健康、料理、ファッション、お金など50代以上の女性が求める情報やニーズにいち早く応え、販売部数を伸ばしている定期購読誌『ハルメク』。雑誌不況やコロナ禍にもかかわらず売り上げを伸ばし、2020年下期の販売部数は37万2,885部*を記録しました。
雑誌『ハルメク』のコンテンツ作りを陰で支えているのがハルメクホールディングス内のシンクタンク組織「生きかた上手研究所」。読者を中心とした約3,500人のモニター組織「ハルトモ」に対して年間200以上のアンケートやインタビューを行い、誌面作りのほか同社が展開する通販商品やサービス開発に役立てています。
前編に引き続き、後編では「コロナ禍とシニア女性」をテーマに、同研究所所長の梅津順江(うめづ・ゆきえ)さん(50)にお話を伺いました。前後編。
*日本ABC協会『発行社レポート』より
コロナ禍で進んだシニアのデジタルシフト
——シニア女性のインサイトとして、コロナ禍での変化はありましたか?
梅津順江さん(以下、梅津):変化はありました。一つは、デジタルに関する意識が格段に変わりました。それまでは、「インターネットは実感が持てない。怖いモノ」「私たちはだまされる世代だから」という意識があり、シニア世代にとってすごくハードルが高かったんです。「ネット通販のクレジット決済」「ネット銀行」などお金周りのことを、インターネットでやることにどうしても不安があり、積極的な活用は進みませんでした。
でも、コロナ禍により、社会情勢が変化したことで、シニア世代のデジタルシフトが進んだと感じています。今まで抵抗があったものを、社会情勢によって変えざるを得なくなりました。「感染リスクが低い」という確固たる動機づけがこの層に影響を与えました。インターネットが使えなければ、通院やワクチン接種の予約も、お買い物をするのもままならないですから。
——デジタルシフトのほかにも、変化はありますか?
梅津:安心安全に対する意識がすごく高まりました。マスクや手洗いといった目先のことだけでなく、「コロナに感染した時のために、基礎体力や免疫力を高めたい」といった気持ちが強くなっています。コロナだけでなく、これだけ災害も多いと、「日本は安全ではない」ということで、備える意識が高まっていると思います。
今後も、基礎体力や免疫力に関するニーズは、増していくと思います。「家にずっといると歩かない。運動不足になる」「人と会話しないから脳が衰える」といったことを危惧されています。「高額なサプリメントに替えました」「良質な睡眠を求めて寝具を買い替えました」という話も、この1年で幾度が聞きました。備え消費としてヘルスケア領域は広がっていくと思っています。
ついでに言うと、コロナが収まったら、つながり関連の行動は反動が来ると予想しています。旅行をしたり、イベントに参加したり、その時々を楽しむ“トキ消費”が増えるでしょうね。
——なるほど。確かに、「旅行に行きたい」という欲がたまっていそうですね。
梅津:シニア世代にとって、旅行に行けないことがストレスやモヤモヤにつながっているので、旅行は必ず復活するでしょう。遠くに行けないことや、他人と交流できないことに対する鬱憤(うっぷん)がすごくたまっています。「旅行も外食もしなくなって、お金の使いどころを探している」という消費欲求を訴える人もいます。若い世代同様、シニア世代も“応援消費”が活気づいています。年金世代ですので、コロナ禍によるお金の悩みはさほど見られません。「給付金10万円を何に使いますか?」という調査では、地域や若い人への支援、子供や孫にお金を使いたいという方が多く見受けられました。
——コロナ禍で、調査の方法もオンラインに移行したと思いますが、そこでの気付きなどはありましたか?
