お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気(いわい・ゆうき)さんによるエッセイ『どうやら僕の日常生活はまちがっている』(新潮社)が9月28日に発売されました。
10万部を突破した前作『僕の人生には事件が起きない』(同)に続く2年ぶりの新作。近所のヨガ教室に行った話や珪藻土マットレスをめぐる母親との攻防など、岩井さんのなんでもない日常をつづり、小説の執筆にも挑戦しています。
エッセイの執筆のほかにもマンガ原作、芝居など次々と新しいことに挑戦している岩井さんにお話を伺いました。前後編。
“身削り自叙伝”を書かない理由
——2年ぶりの新刊ですが、前作と比べていかがでしたか?
岩井勇気さん(以下、岩井):前作よりも、肩の力を抜いて書けたような気がしますね。「面白く書かなきゃ」とか、「起承転結をしっかりしなきゃ」とか、「ちゃんとした話にしよう」とか、そこまで深く考えなかったかもしれないです。
——テーマの探し方は変わってないですか?
岩井:何も変わってないですね。“何も起きていない”ことをテーマに書いているので。
——まえがきで「身削り自叙伝を書くのはやめた」とおっしゃっていましたね。
岩井:誰の自伝であっても、何となくみんな興味があるじゃないですか。でも、前作のタイトル同様、自分の人生で何か大事件が起こっているわけでもないので。それを大げさに、“山あり谷あり”みたいに書くのが、全然好きじゃないんです。
それに、自伝は今まであったことを書くことなので、自伝を書いちゃうとこれから書く題材がなくなってしまう。それは結局、ストックを減らしてるだけですよね。言いたくもないのに、自分の中から何かを無理やり絞り出すような状態になりたくないんです。「無限に題材がある日常にしたほうがいいんじゃないか」と思っていて。
——コロナ禍での執筆だったと思うのですが、何か思うところはありましたか?
岩井:正直、「やることがあって逆に良かった」という感じですね。みんなが自粛してて、テレビの収録も全然なくなった時に、執筆も含めてやることが結構あったんです。別にやりたいこともないのに、YouTubeを始めなきゃいけない状況じゃなくて、良かったと思ってます(笑)。
——今回は、小説にも挑戦されています。個人的な感想ですが、エッセイと地続きな感じで「この本はエッセイだと思っていたけれど、実は小説だったのかな?」と思いました。
岩井:よく分かりましたね。全部小説だと思ってくれていいんですよ。僕は、小説もエッセイも一緒だと思っていてそこを意識して書きました。だって、世間では「小説家のほうが偉い」と扱われるじゃないですか。でも、エッセイだって、「小説かな?」と思ったら、そう思えるじゃないですか。だから、一緒でしょうということです。
——発売にあたり、ファン投票で帯を決める「“帯”総選挙」なども企画されています。これは、岩井さんのアイデアなんですか?
岩井:いや、僕じゃないです。ファンの人は、どんな帯でも買ってくれると思うので。でも、この機会に少しでも帯に興味を持ってもらえたら……
……って今言おうとしたんですけれど、正直「帯に興味を持ってもらって、どうするんだろう?」って、今思いました(笑)。
——でも、投票で決まった初版の帯デザインでは、岩井さんが10代の頃に思い描いた一人暮らしの世界を実際に再現されていましたよね?
岩井:そうですね。エッセイみたいなものも書きましたし僕はそんなに効果はないと思ってるけど、やってみないと文句は言えないので。「やってみたらいいんじゃないですか?」というスタンスでいろいろやってます。
文句を言うなら“深めの文句”を言いたい
——岩井さんは執筆以外にも、ゲームやマンガの原作を手がけたり、ドラマやCMに出演されたり、さまざまなことに挑戦されています。「まずはやってみる」って感じなのでしょうか?
岩井:「文句を言うなら、やってから言おう」と思っているので、一回やってみるんです。だって、やらないと“浅めの文句”になるじゃないですか。やっぱり、“深めの文句”を言いたいので。
——深めの文句!
岩井:やった人間だからこそ、分かる文句もあるじゃないですか。やらないでも文句は言えるけど、やってからの文句のほうが面白くないですか? それを、バシッと言いたいんです。
——日常生活でもちょこちょこ新しいことに挑戦されてますね。1人でヨガ教室行った話が面白かったです。
岩井:いつも別の自分が自分を見ていて、ずっと客観視してるんです。例えば、1人で新しい教室に行くのって怖いですよね? 1人で行く時って、誰も味方がいないじゃないですか。でも、誰も味方がいないことを客観視すると、「なんで30過ぎの男が、1人でこんなところに来てるんだろう?」と思えるので、それなりに楽しめてます。
——前回のインタビューでも芸人を始めてから客観的に自分を見るようになったっておっしゃっていましたね。
岩井:僕はいつも、ストレスを天秤にかけるんです。自分の中では、「イジられてつらいな」というストレスよりも、イジられることで面白くなっている状況のほうが大事なんですよね。「自分がつらいストレスと、面白い状況がなくなるストレスのどっちが高いんだろう?」って考えたら、面白い状況がなくなるほうが嫌なので。
——結婚式のスピーチを忘れて大遅刻したエピソードもありましたが、普通だったら行けないですよね。でも、よく勇気を出して駆け付けたなーって。
岩井:結婚式に行くのを忘れてて、ギリギリになっちゃうけど行かなきゃいけない状況って、人生でなかなかないじゃないですか(笑)。しかも自分がスピーチを頼まれてるのに。「行ったらどうなっちゃうんだろう?」というのは、行くしか知るすべがないですよ。こんなレアなことはないと思ったし、行ったらどうなっちゃうのか知らないほうが嫌だなと思って。もちろん、申し訳ないっていう気持ちはあったけど、「俺、どんなこと言われちゃうんだろう?」っていう興味のほうが、優先度が高かったので行きました。
——つい面白いほうに行っちゃうんですね。
世界で一番自分が自分をうまく使いたい
——なんでもない日常をちょっとでも面白く捉えようとする岩井さんのスタンスっていいなあと思います。「手持ちのカード」でいかに自分の人生を面白くするかみたいな。
岩井:人はみんなスタート地点が違いますからね。そもそも最初から、平等じゃない。でも、もし世の中すべての人が、僕の能力と体を与えられたら、世界で一番自分が自分をうまく使えるようになりたいんですよ。
——「世界で一番自分が自分をうまく使う」ってめちゃくちゃいい言葉ですね。究極のポジティブ論というか……。
岩井:だから例えば、「お前の見た目と恵まれた環境だったら、俺はもっとデキるけどな」とは思いますね。芸能界に入って、イケメンでお金を稼げてないヤツって意味分かんないなって。イケメンだったら、それだけでお金を稼げるのに……。稼ぐすべなんて、いっぱいあるじゃないですか。
——そうか、自分を最大限に上手く使うためにいろいろなことに挑戦しているということですか?
岩井:そうですね。一回やってみないと分かりませんし、やらないという選択はあまりしないです。例えば、ご飯を食べてて、「うわっ! おいしくない! 一口食べてみなよ」って言った時に、かたくなに食べないヤツとか腹立つんですよね。何の話にもならないじゃないですか。つまんないヤツだなって思います。だから、いつもとりあえず何でもやってみる。だから、僕はフットワークが重そうで軽いんですよ。
※後編は9月30日に公開します。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)
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情報元リンク: ウートピ
「世界で一番自分が自分をうまく使いたい」岩井勇気がいろいろ挑戦する理由