「一人一人が、光で可視化されている。そこにいるということが、光で表されているんですよね」
国会議事堂前のデモで参加者にコールを呼びかけるeriさんは、ステージから見える風景についてそう語る。
私がeriさんを知ったのは、5月29日の「せんそうさせない緊急アクション」だった。音楽に合わせて声を上げる人たち、カラフルな光を放つペンライト、飾り付けられたステージ。「フェスに来ているみたいだな」と思った。その場でマイクを握っていたのがeriさんだった。
古着店「DEPT」のオーナーであり、デザイナーでありアクティヴィスト。2022年には仲間と、市民が社会に声を上げるための団体「WE WANT OUR FUTURE」(以下、WWOF)を立ち上げた。
気候変動について学ぶことをきっかけに、自身のものづくりや暮らしも見直してきた。その実践を、愛用する服や日用品などを通してつづったのが、2026年3月発売の初のフォトエッセイ『暮らしの中の小さな革命』(光文社)だ。
何を選び、どう暮らすか。その選択と、社会に声を上げることは、どうつながっているのだろう。
『暮らしの中の小さな革命』(光文社)より=光文社提供
Contents
服や日用品から見えてくる、モノを選ぶ理由
『暮らしの中の小さな革命』には、ファッションアイテムやインテリア、日用品、思い出の品などが、写真と文章で紹介されている。何を選び、なぜ使っているのか。モノとの出合いや選択の背景を通して、eriさんが暮らしのなかで大切にしていることがつづられている。
気候変動や社会課題について、主にSNSで発信してきたeriさん。情報が流れていくなかで、本という形にまとめたいと考えていたという。
「SNSを中心に発信していると、情報を留めておくことがなかなか難しいんですよね。私自身、本がすごく好きなので、いずれ本にできたらという気持ちがありました」
ただ、気候変動を正面から扱う本では、手に取らない人もいるかもしれない。そこで、日々使っているモノや、それを選ぶまでの経験を入り口にした。
『暮らしの中の小さな革命』(光文社)より=光文社提供
「持続可能な地球環境と整合性のある生活を実践していくなかで、選んでいくプロセスや、選んだものがある生活が、自分にとってすごく楽しいものだったんです。そうした経験を踏まえて、モノを語り口に、問題意識や、これからの社会のあり方について、皆さんとお話しできるといいなと思いました」
eriさんは古着店を営む両親のもとで育ち、2004年に自身のブランド「mother」を設立。2015年には、父が創業した「DEPT」を再始動させた。
一方、毎シーズン、多くのアイテムを生み出し続けることに疑問を抱き、2015年に定期的なコレクション発表を休止。その後は古着の買い付けを進め、つくりたいものができたときに発表し、受注生産を中心とする形へと切り替えた。
さらに転機となったのが、2019年にIPCC1.5℃特別報告書(気候変動に関する政府間パネル)の報告書を読んだことだった。気候変動の深刻さを知り、学びと実践を進めていった。
「知らないほうが怖かった」
SNSを開けば、戦争や環境破壊、人権侵害のニュースが毎日、これでもかと飛び込んでくる。自分にできることは何かと自問する一方で、世界各地の悲劇を前に絶望してしまう。こんなことを知らなければ、いつもどおりの日常を送っていられたのに、と思いながら日々仕事に行く──。
eriさんも、そんな気持ちになることはないのだろうか。藁にもすがる思いで、問いをぶつけた。
「知らないほうが怖かった、という感覚ですかね」
落ち込むことも、どうしていいかわからなくなることもある。それでも、知らないままでいることには、別の怖さがあるという。
「知らない状態だと、必要以上に不安になったり、実際に起こっていること以上に怖がったり、警戒したりしてしまう。何もできることがないんじゃないか、という状態にも陥りがちだと思うんです」
気候変動については、学ぶことで、自分が何をすべきかが少しずつわかるようになった。
「そのなかで、自分で考えて実践していくこと自体は、すごく楽しく感じているんです」
それまで目を向けてこなかった人たちの存在に気づくこともある。
