「男子は気楽そうでいいなぁ……」と感じた学生時代に、同期の男性がちょっぴり頼りなく見えた新卒時代を経験した働き女子も多いのではないでしょうか。
SNSやニュースサイトを開いたとき、ロールモデルになりそうな女性の先輩や、やりたいことを次々実現していく同世代の女性の記事につい目がいってしまいますが、忙しい毎日を過ごしているのは男性も女性も同じこと。たまには同世代の男性のがんばりもチェックしてみませんか?
9月1日より公開の映画『寝ても覚めても』で主演を務めた東出昌大さんは、1988年生まれの30歳。今作では初めて麦(ばく)と亮平という一人二役を演じるなど、役者として新しい挑戦を重ねていく東出さんが仕事をするうえで心がけていることを聞きました。オファーが絶えない俳優の仕事の流儀とは——?
30代の課題は「ラクにやること」
——今年30歳になり、そろそろ中堅と呼ばれる世代に差しかかりますね。現場で自分の立ち位置を意識することはありますか?
東出昌大さん(以下、東出):この考えは今後も変わらないと思うのですが、僕は正直、番手というのはあまり関係ないと思っているんです。役を演じる上で序列があるわけではないし、自分より若い役者と話していて「そういう考え方があるのか。すごいな」と感銘を受けることも多いので。
だから、「座長だから」「何番手だから」と言われることがあると、ムムム……と思うんですよ。
——年齢についてはどう考えていますか? 30歳という区切りを迎えて気持ちに変化はありましたか?
東出:30歳になったということを、まだ信じていない自分がいます(笑)。役所の書類を和暦で書くときに「えっ、もう平成30年なの!?」って驚く感覚に近いかもしれません。でも20代前半のころから先輩方には、「30代になると面白いですか?」と聞いていたので、意識はしていました。
——その時、先輩から聞いた答えで印象に残っていることはありますか?
東出:「30代になると仕事がやりやすくなるよ」とか、「大人として見てもらえるし、発言権も大きくなるよ」とか、そういった答えをもらうことが多かったと思います。「余裕が生まれるよ」とも言われましたね。
——実際、余裕は出てきましたか?
東出:うーん……。まだだと思います。僕のもともとの性質に考えすぎてしまうところがあって、昨年出演したテレビドラマのチーフディレクターさんに「もっとラクにお芝居しなさい」と言われたんです。「視聴者はあなたが頑張っている姿を見たいのではなくて、いい芝居が見たいのだから」と。そう言われてから、ある程度、手の抜き方を覚えるのも大事だと思うようになりました。だから、ラクにやるっていうのは、今の課題のひとつです。
ただ、以前と比べるとカメラの前に立つのが怖くなくなりましたね。それは余裕が出てきたとも言えるのかもしれません。
周りのすごさを受け入れて、寄りかかる
——怖くなくなったのは、いろいろな現場で仕事をしてきたからでしょうか?
東出:そうですね。現場で関わる人たちのいろんな影響を受けて変わってきました。今回の作品、『寝ても覚めても』の濱口監督の影響も大きいです。今回は、ワークショップ期間が長かったのでとてもありがたかったです。
——どのようなワークショップが行われたのですか?
東出:俳優陣がお互いに30秒見つめ合ったり、インタビューし合ったり、役になり切ってドライブに行くエチュードをしたり……。そういった経験を繰り返すことで、次第に「演じ分ける」という意識がいらなくなるくらい麦や亮平の気持ちが理解できてくる。「いい演技はこうやって生まれる」ということを、体で感じることができました。今回のようなやり方は、すべての現場で通用するわけではないけれど、必ず今後に活きると思いますね。
——いろいろな監督の作品に関わるというのは、私たちでいえば、上司が変わったり、会社が変わったりすることと似ているのかなと思うんです。
東出:ああ、なるほど。確かにそうかもしれません。
——そうやって新しい環境に放り込まれたときに、自分がそれまで積み重ねてきたものが絶対だと思い込んでいると、新しいやり方に抵抗を感じてしまうこともあると思います。東出さんは、初めての監督と作品をつくるとき、どのように自分をリセットしていますか?
東出:20代後半のある時期、「自分はこんなにすごい人たちに囲まれているんだ。そういうことを、何も考えずに仕事してきたんだ」と痛感する日々が続いたことがありました。その日々の中で驕りが削がれていったので、今は相手の主張を尊重して受け入れることができているのかなと思います。
「自分はできる」と思い込んでいると、指示されたことに対して口を出したくなってしまうと思うんです。でも本来は、自分はその作品を構成する材料のひとつに過ぎないと思うほうが健全で。他力本願というか、自分はそこでは新参者だと考えて、「わからないから教えて」と言ってみる。肩肘張らずに、周りに寄りかかることが、新しい環境に早く馴染むコツなんじゃないかなと思いますね。
とはいえ、やっぱりこの業界で7年やってきたので、「お前の経験値はどれほどだ?」と試されるシーンも多いですよ。そういうときは、「やってやろう」と闘争心をむき出しにすることもあります(笑)。
人間性を磨くことが、やりたい仕事を引き寄せる近道
——他にも何か心掛けていることはありますか?
東出:普段からの人間性というのは意識していますね。挨拶をちゃんとするとか、人に迷惑をかけないとか。
映画でもドラマでも舞台でも、作品が終わって解散するときに、「この素晴らしい人たちとは、一期一会の関係なんだな」と、寂しさを感じることがあるんです。「この人たちと、また仕事をしたい」と思うのですが、相手もそう思ってくれるかはわかりません。
俳優なので、芝居の善し悪しが次につながることも、もちろんあります。でもやっぱり、「この人とまた仕事をしたい」というのは、人間性に拠るところが大きいと思うんですよ。だから、次も一緒に仕事ができるよう、できるだけ皆といい関係を結ぶことを心掛けています。
映画『寝ても覚めても』は9月1日(土)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、 渋谷シネクイントほか全国公開。
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)
脚本:田中幸子、濱口竜介
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
©︎2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
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情報元リンク: ウートピ
東出昌大「30代の課題はラクにやること」映画『寝ても覚めても』で一人二役に挑戦