山﨑賢人さんが主演を務める映画『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』が6月25日に公開されます。
本作は1956年にアメリカで発表された、ロバート・A・ハインラインによる小説『夏への扉』を映画化。監督の三木孝浩さんに話を伺いました。
この作品を今やることが面白いと感じた
——『夏への扉』はこれまで映画化されておらず、今作が全世界で初めての映画化です。企画を聞いたとき、まずどんなことを思いましたか?
三木孝浩監督(以下、三木):今まで映画化されていないのが不思議でしたね。タイムリープをモチーフとしたSF小説では古典として知られるほど有名な作品ですから。原作を改めて読み返したとき、僕が子どものころに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのハリウッド映画を観てワクワクしたあの感じを思い出しました。
SFというと今は暗い未来を想像してしまう“ディストピア”系の作品を目にすることが多いのですが、僕が子供のころに見ていたSF作品は明るい未来があることを信じられた作品が多かったように思います。ノスタルジーな部分もありつつ、未来に対してのポジティブな気持ちをもう一度取り戻すという意味で、今この作品を撮るのは面白いのではないかと思いましたね。
——映画では、1995年から2025年が描かれています。なぜこの時代設定に?
三木:日本で公開するので、舞台は日本にしようと決めていましたが、時代設定は最初に苦労した部分でした。なるべく多くの人が共通で持っている時代感と想像し得る未来ならば物語に入り込みやすいのではないかと考えました。
また、脚本を担当してくれた菅野友恵さんと僕はほぼ同世代で、90年代に青春時代を過ごしました。クリエイティブなものはやはり、見たもの聞いたもの、感じたものが投影されたほうが、リアリティが出ますし、「自分ごと化」することでより人に伝わります。自分の経験を物語や作品作りにいかして、原作が持っているテーマを伝えるほうが、作り方として正しいのではないかと思い、この時代設定にしました。
——私も90年代に高校生だったので、ルーズソックスが懐かしかったです。現代版として配慮されている部分もあるなと感じました。例えば、「ハイヤーガール(文化女中器)」と呼ばれるロボットは、映画では「エーワン」と性別を問わない名前になっていますよね。
三木:はい。その辺りのアップデートは意図的にしています。ディテールが変わったところで、作者がその物語に込めた思いや物語が持つ魅力は変わらないはずです。そこがブレなければ、舞台や時代を変えても面白い物語になるという確信はありました。
悪役が輝く作品は面白い
——主演の山﨑賢人さんをはじめ、キャストのみなさんも魅力的ですよね。
三木:山﨑賢人くん、清原果耶ちゃんとは、お二人が役者としてのキャリアをスタートさせたころにもご一緒させていただきました。それぞれがいろいろな作品を経て、経験値を積んで魅力ある役者として成長したタイミングでまた一緒に作品を作れたのは本当に嬉しいことでした。
——清原さんとは「いつかヒロインの作品を撮ろう」と約束をしていたそうですね。
三木:はい。本人は忘れていましたけど(笑)。
——あら(笑)。
三木:当時の彼女には社交辞令に聞こえていたかもしれませんが、僕は本当にそう思っていました。果耶ちゃんには『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)という作品でヒロインの小松菜奈さんの幼少期役を演じてもらいました。短いシーンだったのですが、うちに秘めた芯の強さが見えるようで、当時からとても印象的でした。
——藤木直人さんや夏菜さん、脇を固めるみなさんもとてもいいなと感じました。
三木:後半部分は(山﨑さん演じる)宗一郎と、藤木さんが演じるPETEの“バディームービー”の要素が強いので、藤木さんと賢人くんに共演経験があり、すでに信頼関係があったことが良い効果を生んだと思います。藤木さんは初の人間そっくりのロボット役ということで、クランクイン前に不安そうにしていたのですが、現場に入ったら全然。藤木さんの役作りがピタッとハマっていました。僕が狙っていたことを理解して、うまく演じてくださいました。
——監督が狙っていたこととは?
