考えています。
王室の男性が悩みを告白したからというだけでなく、プリンスハリーは10年間もイギリス陸軍に所属していた経歴を持つマッチョな男性というイメージでしたから、よりいっそう社会は衝撃を受けました。これをきっかけに、内面に悩みを持つ男性を支援する動きがでてきたのです。
新フェミニスト宣言って?
——女性の変化についても聞きたいです。2017年のビジュアルトレンドでは、これまでになかった新しいタイプの女性像「Gritty Woman(グリティ・ウーマン 新フェミニスト宣言)」が挙げられていました。
とありますが、日本の女性はまだまだ我慢しがちだと思うんです。どうすれば自分らしく、社会の中で活躍できるのでしょうか。たとえば、会社という組織の中で活躍するにはどうすれば。
島本:組織の中でポジションを上げていこうとするなら、我慢して頑張るのとはちょっと違う、組織の中での自分の立場をわかってうまくマネジメントできるスキルがあるといいですよね。ここに気が付いていない女性が結構多いな、と私は思います。自分の意見はもちろん大切ですが、組織がより発展するために自分がどう活躍すればいいのかという視点を持ってうまくやりくりできれば、それはすごく評価されるスキルだと思います。英語で言うと「Organizational savvy」——Savvyというのは、うまくやりくりするという感じです。
——直訳すると“手腕”ですが、うまくやりくりするというのは、「Gritty Woman」でいうところの、「自分が何をするべきかを考えている」にも通じますね。指示待ち人間ではなく、自分の頭で考えて動いていく。
島本:あいまいさの中でうまくマネジメントするのも結構重要だと思います。よく若い女性社員から「どっちにしますか?」「決めてください!」と判断を急ぐ意見を聞くのだけれども、とりあえずやってみながら、試しながら決めていこうよっていうものもいっぱいありますよね。新しいものをつくったり改善していったりするときは、そうしていかないと難しいですし、だからこそ、あいまいな中でうまく機転を利かせるスキルが必要です。
——なるほど、組織の中で自分がどう活躍するかという視点と、あいまいさを受け入れてやりくりするスキルがカギなんですね。
島本:20代でガーッと伸びてきた人が、そのあと30代以降でより伸びていくためには、今言った2つがすごく重要だと思います。ゲッティイメージズ ジャパンでは、「望ましい行動リスト」という表を作成し、統一された社員の行動基盤を評価するときに使うようにしています。自分の会社が求めることを知るきっかけになります。
自分の意思を持つために「悩む」
——もう少し、仕事の悩みを相談したいのですが……。20代は上司や先輩の言うことを聞いていればそれなりに結果が出ますが、30代半ばになると、自分で責任を持って指揮しなきゃいけない場面も出て来ます。今までのパターンが通用しない事例が出てきたときに、「私、こんなこともできないんだっけ……?」とすごく落ち込んでしまうこともあるのですが、島本社長の30代の頃ってどんな感じでしたか?
島本:そうですね、読者のみなさんが知りたいのは、特に30代後半ですよね。その仕事に関するスキルはほかの誰にも負けないのに、さらに上のポジションに行くためには何かが足りないと感じることはありました。業績を上げるとか、リーダーとして認められるためにはどうすれば……と考えたときに、カギになるのは先ほどの「Organizational savvy」なんですよ。
私はどちらかというと自分の組織や部下に目を向けていたのですが、ほかの部署にも目を向けないと、私の部署も組織もうまく力を発揮できないということに気づいてからは、自分に足りないものを持っている人を探して、その人たちの会議中の発言などを勉強しました。
——自分に足りないものを持っている人を見ると、自分と比べてしまうこともあります……。
島本:そんなのもったいないですよ。逆に相手ができなくて自分ができることもあるのだし、落ち込むのではなく、参考にしたいところだけ参考にすればいいんですよ。
でも、常に他人と比較してしまうという気持ちはわかります。特に今は、インターネット等で他人の情報も入りやすいですしね。情報量の多さ、情報の手に入れやすさは私の世代からするととてもうらやましいのですが、逆に情報に流されることもありますよね。
だからこそ、自分の意思をしっかり持つためにも、自分がどうしたいのか、どうありたいのかなどを悩むことはとてもいいことだと思います。ただ、悩んで落ち込むのではなく、いろんなものを試してみたりいろんな人と接してみたりして、悩んだうえに解決の方向にもっていくことを忘れないでほしいです。
次回は12月20日(木)公開予定です。
(構成:須田奈津妃、聞き手:ウートピ編集部 安次富陽子、撮影:大澤妹)
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情報元リンク: ウートピ
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