「まさかの糖尿病予備群…健診で指摘されたら」と題し、糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師に連載にて詳しく尋ねています(これまでの記事は文末の一覧を参照してください)。
第14回から第18回までは、糖尿病の三大合併症である神経障害、網膜症、腎症と、新合併症といわれるうつ病、がんとの関係について伝えました。今回は、認知症が新合併症と言われること、そのリスクやケアについて伺います。
糖尿病の人は認知症のリスクが2倍
——糖尿病の新合併症には、うつ病、がんとともに、認知症が挙げられると聞きます。
福田医師:糖尿病の場合、うつ病、がんとの関係とともに、認知症との関係についても多くの研究報告があります。
認知症にはいくつかの種類があり、人数が多い順に、「アルツハイマー型認知症」が約53%、「脳血管性認知症」が約43%、「レビー小体型認知症」が約15%といわれます。合計すると100%を超えるのは、混合型も含まれるからです。
このうち、糖尿病と関係があるのは、「アルツハイマー型認知症」と「脳血管性認知症」です。中でも、九州大学が1985年から継続する福岡県の「久山町(ひさやまちょう)研究」では、血糖値が正常な人に比べて糖尿病の人では、「アルツハイマー型認知症になるリスクは2.05倍」、「脳血管性認知症では1.82倍」、「認知症全体では1.74倍」であることが報告されています。
糖尿病と認知症が関係する原因は?
——その2つの認知症に糖尿病はどう関わるのでしょうか。これまでにお話しを聞いた、血管の損傷が原因なのでしょうか。
福田医師:脳血管性認知症の場合はそうです。糖尿病は血液中に糖分があふれている状態なので、動脈硬化が進みやすくなります。すると、脳細胞への血液や酸素の供給が低下して脳梗塞(こうそく)のリスクが高まります。脳梗塞は脳の血管が詰まる病気なので、脳血管性認知症を患いやすくなります。
——アルツハイマー型認知症と糖尿病はどう関係するのでしょうか。
福田医師:アルツハイマー型認知症の脳では、アミロイドβ(ベータ)というタンパク質の、通称「老人班」と呼ぶシミが蓄積しているという特徴があります。このシミは20年以上をかけて脳の神経細胞にじわじわとダメージを与えながら溜まっていきます。
一方、糖尿病を発症すると、高血糖がもとで活性酸素が増えて、全身の細胞に酸化ストレスをもたらし、さまざまな臓器や血管で慢性炎症も起こります。その結果、脳ではアミロイドβが増えるのです。
また、アミロイドβを分解するのは、インスリン(すい臓から分泌されるホルモン。血液中のブドウ糖が、肝臓などに取り込まれるよう促し、炭水化物、タンパク質、脂肪の代謝を調節する)を分解する酵素と同じです。糖尿病の場合はこの酵素がインスリンを分解するほうに消費されて、アミロイドβの分解まで追い付かなくなります。そしてアミロイドβが脳に溜まっていきます。このようにして糖尿病はアルツハイマー型認知症の原因になると考えられています。
血糖コントロールで認知症が改善する
——では、健康な状態では、アミロイドβは脳に蓄積しないのでしょうか。
福田医師:健康な場合は、アミロイドβを分解する酵素が作用して血液に放出するシステムが働きます。その作用をインスリンが促すため、糖尿病の人に比べるとアミロイドβの蓄積は少なくなります。
——すると、血糖値をコントロールできていれば、認知症になる可能性は少ないということでしょうか。
福田医師:「HbA1c(エイチビーエーワンシー、またはヘモグロビンエーワンシー。糖尿病の診断基準のひとつで、血液検査でわかる。第1回参照)の数値が悪くて14日間入院した人が、血糖値を改善して退院する際には認知機能も改善した」という報告があります。14日間という短期間でも改善が見られたわけです。糖尿病であっても、適切な治療で血糖値をコントロールできていると、認知症を予防することが可能です。
糖尿病も認知症も予防する方法は?
——先ほど、「脳の老人班であるアミロイドβは20年以上をかけて蓄積される」と聞いてどきっとしました。早いうちから予防が必要ですか。
福田医師:必要です。糖尿病も認知症も、気がつかないうちにじわじわと進んで行きます。「糖尿病にまで至らない予備群の人でも、健康な人に比べると認知症のリスクが高い」、また、「糖尿病でうつ病を合併している場合は認知症になりやすい」という調査報告もあります。
もし健康診断などで糖尿病予備群だと指摘されたら、年齢に関係なく、糖尿病のみならず、認知症、うつ病、がんや三大合併症の神経障害、網膜症、腎症を予防する機会だと考えましょう。
——自分で予防する方法はありますか。
福田医師:あります。かかりつけ医の指導のもとで血糖値を良好に保って糖尿病の発症を遅らせましょう。自分でできる方法としては、栄養のバランスが良くて自分にとって適切なカロリーの食事、充実した睡眠、それに、軽い有酸素運動があります。
とくに中年の時期に運動不足で活動性の低い肥満の人では、将来、認知症の発症率が高いという報告もあります。予防には、若いときからの運動習慣も重要になります。
中でも、糖尿病も認知症もうつ病も予防することができる方法が、「ウォーキングをしながら計算やしりとりをする」ことです。「デュアルタスク」として、2つ以上の動作をすることが脳の神経を活性化することがわかっています。目安として、週に4日以上、1回につき30分~1時間ほど実践しましょう。計算には、100から7を順に引いていくこと、また、誰かといっしょのときにはしりとりをしてみてください。
健康な場合でも、遅くとも40歳ぐらいからはこうした生活習慣を実践して、糖尿病をはじめとするさまざまな病気を予防しましょう。
聞き手によるまとめ
糖尿病を発症すると、認知症の原因となる脳のシミの老人班が蓄積しやすいこと、そのメカニズムがわかりました。糖尿病予備群の場合も、加齢とともに老人班が溜まりやすいということです。糖尿病も認知症も予防するという、「ウォーキング+計算」などのデュアルタスク運動を習慣にしていきたいものです。
次回・第20回は、糖尿病と歯周病の関係について尋ねます。
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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