婚活はなぜしんどいのか。アプリで微妙な気持ちになる男性とばかり出会うのはなぜなのか。「普通の人」はどこにいるのか──。
婚活をしたことのある女性なら誰もが抱いたことのあるはずの疑問や違和感について、まさにそのような問題をテーマにした小説『結婚のためなら死んでもいい』(新潮文庫)を上梓した作家の南綾子さん(40)。
『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)で婚活のモヤモヤを語った桃山商事のワッコさん(33)と、漫画『普通の人でいいのに!』がSNSで話題になった漫画家の冬野梅子さん(35)をゲストに迎え、3人で婚活について語り合っていただきました。全4回の最終回です。
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「55歳で一人で生きる」が今なら想像できる
編集:前回まで3回にわたって、婚活のシーンでおかしいなと思ったことについて語っていただきましたが、そんなモヤモヤを抱えながら婚活を続ける/続けていた理由は、どこにあるんでしょうか?
ワッコ:『どうして男は恋人よりも男友達を優先しがちなのか』にも書きましたが、わたしの場合は孤独死が怖いというのが婚活を続ける理由ですね。南さんも孤独死について『結婚のためなら死んでもいい』で書かれてましたよね。
南:はい。けど私は、あの本に書いたほどには孤独死を怖いと思っていないんです。パートナーがいても一人で死ぬことは全然あるだろうし。
梅子:それは確かにそうですよね。
南:なので、将来の孤独が怖いというよりは今の孤独がとにかくイヤという感じです。私の場合はそれが婚活を続ける理由かな。だから回転を速くしてたくさんの人と会うようにしてたのかもしれない。
梅子:『結婚のためなら死んでもいい』の中で、「55歳の自分」や「63歳の自分」が出てきて主人公にいろいろ言ってくるじゃないですか。
南:「ばばあ」ですね。
梅子:実はSF小説になっているところが斬新で面白いなと思ったんですが、「ばばあ」は孤独死について主人公に訴えてましたよね。このままいくと一人ぼっちで暮らして一人ぼっちで死んでいくことになるけど、本当にそれでいいのか?って。
南:新刊は2014年に出した『婚活1000本ノック』という小説を大幅に改稿したものなんですが、あれを最初に書いたのは30歳前後で、その時の自分はまだ若いという意識があり、「年を取った時の一人ってどんな感じなんだろう」という恐れが強かったんです。けど今は40歳になって、立場としては55歳側にいる。あの頃「将来どうしよう」と思っていたその将来にいるんですね。
ワッコ:なるほど。
南:アラサーだった自分は「55歳で一人で生きる」ということが想像できなかったけど、今は想像できる。だから孤独死は怖くなくなりました。それよりは、目の前にある孤独をどうにかしたい。その辺りの感覚は年代によって違うのかもしれないですね。若いと将来の孤独が不安になるのはよくわかります。
ワッコ:あと数年したら、わたしも南さんのような境地に達することができるんでしょうか……。
南:ワッコさんが『どうして男は恋人よりも男友達を優先しがちなのか』の中で、「24時間やり取りしてる友人のLINEグループがある」って書いてたじゃないですか。私もかつてはそういう友達がいたんですけど、40歳に近づくにつれてどんどん減っていきました。この歳になると本当に孤独に近づいていくんですよ。結婚云々も実はあんまり関係なくて、とにかくどんどんみんなの環境が変わっていくから、一人の時間が増えていく。
ワッコ:リアル過ぎる……。
南:けど実は、言うほど裏寂しいわけではないんです。最近は60歳や70歳になって一人でいる自分も身近に感じられるようになってきました。
高熱で一週間寝込んだ日々を思い出し…
南:ワッコさんが孤独死の恐怖を感じるようになったのは、最近のことなんですか?
