まったくどこも痛くもかゆくもないのに、健康診断で突然に、「糖尿病予備群です。病院で検査をしてください」と告げられる人が増えているといいます。そこで、「まさかの糖尿病予備群…健診で指摘されたら」と題し、糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師に連載にてお話しを聞いています。
前回(第14回)は、糖尿病の三大合併症の1つの「糖尿病性腎症」(ほかの2つは、「糖尿病性神経障害」「糖尿病網膜症」)を知るにあたり、まずは腎臓の働きや、腎臓は毎日200リットル(200キログラム)もの血液をろ過していること、糖尿病の場合はそれだけの高血糖の血液が腎臓を通過するといったことを伝えました。
今回は、糖尿病が原因で腎臓が障害される「糖尿病性腎症」の早期の状態について詳しく伺います。
「タンパク尿」は腎症を示す
——前回、腎臓は全身から流れてくる血液をろ過して尿をつくる臓器であると教えてもらいました。その腎臓の機能が低下すると、「タンパク尿」が出ると聞きますが、どういう状態でしょうか。
福田医師:健康な状態では尿にはほとんどタンパク質は存在しませんが、腎臓のダメージが大きくなると、尿にもれて出てくるようになります。これをタンパク尿と呼びます。
血液中を流れるタンパク質は体にとって重要な成分であり、粒子の大きさは糸球体(しきゅうたい。腎臓の中にある毛細血管が毛玉のようにからまって、小さな網目のような穴があいている気管。第14回参照)の網目より大きいために、濾(こ)されることはなく尿中には出てきません。一方、老廃物の多くは粒子が小さく網目を素通りし、尿の方に濾されて血液中からは取り除かれています。
しかし、高血糖の場合は糸球体の網目が広がり、粒子の大きなタンパク質も網目を通って尿に出るようになるのです。またそのことで、糸球体そのものがダメージを受けるという悪循環にも陥ります。さらにダメージが進行すると糸球体そのものが目詰まりして、老廃物も濾すことができなくなってしまいます。そうすると血液中に老廃物が溜まってくるわけです。
タンパク尿の出現は腎臓の機能が低下してくるという目印となり、「腎症」と呼ぶ状態であることを示します。
10年以上前から進行しているが、気づかない
——腎臓の機能が低下する腎症では、どういう症状が現れるのでしょうか。
福田医師:腎臓の機能が低下して老廃物が溜まってくると、足や顔、手がむくむ、疲労感、息苦しさ、夜間の尿、食欲不振、頭痛などがあります。進行すると貧血も出現(腎性貧血)し、「腎不全=尿毒症」に、さらに進むと人工透析が必要となります。
——糖尿病が原因でそういった腎臓の病気になる場合を糖尿病性腎症というのですね。
福田医師:そうです。糖尿病性腎症は、「糖尿病性神経障害」や「糖尿病網膜症」と同じようにじわじわと進むため、腎不全の症状が現れるまで気づきにくい病気です。そして怖いのは、そうした症状が現れた場合は完治ができないことです。
この糖尿病性腎症の予防には、もちろん生活習慣の改善と糖尿病の薬による血糖コントロールが最重要ですが、加えて、血圧のコントロールや減塩も必須になります。とくに日本人は塩分を取り過ぎになっている人が多いので注意したいですね。
——初期のころには気づかないということですが、ではどのように発覚するのでしょうか。
福田医師:簡単な尿検査でタンパク尿が検出されることで腎臓が障害されているかを、また、腎臓の機能がどのくらいかについては血液検査で評価できます。ただし、タンパク尿が陽性となったときにはすでにある程度、糖尿病性腎症が進んでいる状態です。10年以上経過している場合も少なくありません。
——そんなにかかるのですか。もっと早く自覚や認識をする方法はないのでしょうか。
福田医師:タンパク尿が出ていなくても、すでに糸球体に病変が出始めていることはよくあるのです。これを「早期糖尿病性腎症」と呼びます。糖尿病性腎症は1期~5期に分類されますが、これは2期にあたります。なお1期は異常なしの状態です。
この2期の早期糖尿病性腎症を発見するには、尿の「アルブミン」の量を調べる検査が有用です。アルブミンとは血液中を流れるタンパク質の主成分で、健康な状態では尿に排出されることがありません。近年はごく微量のアルブミンを検出できるようになり、これが腎臓の病気の早期発見につながります。糖尿病の人は定期的に尿検査を受けて、「微量アルブミン尿」の段階で認識することが重要になります。
ですから、健診で糖尿病、またはその予備群と言われたら、放置せずに必ず受診をして検査を受けてください。そして定期的に年に1回は血液検査や尿検査、また以前にお話しした、神経障害、網膜症の検査も受けましょう。
聞き手によるまとめ
第11回から糖尿病が怖い理由を紹介してきました。足の壊疽(えそ)から切断の可能性がある「糖尿病性神経障害」(第12回)、失明の恐れがある「糖尿病網膜症」(第13回)、そして今回の糖尿病性腎症という糖尿病の三大合併症を発症すると、それまで無症状だったのに急に仕事や日常生活に差し支えるつらい症状が次々と現れること、そして、もう健康な状態まで完治できない現実に直面するということです。
次回・第16回は、糖尿病腎症がさらに進んで人工透析が必要になった場合について尋ねます。
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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