8月20日(金)に全国公開された映画『ドライブ・マイ・カー』。愛する妻を亡くした演出家の主人公・家福(かふく)を西島秀俊さん、家福の舞台に出演する若手俳優・高槻を岡田将生さんが演じています。村上春樹による同名の短編小説に、さまざまなモチーフを取り入れて練り上げられた脚本は、カンヌで日本映画初の脚本賞を受賞しました。
ウートピでは、本作に並々ならぬ思い入れを見せる岡田さんにインタビュー。第1回となる今回は、この美しい物語をどのように作り込んでいったのかをうかがいました。
「声の大切さ」を知って、お芝居がもっと好きになった
——まずは、岡田さんがはじめて脚本を読んだときの気持ちを聞かせてください。
岡田将生さん(以下、岡田):いままでさまざまな作品をやらせていただいてきたなかでも、特に読み応えのある脚本だと思いました。この映画で監督が描きたいものを汲み取って読めば読むほど、すばらしい脚本で。ちょうど地方ロケに行く途中の車中で読んでいたのですが、それがちょっと物語のシチュエーションと似ているなと感じて。それもあいまって、とてもご縁を感じました。そして、自分はこの役をどう演じればいいのかということで頭がいっぱいになりました(笑)。
——岡田さんが演じたのは、物語を大きく動かす俳優・高槻の役です。どのように役をつくっていきましたか。
岡田:濱口竜介監督と、とにかくたくさんお話をしました。監督は脚本も自ら手がけられているので(編集部註:大江崇允氏との共同脚本)。そのなかで、この役には答えがないから「観る人に委ねよう」と決め、そういう感覚を大切に演じていったんです。だから、いまだに高槻という役には、自分自身でも結論が出ていなくて……観た人に、善なのか悪なのか決めていただきたいと思っています。でも、そんな役をやれたことは、自分にとって本当に大きな出来事でした。奥深いところまで周りとコミュニケーションを取り合ってチャレンジできたので、あらためてお芝居が好きになりました。監督にもそんな感想をお伝えしました。
——すでにすばらしいキャリアをお持ちなのに、「あらためてお芝居が好きになった」って、とても素敵ですね。
岡田:「好きになった」というか……「好きだった」のだと、再確認できました。監督は、すごく声にこだわる方なんです。濱口組に参加された方の多くが語っていらっしゃると思うんですが、実際に撮る前に、時間をかけて何度も本読みをするんです。あえて言葉に感情を乗せず、ひたすら繰り返す。そのあとの本番で、はじめて気持ちを入れて台詞を喋るんです。そうした経験をするうちに、言葉の聴こえ方や響き方によって、自分の芝居が大きく変わってくることに気づかされました。同時に、いままでずっと声をおろそかにしてしまっていたような気もして……あらためて、芝居って面白いなと。しかも、これまでよりも強く、役と自分がシンクロしていく感覚がわかったんですよね。だから、いまは違う現場でも、勝手に本読みのメソッドを取り入れています。
——どんなふうに?
岡田:相手はいないので、一人で感情を入れない台詞を録音するんです。現場がそれを求めているかどうかはともかく、僕のなかで、ここ最近のルーティンになっています。
——一人でも本読みを徹底すると、演技はどう変わりますか?
岡田:表情ひとつ取っても変わってきます。テレビドラマは顔のアップのシーンが多いので、普段はつい表情に頼ってしまうところがあって。でも、声だけでしっかり伝えていくことの大切さを、この現場では教えてもらいました。
感情を豊かにすればするほど、怖くなる自分もいた
——クライマックス近く、車のなかで主演の西島秀俊さんと対峙するシーンがあります。先日のプレミア上映イベントでは、そのシーンの岡田さんの演技を、西島さんも絶賛されていましたね。
岡田:本当にうれしいです。あのシーンは濱口監督も基本的に任せてくださって……何回くらい撮ったんだろうな。西島さんと二人で10分くらい話し続けるシーンなんですが「こういう高槻でやってみてください」「次は、岡田さんが思う高槻で」などと、何度もチャレンジさせてもらいました。やっていくうちにどんどん深まって、毎回全然違う高槻が出てきたんですよ。「高槻にはこんな姿があったんだ」「あぁ、そうか。こういう思いもあるんだな」っていくつも発見があったし、演じ方も相手に寄り添ってみたり突き放してみたり、ときにはすごく子どもみたいになったり、試行錯誤して。感情を豊かにすればするほど怖さを感じる自分もいましたが、それをすべて見つめてくれている西島さんがいたからこそ、成立したシーンだなと思います。
——岡田さんと高槻がまじりあった、とても印象的なお芝居でした。
岡田:本当に忘れられない撮影になったし、あの日、あの時間のことはこれから先も覚えていると思います。そういえば、次の日に別のシーンを撮るとき「その前にもう一回、あの車のシーンを本読みしたい」って監督がおっしゃったんです。で、本読みをしたら「昨日よりいいですね、もう一回撮りたい」って……それは冗談だったんですが、僕も自然と「もう一回撮れるんだったら撮りたいな」って思ったんです。普段なら「もう一回撮るのか……」って思うのに(笑)。そのくらい、なんだかいつでも高槻になれた日々だったんです。
——心から充実した撮影だったことがうかがえます。次回は、高槻という役と岡田さんご自身について、もっと詳しく聞かせてください!
■作品情報
(ヘアメイク:小林麗子(do:t)、取材・文:菅原さくら、撮影:西田優太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
岡田将生『ドライブ・マイ・カー』との出会いで、芝居への思いを再確認