ワッコ:これまでも漠然と感じてはいたのですが……少し前に、40度以上の高熱で一週間くらい寝込んだことがあったんです。立ち上がれないぐらいきつくて、食欲が湧いたらデリバリーを依頼するっていう生活をしてたんですけど、その時に一人暮らしってあまりにもつら過ぎるなと痛感しました。
梅子:めっちゃわかります。
ワッコ:その記憶がトラウマになっていて、このまま高齢者になったらどうなっちゃうんだろうとリアルに考え始めてしまったところがあります。わたしは実家と絶縁状態だから頼れないし、兄弟もいないし、かと言って友達に連絡するのも気が引けて。孤独死ってきっとこういう感じで立ち上がれなくなって死んでいくんだなと、絶望的な気持ちになりました。弱ってる時に一人きりでいることがとにかく怖いなと思う。
梅子:南さんが小説に書いていましたが、将来のことを気にするよりも今に向き合って生きる方がいいなと思う日もあるんです。でもやっぱり、このままどうなるんだろうと将来が不安になることの方が圧倒的に多い。日々の生活に保証がなさすぎるというか……まあそれは生命保険とか入ればいいんでしょうけど。
ワッコ:現実的(笑)。
「身内の同意書」に感じた戸惑い
梅子:ワッコさんの話で思い出したんですが、ちょっと前に簡単な手術をして一泊二日で入院したことがあったんです。場合によっては全身麻酔をするかもしれないという状況で、「身内の同意書が必要になりますが、親御さんは来てますか?」と聞かれてすごい困りました。まさかこれだけのために70歳を超えてる親を田舎から呼び出すわけにいかないし……。その時に、私はこれからの人生で全身麻酔をする度に「サインしてくれる人はいません。私は一人です」と言い続けなければいけないんだなって思いました。
ワッコ:つらい……。
梅子:既婚者や彼氏がいる友達に会った時に、そういう孤独をリアルに感じることが多い気がします。例えばスーパーでペットボトルを2本買ったとして、私は一人で抱えて帰るしかないけど、この子は二人で一本ずつ分けて持って帰ればいいんだよな……とか。そういう生活の負担や、「今日はこんなつらいことがあったんだよね」みたいなことをシェアする人が私にはいない。今日もいないし、明日もいないし、来年もいない。ずっと一人でがんばらないといけないんだなって。孤独死をむかえるのは、まだいいんです。そこに至るまでに、うっすら寂しい感じが何十年と続くことを想像するのが本当にしんどい。
ワッコ:確かに、停滞感みたいなのは自分の中にもめっちゃありますね。まわりの人が結婚してステージが変わっていく中で、わたしだけ取り残されてる感覚というか……梅子さんの漫画『普通の人でいいのに』にもそういう描写がありましたよね。
梅子:はい。
ワッコ:なんかこの10年くらい、毎日同じことを繰り返しているだけって気がするんですよ。毎日会社に行って、友人たちとLINEして、寝て……みたいな。去年も一昨年もその前の年も、ずーーっと同じことがループしている。それはそれでめちゃくちゃ楽しいのですが、一生このままなのかなと考える瞬間もあったりで。まわりの人はいろんな人生のイベントがあるのに、わたしには何もないなって。
梅子:わかります。自分自身の環境でいうと、去年出したマンガをたくさんの人に読んでもらえて、いろんな反応もあって嬉しかったんです。目に見える変化もあって、それこそ今までだったらこういう場に呼ばれることもなかったし。なので、仕事の面では望んでいた形が初めて結実したと思っています。けど……それで孤独感が払拭されることはないということを知りました。
ワッコ:なるほど。
梅子:彼氏がいる友達を見て「幸せそうで羨ましい」とか思うことは、別に消えないんだなって。これは自分の中での新しい発見で、あんなにがんばっても関係ないんだなとしみじみしました。
仕事が充実していたら恋は必要ない?
ワッコ:わかる気がします。たまに、そこを混同している人がアドバイスをしてきますよね。「ワッコは仕事忙しそうだし結婚とかしなくいいじゃん。私なんて働きもしてないよ」とか言われることがあって、その度に全然別の話だろって思います。
梅子:私としては、「仕事がうまくいく→自信がつく→恋愛がうまくいく」みたいな感じで、精神的に連鎖していくんじゃないかとちょっと期待しているところがあったんです。でもそこも全然関係なかった。
南:男性だと仕事のステージが上がるとモテるようになって、付き合う女のレベルまで上がった……的な話はよく聞きますけど、女性の場合は全然連動しませんよね。
コロナだから仕方がない
編集:先ほど「停滞感」というキーワードが出てきましたが、今はコロナによって社会全体に停滞感が漂っていますよね。その状況は、みなさんの婚活にどう影響してますか?
梅子:コロナによって機会が失われている実感はやはりあります。アプリに表示される自分の年齢が33から34、さらには35に切り替わる間、まともな婚活はできなかったし。けど一方で、「コロナだから仕方ないよね」と自分に対して言い訳できる点はよかったです。
ワッコ:わかります! 公式に「しなくていいよ」と言われている感じがして、わたしも精神的にすごく楽になりました。婚活という「やらければいけない嫌なことを、やらなくていい」と思えたのが嬉しかったです。
南:私は2020年の1月に39歳になりました。ここ数年は婚活と妊活がセットになった「子供を産む前提の出会い探し」を続けていたのですが、40歳になったらそれをやめようと考えていた。なので39歳の1年は、私の中で「最後にがんばらなきゃいけない年」という位置付けでした。けどそこでコロナ禍になってしまい、「今まで十分頑張ったから、時間切れってことでもういいや」となりました。コロナで時間切れが早まった感じですね。
ワッコ:実際のところ、みんな婚活どうしてるんですかね?
南:自粛しないで面談してる人も多いと思いますよ。これまでの出会いの主流だった合コンや友達の紹介という選択肢が消えて、手段がオンラインしかなくなったから、アプリに頼る人は増えてるんじゃないかな。結婚相談所の入会者が急増してるって話も聞きますし。
ワッコ:やってる人はやってるんですね……。今みたいに人と会わない状況だと、そういう情報が入ってこないから、あまり気にならないのかもって思いました。
梅子:それでいうと、コロナで友達に会う時間が減ったのは、こと婚活的な面ではいい方向に働いたと感じてます。友達と会うとやっぱりパートナーの話題になって、もちろんそれ自体がイヤということでは全然ないんですけど、「彼氏と自転車に乗って夜中に散歩することなんて、これまでもこの先もきっとないんだろうな」とかどうしても考えてしまう。友達に会わなければそういう話も入ってこないから、一人でいることが気にならないんですよね。「お前はひとりだぞ」と実感させられる機会がなくなりました。
(構成:森田雄飛/桃山商事、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
将来の孤独死より、目の前の孤独をどうにかしたい。婚活アプリ座談会