連載『モヤる言葉図鑑』が話題を集める作家のアルテイシアさんが、新刊『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』(大和書房)を上梓しました。ハラスメントの嵐が吹き荒れる、何とも生きづらい“ヘルジャパン”を生き抜く実用書をつくりたい──。そんな願いを込めて、(中森)明菜返し・エジソン返しなどあらゆるシチュエーションに対処しうる「言葉の護身術」がユニークに綴られています。
そのアルテイシアさんが対談相手に指名したのは、YouTubeをはじめSNSで政治や社会問題に鋭く斬り込んでいく「せやろがいおじさん」こと、芸人の榎森耕助さん。「話題にしづらい問題をどうして取り上げるの?」をテーマにお話しいただきました。3回に分けてお届けする連載第1回目では、お二人が時事問題を発信し続ける理由、声をあげたことで得たもの・失ったものについて聞きました。
間違うたびにアップデートすればいい
──アルテイシアさんは、もともとせやろがいおじさんの動画のファンとお聞きしました。
アルテイシアさん(以下、アル):はい! 政治や社会問題に関心のない人にも届く、おもしろくてわかりやすい動画が魅力ですよね。私もそんな文章を書けたらいいな、と共感して。
せやろがいおじさん(以下、せやろがい):ありがとうございます! 僕もアルテイシアさんの新刊、おもしろく拝読しました。何度も声を出して笑ってしまい、「こんな人いんねや!」って嫉妬でいったん本を閉じて脇に置いたほど(笑)。打楽器と少年誌のマンガ例えがとにかく秀逸で。
アル:膝パーカッションを打ち鳴らし、暴れ太鼓を叩いています!
せやろがい:男性社会の権力勾配を指摘する時に、少年誌のマンガを用いるって……皮肉が効いてますよね。小さい頃から『ドラゴンボール』に『ジョジョ』、『進撃の巨人』を読んできたから「あ、これ自分のこと言われてるわ」と耳が痛くなりました。でも説教というより「ホンマやわ」と笑いながら腹落ちする感覚があって。
アル:ありがとうございます。私も、せやろがいさんの著書(ワニブックス『せやろがい!ではおさまらない 僕が今、伝えたいこと聞いてくれへんか?』)読みました。政治批判すると「パヨク」「反日」呼ばわりされるのが、フェミニストと似ているなって。フェミニストも「男嫌い」「攻撃的」ってレッテルを貼られるから。なので「一緒にがんばろうな!」みたいな気持ちになりました。
せやろがい:あと、過去の言動を恥ずかしく振り返りつつ「今もアップデートの最中だから」ってスタンスが素敵ですよね。「昔は間違っていたけど、これから一緒に正していこうよ」ってアルテイシアさんの視点には、押しつけがましさがないので素直に「そうやな」と思える。
──このごろは何か意見する時に、清廉潔白でないと「ものを申してはならん」みたいな風潮が強いですよね。
アル:「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」とイエスに言われたら、私は「すみませんでした!!」と土下座しますよ。一度も間違ったことのない人しか社会問題を語っちゃいけないとなると、誰も語れませんよね。私自身、過去の間違いを反省しているからこそ、声をあげなきゃと思います。
せやろがい:そうですね。自分と違う背景を持っている人たちの“すべて”を理解した上で言葉を選ぶことは不可能です。どこかで必ず誰かの足を踏むだろうし、これまで踏んでしまって気づいていないケースもあるかもしれない。だから一緒に指摘しあって、アップデートしていけばいいと思うのですが……。
叩かれても発信し続ければ、何かが変わる
──とはいえ、名前を出して活動されているお二人が時事問題に声を上げるとリスクも生じますよね。それでも発信し続ける理由はどこにあるんでしょうか?
アル:都合のいい国民になってたまるかよ! その一点に尽きます。国民が「お上に従え」と思考停止してくれたら、政府はやりたい放題できますよね。「芸能人が政治を語るな」「ろくにわかってないくせに」とか叩く人がいるけど、芸能人が政治を語るなって言ったら、会社員も学生も主婦も誰も語れませんよね? 国民が意見を言ってそれを反映するのが民主主義なのに、わかってないのはそっちだろと思う。声をあげてもどうせ変わらない…と諦めたら、そこで試合終了ですよ!
せやろがい:出た、今度は『スラムダンク』や!(笑)
アル:私は花道推しですが(笑)、あのミッチーに対する安西先生の言葉は真実ですよね。諦めて現状維持に甘んじていたら、本当に「試合終了」だから。
せやろがい:名前だけでなく、顔とフンドシ姿まで晒している僕は「芸能人が政治を語るな」とよく叩かれます。でも「政治に関心を持て」という声が向けられる若者に影響力があるのは、こうしたインフルエンサーですよね。彼らが政治や社会問題を発信するから反応するわけで。若者に「選挙に行け」と発破をかける一方で、彼らに「政治を語るな」とストッパーになるような言葉を投げかける。矛盾を感じます。
──せやろがいさんはもともと、政治に関心があるわけではなかったと自著でおっしゃっていましたよね。そこから時事問題の発信を始めたきっかけは何だったんですか?
せやろがい:いま僕は沖縄で活動しているんですが、2018年の県知事選で玉城デニーさんが選ばれた時に「沖縄終わった」みたいな言葉がSNS上で広まって。沖縄に対して「切り離しの言葉を使うのはアカンやろ」と思って、初めて政治的な動画を出しました。踏み込んだ発言でかなり批判され、離れていったファンも少なくありませんでした。
アル:政治批判する人たちは、そうしたリスクもわかって声を上げてますよね。勇気ある行動だと思います。
せやろがい:そうですね。ただ、状況を見ていたら「自分と違う意見を持っている人たちとのコミュニケーションができなくなってしまっている」ことが問題の本質なんだろうな、と気づいて。だから僕は異論とのコミュニケーション、摩擦を減らす方法として“笑い”が機能するのでは──と思い、そこに発信の意義を見出した経緯があります。
声を上げたことで得たのは理解者と仲間
──アルテイシアさんも、フェミニズム関連の執筆を手がけるようになって読者の反応に変化があったのでは。
アル:赤潮のようにクソリプが発生するけど、私の場合は1秒でブロックするから粘着されないんですよね。あとクソリプを見ても3分たつと忘れるんです(笑)。なのであんまり気にならなくて、それよりフェミニズムについて発信するようになって得たものが多いです。
せやろがい:たしかに、僕も「難しい話をタイムラインに持ってくるな」と感じている元ファンの方々は失いました。当時は落ち込んだりもしたけれど、長い目で見たら「何のマイナスにもなってないぞ」と気付きました。
アル:私は10年前に「フェミニズムをテーマに書きたい」と出版社に提案しても、「そんなの売れない」と見向きもされなかったんです。でも諦めずに発信を続けたら読者も増えて、時流も変わってきた今は「フェミニズムをテーマに書いてほしい」と依頼がくる。安西先生の言葉を胸に、諦めなくてよかったです!
せやろがい:考えを表に出していたら、いろいろ教えてくれる仲間が周りに増えました。僕自身がまだまだ無知なので「教えて」とお願いしたら、講師役を買って出てくださる方もいて。
アル:どんなことを教わったんですか?
せやろがい:たとえば「男性優位の日本社会で暮らす僕は特権を享受している」「無意識のうちに女性を抑圧していることもある」という事実。これに気づかないままずっと過ごしていたらと思うと……今でもぞっとします。だから発信を続けることで知る環境を広げられたことが、いちばんの宝物ですね。
(聞き手・編集:安次富陽子、構成:岡山朋代)
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