以前は気にならなかったパートナーの言動にカッとなる、オフィスで同僚の態度にイライラして大きな声を出しそうに……など、自分の感情をもてあますことはありませんか。
「イライラがおさまらず、エスカレートするようなら、漢方薬を試してみるのもひとつの方法です」と話すのは、漢方専門医で臨床内科専門医、また消化器内視鏡専門医でもある吉田クリニック(大阪府八尾市)の吉田裕彦院長。
イライラの対策について聞いてみました。
ホルモンや自律神経の影響で精神不調に
体の不調もさることながら、感情が不安定だと、オフィスや家庭での人間関係をはじめ、さまざまな面で人と衝突しやすくなります。
吉田医師は、「患者さんの中には、仕事上のミスが増える、パートナーとのケンカが尾をひく、友人にやつあたりをするなどのトラブルが重なって、ますますイライラが募るという悪循環を経験する人が多くいらっしゃいます」と言い、女性に多い不調の傾向を次のように指摘します。
「女性は月経や更年期によるホルモンの分泌、また自律神経バランスがもたらす心身の状態の変化によって、さまざまな不調が現れることがあります。月経不順を含む困難症、腹痛や腰痛、微熱、倦怠(けんたい)感、めまい、のぼせ、耳鳴り、のどのつかえ、イライラ、不眠といった症状がみられます。
それらの不調によって、30代後半になれば、『もう更年期かも』と悩む女性もとても増えています」
特に30歳前後の女性のストレスについて、吉田医師はこう説明を加えます。
「職場では責任のあるポジションにつきはじめる、同時に家事と子育ての真っ最中、シングルであれば妊娠、出産のタイミングをはかるなど、生活の多くの面からストレスが重なりやすい時期です。
ストレスが過度になると自律神経のバランスが乱れ、更年期とよく似た症状とともにイライラや怒りっぽくなる、また精神不安が生じやすくなるでしょう。
さらに、基礎代謝が低下しはじめる時期であり、20代前半と同じ食事をしても体重が増えやすくなり、不自然なダイエットを始める人もみられます。それが体調を悪化させ、ストレスとなって気持ちの不安定さにつながるケースもあります」
漢方薬の助けを借りながら、生活のリズムを整える
イライラの悪循環に陥ると辛い日々になります。吉田医師はその対策について、次のようにアドバイスをします。
「まず、自律神経のバランスの乱れを整える生活を送りましょう。1日3食、栄養のバランスがよい食事をとる、早めに布団に入って質のよい睡眠をとる、適度な運動をする、気分転換になる趣味をもつ、朝、昼、夕方は活動的に、寝る前数時間は静かに過ごすなど、毎日ではなくても、できるだけそうした習慣を実践するようにしましょう。
ただし、人間関係に大きく支障が出たり、仕事や家事が思うようにできなくなったり、眠れない日が3日以上続くなど、日常生活に影響するときは、漢方薬を試してみるのもいいでしょう。
漢方薬は体質によっていくつかの種類があります。自分の体質を見つめ、それぞれの薬の特徴を知って、症状に合ったタイプを検討してみてください」
ここで吉田医師は、イライラ対策の漢方薬として、市販されている種類を次のように挙げます。
・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
東洋医学では、ヒトの体は「気(き)、血(けつ)、水(すい)」のバランスが健康を保つととらえます。ストレスで怒りっぽくなる、イライラしやすいというのは、「血」の不足や、「気」と「血」のバランスの乱れ、また「気」のめぐりが悪くなった状態と考えます。
抑肝散加陳皮半夏は、自律神経や血液量を調節しながら、「気」や「血」をよくめぐらせる働きがあるとされています。体力が中等度で、些細なことにカッとなる、ものにあたるなどイライラが強い場合に用いられます。胃腸の働きを整える成分も含まれているため、ストレスが胃腸の不調に現れやすい人、胃腸の弱い人でも服用しやすいでしょう。
・桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
漢方では、月経は「気」の力を用いて全身から「血」を集めて生ずると考えます。「気」や「血」が正常に流れていない場合に、便秘や下腹部痛、のぼぜ、イライラや不安感が起こるとされます。
桃核承気湯は、体力が中等度以上で、月経前、月経中にこうした症状を覚えるときに用いられます。
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
女性にとっては、「血」が心身の基本であるとされ、更年期に現れる症状は、「血」の不足によって起こるととらえます。「血」と「気」は同じ量があることでバランスを保つと考えますが、月経の回数を重ねると、ストレスなどによって、「血」の量は減っていきます。「血」が消耗すると「気」が余り、余った「気」は熱に変わり、上半身や脳に昇って、のぼせやイライラの症状を生じるとされます。
加味逍遥散は、体力は中等度以下で、疲れやすい、肩がこりやすい、冷え症といった更年期の症状がある人に向き、「気」を下げ、熱を抑えて症状を改善するように働きます。自律神経のバランスの調整や全身の血流促進が期待されます。
薬の使用にあたって吉田医師は、こうアドバイスをします。
「漫然と使用を続けることはせず、試用期間は2週間程度を目安としてください。日常生活のリズムを整えることも同時に行うようにしましょう。それでもイライラに悩まされる、人との衝突が多いなどの悩みが改善されないようなら、早めに婦人科や心療内科、内科などを受診しましょう」
イラっとする、カッとなる、コントロールできない感情の起伏の大きさに自己嫌悪。そんなとき、漢方薬という選択があるとのことです。悩んでいるよりも、まずは試して様子を見てはいかがでしょうか。
(取材・文 ふくいみちこ・藤井 空 / ユンブル)
情報元リンク: watapi 「イライラする、怒りっぽい」と感じたら、試してみたい漢方薬【専門医に聞く】