書店のビジネス書コーナーに行くと会社の経営者や成功者の仕事論や成功への道を説いた本がズラリと並んでいます。社長や経営者の仕事の話は刺激的で面白いし、参考になる部分はあるけれど、スケールが大きすぎてちょっと遠い世界の話に思えてしまうことも……。
私たちが日々仕事をする中で抱えるちょっとしたモヤモヤや疑問を解消するにはどうすればいい?
そこで、社会で活躍する“先輩”に「仕事で大事にしていること」をテーマに話を聞きます。
しんどいことやうまくいかないこともあるけれど、どんな仕事も大変なもの。でも、ちょっとした工夫や発想の転換で仕事がちょっとだけ楽しくなるかも。そんなヒントを伺います。
今回、お話を伺うのは今年で40回目を迎える「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」で総合ディレクターを務める荒木啓子(あらき・けいこ)さんです。
<荒木さんが仕事で大事にしていること>
1.常に平等であれ
2.人の話をよく聞くこと
3.できることは全部やる
仕事で大事にしていること三つ
——荒木さんが仕事で大事にしていることを三つ教えてください。
荒木:平等。私たちの映画祭は無名の人たちを紹介するという部分が大きい。もしかしたら、作っている人の人生を間違えさせるかもしれない。そういう人たちと同時に、巨匠と言われるような人の作品も紹介しているわけですけれど、あらゆるクリエイターは平等であるっていうことで、常に態度を変えない。日常であまり使わない言葉になりましたが、平等、フェアであるっていうことは、ものすごく大事だと思っています。
——二つ目は?
荒木:メールをもらったらすぐ返せ。連絡をもらったらすぐ返せ。特に、うちの場合は交渉事が多いから、交渉事で何か確認されたらすぐ返して、止めない、止めちゃダメっていうことかな。
面倒くさいと放っとく、というのはよくあることですが、放っておいたら、あとでやるほうがものすごいエネルギーがかかるわけですよ。早くやったほうが絶対にエネルギーがかからない。
だから、誰かとやり取りしてるとき、メールの最後が常に自分であるってこと。相手のことを待っている立場になるのはよいけど、待たせるなってことですよね。
——ボールをキャッチしたらすぐに投げるってことですね。
荒木:そうそう。そのときに常にちゃんと判断できるような人になってないと、ということですね。
——私、「検討します」って言っちゃいがちなんですけれど……。
荒木:検討しなくちゃいけないことは、もちろん検討しますよ。私の1人の判断じゃ難しいことや、それがよいことなのか、悪いことなのか分からないことはもちろん検討しますけれど、自分の範囲で判断できることはとにかくすぐにする。
——ビジネス書に「マイナスの判断こそ早くしろ」ってよく書いてありますが……。
荒木:できるだけその人の希望を叶えるっていうのは大事だと思いますよ。というかね、「断るときは早く」とか、私たちの仕事はそういうメソッドとかスキルと言われるようなものじゃないんですよ。人間関係がすべてなんです。
つまり、極端に言いますと、ビジネスじゃないんですよね。そうすると、何が大事かというと、人の話をよく聞くってことなんです。相手は何を望んでいるのか、なぜこの人はこういうことを言っているのか? とか。それによって、自分たちはどういうポジションにいて、何をするべきなのかが分かってくる。そしたら、次にこういう場合は、こういう考え方がよいんじゃないかということが蓄積されていく。
モノや情報、ノウハウの売り買いで稼いでいくという、いわゆるビジネスをやっているわけじゃない。だから、誰にでも平等、フェアであるということと、人の話をよく聞くっていうことと、それによって自分のできることと、できないことをハッキリさせておく。できそうだったらトライするっていうことが大事になってくると思う。
——できなさそうだったら?
荒木:できないこと? できないことって、人間は別にないんじゃない? 上手いか下手なだけで、何でもできるんじゃない? オリンピックには出れないかもしれないけれど、走れるとか、泳げるとか、みたいな。
それと、誤解を生みそうな言葉ですけど、上手くやる、よりもテキトーさが大切なときもありますよね。気楽に試して、そこで見えてくること、あると思います。そしてもうひとつ、「やらない」という選択もありますしね。
——三つ目は?
荒木:三つ目はさっき言った、できることは全部やる、です。
——人の話をよく聞くのが大事というのは本当にそう思います。
荒木:人間関係は、人の話をよく聞けばだいたい改良する感じがします。人に自分の言うことを聞かせよう、って思うところから、不幸は始まるんだよ。お互いできるところをやりましょうっていうところまで話すのが、いいよね。
「自分はどうなりたいのか」を考えて
——そうですね。まわりの働く女性を見ていても優秀で真面目すぎるがゆえに「自分はまだまだ」と思っている人が多くてなかなか楽にならないのかなと感じているのですが……。
荒木:自分たちが一流だと思い過ぎているんだよね。国自体も三流だし、様々なところで三流です。もちろん、他にはない素晴らしい文化や習慣もあると感じたうえで、そういう言葉を使っているのですが……。外国行きます?
——最近は忙しくて行ってないんですけど、ヨーロッパが好きです。
荒木:日本人の姿がどんどんみすぼらしくなっていると感じたことないですか? 私は毎年参加する海外の映画祭というのがいくつかありまして、ある都市に年に一度一週間は滞在する、それが20年続いている、という定点観測が出来るような生活をしているんですが、日本がおかしくなっていると肌で感じます。
毎年、毎年同じところから日本を見ていると、明らかに貧しくて世間知らずになっているのが分かるんだけれど、いまだに一流国だという幻想の中にいる人たちは多い。
そんな状況の中で、ビジネス本もしかりですけど、今これがいいということをやっても何も役に立たない。これからこれまで誰も経験してないようなことがどんどん起きてくるから。
そんなときに助けになるのは、自分の頭で考えて、自分の体で感じて、自分の力で行動するということを自分の中に作っていくことしかないから。インディペンデントじゃないと生きていけないから。誰かの真似をしたり、誰かの言うことを聞いたりしていても、まったく役に立たないと感じて茫然とすることがあります。
自分はどんな人間になりたいのか? 会社でどう評価されるとか、誰が何を言っているとか、これからはあっという間に役に立たなくなります。その中でどうやって生き延びるのか、どうやって自分の理想を実現するのかを考えることにシフトしたほうがいいと思います。
【第40回ぴあフィルムフェスティバル】
開催期間:2018年9月8日(土)~22日(土)[月曜休館・13日間]
会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋 3-7-6 )
チケット料金:公式サイト参照のこと。
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情報元リンク: ウートピ
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