メディアで見聞きするビジネスやIT、医療分野などの用語について、その意味や使用例を「ニュースを読み解く用語集」と題し、連載で紹介しています。これまでの「ホールディングス」「エビデンス」「ダイバーシティ」についてはリンクを参照してください。
今回・第4回は、近ごろ、メディアや本で注目されている「人新世(ひとしんせい・じんしんせい)」という用語について、大正大学表現学部の教授で情報文化表現が専門の大島一夫(おおしま・かずお)さんに、編集スタッフの藤原椋(ふじわら・むく)が尋ねました。
地質時代の新名称として提案される「人新世」
人新世は英語では「Anthropocene(アントロポセン)」といい、概略としては「人類の時代」という意味合いです。地球の時代区分のひとつ、「地質時代」の最新の名称として提案されています。名付けたのは、オゾンホール研究の業績でノーベル化学賞を1995年に受賞したオランダ人大気化学学者のパウル・クルッツェン氏らです。
人新世はまだ地質時代の呼称として国際的に正式承認されていませんが、世界的に環境問題や科学、人文社会学の新しい考え方として注目されています。
えーっと、「地質時代」とはどういう意味なのでしょうか。
地質学における時代区分の呼称です。46億年前に地球は誕生しましたね。その後を地質の特徴で区分した時代区分を地質時代といいます。大きく「先カンブリア時代」から始まって、「古生代」「中生代」「新生代」と「代」に分かれています。さらに各「代」が「○〇紀」、「●●世」、「△△期」に細分化されます。
例えば、中生代のジュラ紀や白亜紀などは図鑑や理科の教科書で目にしたことがあるでしょう。ジュラ紀は、地層中に残った化石から、恐竜が栄えた時代だとわかります。そのように、地層に含まれる成分や化石から、当時の環境や生息した生物がわかるのです。
では人新世とは、言葉のとおり「人」が生息する時代ということでしょうか。
そうです。人類の活動や生活が地質に現れているため、「人新世」と提案されています。
具体的に、人類の活動は地層にどう影響すると考えられているのでしょうか。
二酸化炭素濃度の上昇、地球温暖化、生物の絶滅、土壌汚染、森林伐採、プラスチックやコンクリートの残存など、地球規模の自然環境破壊による影響が地層に蓄積され、その影響がはっきりと地層に現れているのです。
未来の生物はこの人新世の地質から、いまの我々の環境を読み取るかもしれないということですね。
いまは「完新世」
地質時代の区分で最も新しい年代の名称が人新世となるかも、ということですね。
そうです。地質時代の名称は、地質学の研究や国際協力の助成を行う国際地質科学連合の審査によって決定します。いまの最も新しい時代の名称は、「新生代・第四紀・完新世(かんしんせい)」で、約1万1,700年前から現代までを指します。
現時点では、「人新世という名称を正式に決定するかどうか」「どの時期を人新世の始まりとするか」など、専門家による話し合いが続いているようです。始まりとして有力な案は、核実験による放射能汚染の痕跡が地層に残る1950年代からといわれています。
ベストセラーのタイトルで話題に
人新世は学術的な専門用語のようですが、なぜ、一般的にも注目されているのでしょうか。『人新世の「資本論」』(集英社新書)という本が話題になっていますが、それと関係しているのでしょうか。
同書は「新書大賞2021」で第1位となり、ベストセラーになっていますね。この本がきっかけで人新世という言葉が一般に知られるようになったと思われます。同書の著者は大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平氏で、人新世は環境危機の時代であり、その状況の解決策をいまの社会のありかたから論じています。
人新世という言葉を、日常での会話ではどのように使えばいいでしょうか。
これらのことを理解すると、「新しい地質時代の名称として、ノーベル化学賞受賞者が提案した人新世という言葉が有力らしい」などでしょうか。ただし、人新世は学術的な言葉なので日常会話で使う場面はあまりないかもしれません。
人新世は、地球誕生時代からの非常に大きなスケールで環境問題をとらえた言葉として意識したいと考えます。日常会話で使われるようになったら、それは一般での環境問題意識の深まりと言えるでしょう。
「人新世」が何なのか、また国際社会で話題となっている理由がよくわかりました。今後の展開に注目したいと思います。
第5回は「パブリシティ」についてお尋ねします。
(構成・取材・文・イラスト 藤原 椋/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
「人新世」って何? 新しい時代の名称? ニュースがわかるビジネス用語
「人新世」とは、「ひとしんせい」、または「じんしんせい」と読むそうですが、何のことでしょうか。