元宝塚歌劇団花組トップスターで現在は女優として活躍する明日海りおさん。2003年に宝塚歌劇団に入団し、月組からキャリアをスタートさせた明日海さんが花組トップスターに就任したのは2014年のこと。組を率いて数々の舞台を成功させ、2019年に宝塚を退団。
退団後は、連続テレビ小説『おちょやん』や現在放送中のドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)など話題の作品への参加をはじめ、映画『ムーラン』では声優に挑戦するなど活躍の幅を広げています。
5月22日からは定額制動画配信サービスHuluで初の冠番組となる『明日海りおのアトリエ』(毎週土曜、1エピソードずつ独占配信中)が始まりました。
トップスターとして走り抜けた日々、そして現在。仕事にまい進し、ファンの間ではストイックで有名という彼女の「らしさ」を探るインタビュー。前編に引き続き、後編では明日海さんのこれからについて話を伺います。
「宝塚らしさ」から「明日海りおらしさ」へ
——宝塚時代は、チームで動いて同じ場所で公演をして……という日々だったと思うのですが、退団した今は真逆の働き方です。スタッフや共演者も都度変わるし、舞台の日もあれば映像の日もある。退団されてから1年半ほど経ちますが、新しい働き方のペースはつかめてきた頃でしょうか?
明日海りおさん(以下、明日海):最初はとにかく緊張の連続で……。オファーいただくお仕事の内容もこれまでとは全然違うので、とにかく不安が大きかったです。何か失礼があってはいけないし、宝塚出身という名に恥じないようにと、いつも緊張していました。今、退団から1年半ほど経て、徐々に気持ちが切り替わってきた感じです。
宝塚時代は同じ場所で同じ人たちと仕事をする安心感があり、それを深めていく働き方でした。今は、どの現場でも、そのときにしか生まれないコンビネーションがあって、そのときにしか味わえないつながりや絆があることを実感しています。だからこそ、「その瞬間」を大切にしていきたいと思うようになりました。
一緒に働いている間しかお話を聞けないのだからと勇気を出して声をかけてみたり、自分から積極的に行動していくうちに、いろんな方に出会えることがとても楽しくなってきました。
——これまでは「清く正しく美しく」と「宝塚らしく」いることに重きが置かれていたのではないかと思うのですが、退団した今、「明日海りおらしさ」について考えたりしますか?
明日海:「宝塚らしさ」を特別に意識はしていませんが、今も在団している子たちがいますので、その子たちに恥ずかしくないような言動をしようというのはベースにありますね。こうやって取材していただくときに話す言葉も、(宝塚の名に)ふさわしいものでありたいですし、そういう精神でいられればいいなとずっと思っています。
ただ、1年半前のように「組」を率いているとか、宝塚を背負っているとか、そういう責任のようなものはなくなりましたので、ある意味柔軟に、自由にはなりました。新しく出会う方たちからいろいろな刺激を受けて、自分自身の考え方もちょっとずつ変わっていくので、新しい考え方に出会うのも楽しみです。どうなっていってもいいんだっていう嬉しさもありつつ(笑)。
すべてが自分にとっての挑戦
——ある程度実績を積むと、新しいことに挑戦する機会が減りますよね。新しい趣味や新しい習慣を取り入れることを複雑に考えてしまったり……。今回、番組でいろいろな挑戦をしてみて、どう感じられましたか?
明日海:この番組からは、「自分を大切にする」ということを教わりました。ウキウキできる時間を過ごすことで自分のベースを耕すこと、小さな楽しみで自分を活性化させること、それが本当に大事なんだと。
この番組だけでなく、今取り組んでいるお仕事はすべて、私にとっての挑戦です。舞台のお仕事に関しても、これまでは宝塚の男役を演じてきたけれども、また全然違う演技が求められます。映像や雑誌のお仕事もありますし、声のお仕事もありますが、すべて表現の仕方が違うので、どんどんチャレンジして自分のスキルや考え方をアップグレードしていきたいなと思います。
——10月には舞台「マドモアゼル・モーツァルト」を控えています。女性が作曲家になれなかった時代に男装してモーツァルトとして生きた女性の物語で、1991年初演の音楽座ミュージカルをリメイクしたものだそうですが、舞台にかける意気込みは?