「いろいろな方が問題を抱えたり、苦労されたり、声を上げたりしている。それなのに、自分はこの問題に目を向けたことも、知ったこともなかったんだと、恥ずかしく思うことがあります。そういう意味でも、いろいろなことを知っていきたいとは、常に思っています」
自分の暮らしだけでは、変えられないこと
暮らしの選択を考える一方、個人の実践だけでは解決できない問題も見えてきた。
「市民社会が声を上げて、社会構造自体の変革を前に進めていくことの重要さを感じました。同時に、政治や企業が動いていかないと解決できない問題だと思ったんです」
もともとの政治への関心と、気候変動について学んだ経験が合流した。その考えから取り組んだのが、2021年の衆議院議員選挙に合わせた「みんなの未来を選ぶためのチェックリスト」だ。各政党へ質問状を送り、回答を一覧にして、投票の参考にしてもらおうというプロジェクトだった。
ただ、各政党に回答を求める取り組みには、その性質上、党派性を持ち込めない。別の角度からも行動したいと、2022年に仲間と立ち上げたのが「WE WANT OUR FUTURE」だった。最初の活動は、同年7月の参院選を前にした音楽イベントだったという。
現在は気候変動や人権、反戦などをテーマに、デモやマーチ、勉強会を企画している。全員がボランティアで、代表制は取っていない。中心となるメンバーは10人前後。グラフィックや音楽、ステージの設営、交通整理など、それぞれが得意なことを担う。
「毎回、参加できる人が参加する。できないときはしない、という形を取っています」
WWOFが主催する国会前アクションでステージに立つeriさん(C)KOTETSU NAKAZATO
意見を言えなかった日も、経験になる
私自身、デモに参加したことを、誰にでも気軽に話せるわけではない。政治や社会問題についても、似たような学生時代を送り、似たようなコミュニティに属してきた、考え方の近い友人としか安心して話せない。本当は、いろいろな人と、ランチの席で日々の出来事を話すように、もっと気負わずに話せたらいいのにと思う。
一方で、自分と考えが違う人と話す機会があっても、なんとなく相手に合わせてしまうことも。あとになって「もっとこう言えばよかった」「なぜ日和ってしまったんだろう」と悔やむこともある。
eriさんにも、そんな経験はあるという。
「自分とは違う考えや意見を言う人を前にして、私もたじろぐことはあります。もっとこう言えたんじゃないかなとか、受け流してしまったなとか、あとから思うこともあります」
相手を頭ごなしに否定せず、自分の考えを伝える。そのためには「経験と練習(シミュレーション)が必要」と話す。
「特に日本は、政治的なことについて議論したり、意見を交換したりする経験が、圧倒的に少ないと思うんですよね。だから、そういった場面でうまくできないのは、当たり前。自分は今、経験を積んでいるんだと思うようにしています」
意見を言えなかったことが嫌だったのか、笑ってごまかしたことが嫌だったのか。うまく話せなかったときは、何が心に残ったかを考える。
「何が嫌だったのかを振り返って、次は一つでも改善できるように、頭のなかで練習してみる。そうやって、少しずつうまくなっていくのかもしれません」
eriさんが伝えるときに大切にしているのは、行動とともに、その理由を話すことだ。
「国会前でデモをするということだけを切り取ると、過激に見えることもあるかもしれない。でも、私だけじゃなくて、今、目の前にいるあなたの権利も守りたいと思っている。なんでこれをやりたいと思っているのかを、丁寧にお話しできたらと思っています」
音楽やファッションの延長線上に
eriさん自身、かつてデモに参加したときには、なじめなさを感じたことがあると言う。
「この問題に声を上げに来たんだけど、自分がここにいることが場違いであるような感覚が、すこしあったんですよね」
だからこそ、WWOFでは参加するハードルを下げることを大切にしている。
「音楽とかファッションとか、自分たちが楽しむために参加したり、見たりしているものの延長線上に、こういったアクションがあってほしい。それは、ずっと思っていました」