三木:そもそも藤木さんってちょっと「アンドロイド感」があると思っていて。スタイル、ルックス、演技、全てよし!というか。欠点がなさそうに見えるところがありますよね。今回演じているのもロボットなのである意味、完璧です。でも、むしろそこに面白みもあるというか。本人はいたって“普通”にやっているだけなのに、見ている側にはズレているように感じる。そんなことを狙っていました。
——夏菜さん、悪い役なのですが、ものすごく輝いて見えました。
三木:あはは。現場、楽しかったですよ。夏菜さんが本当に楽しみながら演じてくれたので、みんなノリノリでどうしたら悪い人に見えるか、現場の良い雰囲気の中で話し合いながら撮影できました。悪役が活き活きする映画は面白い作品が多いので、ぜひ夏菜さんの演技にも注目してもらいたいですね。
コールドスリープしたくなる日々の中で…
——嫌なことやツラいことがあると「コールドスリープ(冷凍睡眠)で、寝ている間に全部過ぎ去っていけばいいのに……」と思ったりします。
三木:コロナ禍のいま、まさにそうですよね。コロナが収束した時代に目覚めたい。
——ですよね。そういう人生のままならなさのようなものを、監督はどう捉えているのか聞いてみたいなと思いまして。
三木:おそらく、みんなそれぞれ、大なり小なりトラブルが起こったときの対処の仕方を持っていると思います。どうやって自分の気持ちを奮い立たせるか、とか。僕の場合は、映画や作品のキャラクターにその力をもらいます。こういうとき、あのキャラクターならまだ諦めないだろうなとか。この作品を見た人も、宗一郎から何か感じとってもらえたら嬉しいですね。
——窮地に追い込まれても、持ち前の機転と大胆な行動で未来を諦めない。宗一郎は強い人ですよね。その力はどこからくるものだと思いますか?
三木:彼は、人や環境を信じるポジティブな力が強いキャラクターだと思います。信じることで状況を打破してきた。けれど、それを本人はあまり意識していない。もしかしたら、研究を続ける過程で自然に身についた部分もあるのかなと思います。例えば、自分の研究が上手くいったとき、「何度失敗しても、諦めなければ失敗じゃない」と信じられるようになるじゃないですか。それが彼の矜持(きょうじ)だったような気がします。
リアルとフィクションが交差する瞬間の不思議な感覚
——宗一郎のそういう在り方がまさに、今の気分に合う映画だなと感じました。監督は、時代が求めるものをどのように探しているのでしょうか?
三木:正直なところ、それは意識していないですね。というのも、映画は公開までに時間がかかるメディアなので。今これがいいと思ったものでも、実際に企画が通って、撮影・編集をしてという過程を経ると、公開する頃には違う空気になっていることが多いです。『夏への扉』に関して言えば、企画の段階から5、6年かかっていますからね。プロデューサーがこの作品を選んだ時点に遡れば、きっと10年以上は経っています。だから、時代とマッチするかどうかを考え過ぎるのは意味がないかなと僕は思っているんです。
——数年後のことはわからないですもんね。それこそ1年後のことだって……。
三木:けれど、期せずしてリンクする瞬間があるんですよね。企画の段階では意図していなかったけれど、あるときにフィクションとリアルがリンクする瞬間が奇跡的に起こる。特に映画だとそれがよくあるように感じます。この状況を予想して作っていたのかなって、ドキッとする映画ってたまにあるじゃないですか。中には予測していたものもあるかもしれないけれど、僕としては大半が予想外のことだったのではないかと思うんです。
『夏への扉』も、パンデミックが起こるなんて思ってもいなかったけれど、苦しい状況の中でも諦めずに「扉」を探すというテーマと現状がなんとなく繋がった。それは本当にたまたま。物語の受け取り方は人それぞれですが、暗い話題の多い今だから、今作が明るい未来をイメージするきっかけになったら嬉しいですね。
■作品情報
『夏への扉 ―キミのいる未来へ―』
6月25日(金)全国公開
配給:東宝、アニプレックス
©2021 映画「夏への扉」製作委員会
(取材・文:安次富陽子、撮影:青木勇太)
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情報元リンク: ウートピ
「ポジティブな気持ちを取り戻すきっかけになれば…」映画『夏への扉』三木孝浩監督