明日海:音楽座のミュージカルのファンの方にも、作品が好きだという方にも「楽しみです」「あの作品はずっと観ていました」と言っていただいて、今は新たにプレッシャーが湧いてきたところです。男装は宝塚のころからやってきているので、すごくイメージしていただきやすい役柄だと思いますが、自分とリンクする感覚も生かしていきたい。たとえば、男性として育てられてきたモーツァルトの少女時代にお父さんが亡くなり、その瞬間、女性に戻る感覚が芽生えるのですが、その感覚は自分とリンクするものがあるんです。
そして何より、ものすごいエネルギーをかけてひとつの役を演じるのにぴったりな作品というか、やりがい、演じがいのある役であり作品だと思っています。曲もすごく壮大で素敵なものばかりですし、とても楽しみです。「ポーの一族*」のときにも感じたんですけど、作品の厚みによって受ける自分の感情も変わってくると思うので、大いに楽しみつつ、苦しみつつ、結果的に良いものをお届けしたいなと思っています。
*「ポーの一族」萩尾望都原作の同名漫画作品を2018年宝塚が舞台化
——観客のいる舞台と映像作品では感じ方も違うと思うのですが、そのあたりはいかがですか?
明日海:ずいぶん違いますね。舞台は同じ瞬間、同じ空間にお届けする人がいるので、劇場全体の雰囲気、空気、皆さんの心の動きがわかるんです。舞台に一歩入った瞬間から全てを観ていただけるというのも、素晴らしいことだと思います。今はコロナの影響で厳しくなっていますが、生のライブ感はやっぱり舞台が一番だと思います。
映像だと、舞台では感じられない近さや表情の機微、それに編集面での表現なども観ていただけますので、両方に良さがありますよね。どちらも私にとっては、まだまだ発展途上というか、課題がたくさんありますけれど。
今の自分を支えるのは、かけた時間と苦しかった思い
——新しい一歩を踏み出したからこそ見えた、感じたことなのかもしれないですね。
明日海:そうですね。だから映像のことも、もっともっとちゃんと理解して表現できるように、一番いい塩梅で演技できるようにと常々考えています。「明日海りお」という人間としても——人間というよりは「明日海りお」という役者として——この人面白いなと感じていただけるようになれたら一番です。
——スターなのになんて謙虚な……。どうしてそんな風に考えられるんでしょう?
明日海:いやいや、それはもう過去の話です。私自身は、本当にいろんなことを習得するのに時間がかかるタイプで、なかなか自信を持てなかったりする面もあるんです。時間がかかるというか、納得して積み上げていきたいので時間が必要なんですよね。でも、そういう性格でよかったなと思っているんです。どんどん追求していけるので。
コンプレックスも、たくさんあったほうが「どうやったらカバーできる?」と考えることが尽きないと思います。それは決して楽しいことではないですけれど、工夫しがいがあると思いませんか?
そしてやっぱり舞台出身というのもあり、受け取ってくださる方への感謝の気持ちというのはいつまでも尽きませんので、それは大事に。これから映像の現場のときも、それを忘れないでいたいなと思います。
——そうやって迷ったり悩んだり、努力したり、積み上げてきた時間が自信になるのかもしれないですね。
明日海:そうですね。かけた時間と苦しかった思いというのは絶対、「今の自分」を支えてくれます。自分に返ってきます。それが土台になっていることをよく感じます。辛くても、「あの時頑張れたんだから大丈夫」「あれだけ稽古したから大丈夫」と思えるんです。
今はまだ経験が少ないことに挑んだり、時間がない中で作ったものを披露しなきゃいけないこともあり、そういうときはとてつもなく不安になります。でもそのおかげで、短期集中もできるようになってきました。短い時間の中でも自信を持ってお届けできるように、切り替えも大切にしながら、工夫して頑張りたいと思います。
■番組情報
『明日海りおのアトリエ』
公式サイトはこちら
(取材・文:須田奈津妃、撮影:面川雄大、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
今の自分を支えるのは、かけた時間と苦しかった思い【明日海りお】