グラフィックや色使い、言葉も、そのために考えてきたものだ。
「難しすぎないとか、怖くないとか、難しい漢字を並べるのではなく、ひらがなに開いてみるとか。本当にちょっとしたことなんですけど」
「めちゃくちゃな政治に抗議します」というタイトルも、ミーティングで生まれた。状況をどう表現するか話し合うなかで、「もうめちゃくちゃだから、めちゃくちゃでよくない?」という話になったという。
「個別具体的な問題を掲げると、どうしても温度にばらつきが出てしまう。でも、この状況自体がめちゃくちゃだということで、それぞれに問題意識を持っている人たちが、一緒になれる感じがあるんです」
音楽に乗せたコールも、DJやミュージシャンとともに言葉やトラックをつくり、数日前にはリハーサルスタジオに入る。
「みんなが言いやすい語呂にしていくと、従来のシュプレヒコールの形に落ち着くんですよね。そこを音楽に乗せてどうずらすか、どういう言葉遣いにするか、どこで区切るか。ちょっとしたことで変わるんです」
従来のスタイルにも敬意を持ちながら、新しく参加する人も声を上げやすい形を探っている。
(C)KOTETSU NAKAZATO
ペンライトの光の先に、一人一人の顔が見える
WWOFなどが呼びかけた「平和憲法を守るための緊急アクション」は、2026年2月27日に首相官邸前で始まった。3月10日、25日、4月8日と開催され、参加者は初回の約3,600人から、4月8日には3万人(いずれも主催者発表)へと増えた。同日は全国47都道府県165カ所でも連帯行動が行われた。
7月10日の「国会前アクション『めちゃくちゃな政治に抗議します』」には約2万7,000人が参加。45都道府県153カ所でも、それぞれの街で声が上がった。
「自分一人が行っても変わらない」。そんな言葉を耳にするなか、一人一人が自分の力を過小評価しないためには、どうすればいいのか。eriさんも考えてきた。
その力を実感するのが、ステージに立つときだ。以前は遠くの人の姿が暗闇に溶けていたが、ペンライトなどによって、後ろのほうまで人がいるとわかるようになった。
「一人一人が、光で可視化されている。そこにいるということが、光で表されているんですよね」
集まった人たちにも仕事や学校、家事があり、疲れた日や嫌なことがあった日がある。そのなかで参加しようと決め、電車などに乗ってやって来た。一人一人の意思が、目の前の光景をつくっている。
「一人が持つ力は100ではないけれど、必ず1があるじゃないですか。ゼロではない。1がないと始まらないことが、すごくいっぱいあるし、デモはまさにそういう場なんだと思っています」
ペンライトの光に包まれる(C)KOTETSU NAKAZATO
ステージから見ていると、ひとまとめの「群衆」が大事なのだとは感じないという。
「立っている一人一人が、ものすごく大事な存在だと感じるんですよね。それを伝えられるといいなと思っています」
著書のタイトルにある「革命」も、一人一人の変化につながる言葉だ。
「革命って、すごく大きな言葉で、自分たちの人生には関係がないように聞こえるかもしれない。でも、変化を起こすということは、やっぱり革命だと自分は思っているんです」
すぐに結果が見えるとは限らない。それでも、市民運動に関わるなかで、先人が変えてきた社会に、自分たちが暮らしていると実感するようになった。
「次の世代に、よりよいものをバトンタッチすることが、一番重要だと思っています。だから、声を上げ続けていくことに意味がある。目の前の大きな変化だけにとらわれず、一人一人の声をどう使っていくか。もっといろいろな人と、お話しできたらと思います」
次回の国会前アクション「めちゃくちゃな政治に抗議します」は10月30日(金)19時半から国会前で開催。
(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、トップ写真:(C)KOTETSU NAKAZATO)
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情報元リンク: ウートピ
「ペンライトの光の先に、一人一人の顔が見える」国会前に広がる3万人の光…ステージからeriが見た景色