8月1日からNetflixで配信を開始予定の『大豆田とわ子と三人の元夫』。同作品は2021年4月13日から6月15日までフジテレビ系で放送された、坂元裕二脚本によるテレビドラマです。『カルテット』、『最高の離婚』、『Mother』など数々の傑作ドラマや、映画『花束みたいな恋をした』を生み出した、名手・坂元裕二さんの脚本が話題を呼びました。
本作では、主役の松たか子演じる「大豆田とわ子」と三人の元夫たち(松田龍平・角田晃広、岡田将生)の演技やセリフにハマる人が続出。離婚歴のある、または離婚危機に陥ったことのある働き女子たちは、いわゆる「バツ3」のこのヒロインやドラマをどう観たのでしょうか。Netflixの配信が待てない「まめ夫」ファン3人に、3回にわたって語ってもらいました。
【座談会参加者】
川口あいさん
経済系ウェブメディア所属、ライター、コラムニスト。3年前に離婚、現在は8歳下のパートナーと事実婚。
波多野友子さん
フリーランスのライター・編集者。未就学の子供が一人。夫と別居中だったが、現在は半別居半同棲生活。
沢田はるかさん(仮名)
フリーランスのライター・編集者。方向性の違いを理由に4年前に離婚、元夫とは今でも連絡を取り合う仲。
「めんどくさい」が夫婦をつなぎとめている
——最初に、みなさんが『大豆田とわ子と三人の元夫』にハマったきっかけを教えてください。
川口:私はもともと脚本の坂元裕二さんが大好きで、坂元作品は毎回観ているんですが、今回、離婚経験のある主人公ということで一気に“自分ごと”化したのが大きなきっかけかもしれません。
沢田:私の場合も川口さんと同じで“自分ごと”化したというのが大きかったです。これ言うのもおこがましくて恥ずかしいんですけど、離婚した夫が、私から見ると(八作役の)松田龍平さんに似てたんですよ(笑)。で、今付き合っている人が(鹿太郎役の)角田さんに似ていて。それでうわーっと思って、初回からドハマりしてしまいました
——じゃあ、次はシンシン(岡田将生)がくるってことですね!
沢田:シンシンきちゃいますかね!?(笑)
川口:オダジョー(小鳥遊役のオダギリジョー)もくるかもしれない(笑)。
——いけない。取材中なのについ夢が膨らみます。波多野さんはこの作品、どういうところが好きでしたか?
波多野:私は坂元さんの、特に『カルテット』の狂信的なファンなんですよ。10回近く観てますし、シナリオ本とかも読みこむくらい好きで。もう、(『カルテット』のときと同じく)松たか子と松田龍平のコンビっていうのがアツい。あの2人の掛け合いを観たいというのと、ネットで話題になった作品は観るようにしているのですが、私のSNS界隈では間違いなく一番盛り上がっていたドラマなので、そういうところもあってチェックしたほうがいいなと思って観ました。
内容的にも坂元節炸裂しまくりだったので、最初は「ちょっとあざとい?」と思ったんですが、徐々に脚本の罠にハメられていきました。あの戯曲っぽいところが本当に面白い。もちろん“自分ごと”化することも多かったですが、何よりセリフの妙にハマりました。
——特に印象に残っているセリフや回はありますか?
波多野:結局、第9話(最終回の前の回)にすべてが集約されているなって思うんですよ。シンシンがめちゃくちゃ追い上げてきましたよね。すごくいいことをいっぱい言ってました。「人の孤独を埋めるのは、愛されることじゃないよ。愛することだよ」とか、「恋愛にはときめきのピークがあるからだよ。だから人は結婚して夫婦になる」「離婚はめんどくさくて、めんどくさいはすべてに勝つから、夫婦をつなぎとめられる」とか。恋人だったらとっくに別れてしまうであろう出来事も、夫婦だったら何度も乗り越えてしまう。ときめきが強さに変わっていく……みたいな。そういうことをとわ子に説くシーンが印象的で。
とわ子って、自分の心の中にあまり気づいていないキャラクターとして演出されていましたよね。シンシンがとわ子の心の中の代弁者になっているのが切ない……。出てくる4人の男性の中で、シンシンが一番とわ子のことが好きだったと思うんですよ。それだけにとわ子のことがわかっちゃう。でも僕じゃダメなんだ、ということもわかってる。そのうえで、とわ子の背中を押す姿にすごくグッときました。
「離婚っていうのは自分の人生に嘘をつかなかったっていう証拠だよ」
川口:すごく共感します。振り返ってみると、私はかごめ(市川実日子)のセリフにすごく印象的なものが多かったなと思うんですよ。第4話で、友人のかごめがとわ子に「あなたみたいな人がいるってだけで、私も社長になれるって小さい子がイメージできるんだよ。いるといないのとじゃ大違いなんだよ」と言ってましたよね。働く女性としてグッときました。
あと、1話目で「離婚っていうのは自分の人生に嘘をつかなかったっていう証拠だよ」って言っていて。それを聞いたときに思い出したのが、以前、私が(社会学者の)上野千鶴子先生に取材をしたときのこと。ポロっと「私バツイチなんですよね」とこぼしたら、「じゃああなたは諦めの悪い女なのね」と上野先生がおっしゃたんですよ。
——バツイチは「諦めが悪い」?