梅津:良い点と良くない点があります。インターネットができる人に調査対象が限られてしまうので、パイが狭まってしまうというリスクがあります。一方で、都市部の方だけでなく、地方の方の意見が聞きやすくなりました。また、カメラをつないで調査をするので、ご自宅の中を観察できるのもメリットの一つ。「カメラを使ってこっちに見せてもらえますか?」といって家の中の様子を、抵抗のない範囲で伺っています。
「シニアはこうであるはず」と決めつけない
——シニア世代に対して、「生きかた上手研究所』が心掛けていることを教えてください。
梅津:「生きかた上手研究所」では、三つの行動指針を明文化しています。一つは、「シニアを尊重して、信頼関係を深める」こと。そもそも先輩方から生きかたや知恵を教わるので、リスペクトするのは当然ですし、その気持ちを忘れないことが大切だと思っています。
二つ目は、「シニアの意識や行動を常に洞察して、わずかな変化も見逃さない」こと。社会環境が常に変化していく中で、シニアのマインドも常に変化しているんです。「シニアはこうであるはず」と決めつけない、「今は変わっているかもしれない」と微差を洞察することを意識しています。
三つ目は、「シニアの生々しい情報を発信する」ということ。知り得た情報やデータを、社内のシステムにある「デジタルライブラリー」へオープンに公開して、誰でも閲覧できる環境を整えています。
『Hanako』世代の介護は合理的?
——『生きかた上手研究所」の今後について、どのようにお考えですか?
梅津:シニア世代というものを、長い目で見ていかなければならないと感じています。例えば、今の40代~50代が、いずれ60代~70代になる。『Hanako』世代も50代後半になりつつあります。バブル崩壊後の世代もいずれシニア世代にシフトします。消費に対する視点がまったく違ったり、雑誌よりもインターネットから情報を得ているので、その辺りを見据えた予測をしていきたいと考えています。
——「シニア」と言っても、育ってきた時代や環境でその中身やインサイトも異なってくるのですね。
梅津:例えば、『Hanako』世代は、今のシニア世代とはまったく違う文化で育ってきているんです。消費も華やかでしたが、バブル崩壊後は子育て中に夫の失業を経験したり。気持ちは華やかでいたのだけれど、実が伴わない世代なので、使うところにはお金を使うけど、使わないところにはお金をまったく使わないんです。メリハリがあってすごく合理的な考えを持っているんです。
そして、『Hanako』世代は、ファザコンが多いことも特徴の一つです。その前の世代の父親たちは威厳があって近寄りがたい存在でしたが、『Hanako』世代の父親は、娘をかわいがって、好きなものを買ってあげるような世代。そんな父親のことが大好きなので、介護に関しても「自分がやりたい。他人にやらせたくない」という話を頻繁に耳にします。“やらなきゃいけない介護”から、“やりたい介護”にシフトしていくと思うので、訪問介護や自宅介護といった形が増えるのではないかと予測しています。それも、ちゃんと行政の力を借りながら、うまく合理的にやる世代だと思うので、一つ前の世代みたいに「全部自分たちで100%やらなきゃいけない」と抱え込むことはないとみています。
——最後に一つ。「生きかた上手研究所」の所長でもあり、20、30代のウートピ読者の先輩でもある梅津さんに、仕事をする上で大事にしていることを聞きたいです。
梅津:そうですね、私は「求めない、諦めない」ということをモットーにしています。つまり、「他人にはこだわらないけど、自分の信念にはこだわる」ということ。他人には、期待しないし見返りも求めない。だからか、してくれた時は「本当にありがとう」という、うれしい気持ちで満たされます。一方で、自分の夢や志は、絶対に諦めずに粘り強く貫き通すということを決めています。「絶対に自分の意思は貫く。でも、他人には期待しすぎない」ということですね。
——いい意味で他人や周りに期待しないということですね。
梅津:自分で結論が出なかったり、判断ができなかったり、解決できなかったりした時に、もちろん他人に相談はするんですけど……。でも、最後は、他人の意見を参考にしつつ、ちゃんと自分で決めることは大切だと思います。例えば、結婚をとってもうまくいかなかった時に、自分で決めたとしたら仕方ないと思えますが、親が決めていたら親のせいにしますよね。だから、仕事でもプライベートでも、後悔しないために、自分で決めることを心掛けるのが大事かなと思います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
「シニア女性はこうであるはず」と決めつけない 『ハルメク』シンクタンクが大事にしていること