川口:「自分の人生諦めたくなかったんでしょ」って。
一同:おおお!
川口:我慢して惰性で諦めて「このままでいいんだ」って夫婦関係を続けていく人が多い中で、「それでも自分の人生を諦めたくなかったから離婚して、それで立ち直って一生懸命頑張っているんじゃないの」っていう上野先生の言葉が、波多野さんが先ほど言っていた第9話目の「離婚ってめんどくさい」というところにつながって、一気にブワ~ッと思い起こされました。
あと第8話で、オダジョーが過去の介護生活のことを「人生がない期間があった」と言ってましたよね。そのセリフを聞いたときに、私の場合の「自分の人生がない期間」って、離婚の前に別居していたときに、自分の姓名じゃないのに夫の姓を名乗らなければいけない状況が続いていたときかなって考えたりもしました。別にいつもドラマを観るときに“自分ごと”化しているわけじゃないですし、普通にエンタメ作品として楽しむことのほうが多いんですけど、なんかこの作品は妙に自分の中に浸透するフレーズやシーンが多かったです。
かごめの「呪い」
――バツ3社長役の方が「僕にとって離婚は勲章みたいなものですけど、あなたにとっては傷でしょ?」と言うシーンがありましたよね。飲んでた缶ビールをテレビに投げつけようかと思いましたよ!
波多野:私もめっちゃ思いました(笑)。
沢田:あれはクソでしたね~! フィクションなんだけど、妙にリアルなセリフだから余計に腹が立つ。私が印象に残っているのは、かごめちゃんが去ったのちに、八作ととわ子が玄関で交わした3語だけのシーンです。「元気?」「……」「ごめんね」「ごめんね」「おやすみ」「おやすみ」の3語に2人の関係性がぎゅぎゅぎゅっと詰まっていて。それ以上の言葉はいらないんですよね。そこにふたりがかつて積み重ねた日々の残像があるのが切ない。
波多野:私もあのシーン覚えてます。私の中ではかごめちゃんって、とわ子にとってある種の「呪い」みたいな存在だと思うんです。
沢田:たしかに……!
波多野:川口さんは働く自分にとってグッときた……とおっしゃっていたけれど、「あなたは女の子の夢であってほしい」「女性で社長という立場を貫いてほしい」みたいなことって今の社会状況下で女の子を鼓舞するセリフであると同時に、とわ子本人にとっては「呪い」だと思ったんです。
とわ子はもともとクリエイターだったのになんやかんやで社長に押し上げられて、プレッシャーに苦しみながらなんとか社長業を頑張っている。かごめが去る前にあのセリフをとわ子の中に残したことで、とわ子はずっと肩の力を抜けずにいましたよね。たぶん小鳥遊さんにも指摘されてたと思うんですけど。小鳥遊さんは、とわ子を社長業から解放して、ひとりの女性としてクリエイターとして生きることを後押ししていました。
——小鳥遊さんは、とわ子を揺さぶる役でしたね。
川口:かき乱していった人でしたね。めちゃくちゃかっこよかったけど。
波多野:それはもうかっこよかったですね! 一番かっこよかった!
——でもとわ子は「呪い」を解いて小鳥遊さんと一緒になることは選びませんでしたね。
波多野:かごめの「呪い」……。とわ子が小鳥遊さんとしゃべっていたときに「あ、今かごめを忘れてしまっていた」「ひとりにさせてしまっていた」とか言っていましたけど、覚えているということ、記憶に残すことが、親友の死という悲しみに打ち克つひとつの方法である一方、逆にそれにとわ子はとらわれてしまっていました。それを小鳥遊さんが引き上げてあげよう、変えてあげようとしたところで、やっぱりとわ子は「呪い」を選んだ——と言っては言い方が悪いかもしれませんけど。
沢田:なんで小鳥遊さんと一緒に生活を変えることより、かごめの「呪い」を選んだのかもわからないですし、私にはとわ子がわからない……! 男性陣が惹きつけられるとわ子の魅力も、わかりやすくは描かれてなかったですよね。
——次回は、とわ子のキャラクターについて掘り下げていきたいと思います。
*第2回は7月29日(木)公開予定です。
(聞き手:安次富陽子、構成:須田奈津妃)
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情報元リンク: ウートピ
離婚や別居を経験した私たちが「まめ夫」を観て思ったこと