『ヤクザと家族 The Family』(1月29日公開)は、ヤクザという生き方を選んだ男・山本(綾野剛)の物語。1999年から2019年へ時代が移り変わるなかで、社会の矛盾と不条理に翻弄される山本の姿を3部構成で描きます。
監督・脚本を務めたのは『新聞記者』『宇宙でいちばんあかるい屋根』などを手がける藤井道人さん。山本の恋人・由香を、尾野真千子さんが演じました。
本作に登場する女性キャストは3人だけ。そのひとりがなぜ尾野真千子さんだったのか、尾野さんはオファーを受けて何を思ったのか——。藤井監督と尾野さんの対談で振り返ります。前後編インタビューの前編です。
いま、ヤクザを題材にした作品に出ること
——まずは藤井監督に、尾野さんをキャスティングした理由を伺いたいです。
藤井道人監督(以下、藤井):尾野さんは以前から好きな俳優のひとりで、出演作をよく観ていたんです。脚本の執筆中、由香のイメージに尾野さんが浮かんできたので、制作会社のスターサンズと相談して、尾野さんにお願いすることになりました。
テーマのこともあったので、ダメ元の気持ちでオファーをしたら、快諾していただいて。実は、尾野さんだけでなくほかのキャストもみんな、「難しいかもしれないな」と思いながら、オファーしたんですよ。脚本を読んでみなさん受けてくださったので、ありがたかったです。
尾野真千子さん(以下、尾野):私はオファーがくる前からヤクザ映画に出演したいと思っていたんですよね。かつては『仁義なき戦い』シリーズなどがヒットしていましたが、最近はヤクザをテーマにすること自体が少なくなっています。だから、逆に新しいチャレンジになって面白そうだし、こういう時代だからこそヤクザを描いてみてもいいんじゃないかなと思って。事務所にも「ヤクザの映画やらないかなぁ」と頻繁に言っていたところ、本当にオファーをいただき、しかも藤井監督! これは運命かもって思いましたね。
——藤井監督は、尾野さんなら由香をどう演じてくれると思っていたのでしょうか。
藤井:今作はキャストのほとんどが男性で、女性は新人の小宮山(莉渚)さんと寺島(しのぶ)さん、尾野さんの3人だけなんですよ。でも、裏テーマとして「女性の母としての強さ」をちゃんと描きたいと思っていて、尾野さんならそれをやりきってくれると考えていました。作品のなかでも実際の現場でも、女性のほうが強かったですね。男性はどこか若干の女々しさがあったりして……尾野さんや寺島さんにリードしてもらいながら、いい撮影ができました。
愛したら、相手の肩書なんて気にならなくなった
——由香は山本の恋人になりますが、ヤクザの世界とは一線を引いています。演じるうえで、なにか心がけたことはありますか?
尾野:ただ「綾野剛が演じる山本賢治」という人を丸ごと好きになろうと思っていました。役として、私はこの人を好きになるんだ……という心がけですよね。剛は、共演したこともあるので、素敵なところをたくさん知っています。でもたとえ、情けない姿を見たとしても、彼が大切に演じる山本を好きになるんだ、と。
——由香の目を通じて、ヤクザの世界で生きる男たちはどう見えましたか。
尾野:由香は最初「ヤクザなんて、かっこわる。いきがっちゃって」という目を向けているんですけど……山本に心を開いたあとは、そんなの関係なくなっちゃうんですよね。愛したり好きになったりしたら、相手が何をしているか、どんな肩書きなのかは関係なくなるんだなと思いました。
——たしかに、由香と一緒にいるときの山本は、外での張りつめた雰囲気から一転してとてもかわいく見えました。
藤井:そのシーンは自信作です(笑)。ビシッと硬派に出るのかと思ったら、全然弱いというか。あの演出はやりたかったことでした。「ヤクザ? そんなの知らないよ」と言える由香は、あの男社会で不器用に育ってきた山本には新鮮な存在です。そういう女性に自然と惹かれる気持ちは僕にもめちゃくちゃわかります。でも……。
——でも?
藤井:脚本を書いているときから、由香が山本を好きになる確証が僕には持てなかったんです。だから撮影中、尾野さんに「大丈夫ですか? ちゃんと山本のこと好きになれそうですか?」と聞きました。すると「海岸のシーンで笑えたことで心が寄り添う方向に向いたから、大丈夫です」と言ってくれて。すごく納得でしたし、自信が持てました。
尾野:へぇ~……ごめんなさい、覚えてないです(笑)。
藤井:早朝の撮影でしたからね(笑)。
俳優部が率先して盛り上げた、藤井組の現場
——撮影中は、ワンカット撮り終えるごとに俳優もスタッフも一緒になってモニターチェックをしていたそうですね。日本映画では「俳優はモニターを見ない」という慣例があり、めずらしいやり方だったと聞きました。
藤井:『新聞記者』を撮ったとき、シム・ウンギョンから「韓国では全カットみんなでモニターチェックをする」と聞いて、文化の違いに驚いて。今回それを取り入れてみたら、男性陣はみんな「どんな感じ?」と寄ってきてくれました。
——写っている様子に興味津々だったんですね。
藤井:はい。もちろん、彼らが気にするポイントは「髪の毛が変になってないかな?」みたいな、自分の写り方ではなくて。「ここで相手がやりづらい芝居になっているかもしれない」と、改善のポイントを自分たちで見つけて、もう一度やり直したりするんです。そのおかげで、僕が言葉だけでは演出が難しかった部分も共有しやすくなりました。
また、俳優部が率先してチェックにくるので、美術や照明などの技術部も、この画面に写っているものが何を届けているのかと意識が高まってよかったですね。全カット全員で逐一確認する必要はないけれど、新しい方法をこれからも否定しないでやってみようかなと思えました。
——尾野さんははじめての藤井組で、監督の姿勢や仕事の進め方についてどう感じましたか。
尾野:監督は、細かくてせっかち(笑)。でも、そのおかげで「この人のために、どんどんやろう、頑張ろう」という空気が生まれて、団結力あるチームになれたなとすごく思います。
——たとえば俳優には「こう演じてほしい」みたいな細かい演出がある、ということですか?
尾野:演出は細かくもあり、大雑把でもあるというか……「ここで笑ってください」というような演出はありません。でも、気持ちの面で「こういう感情です」といったことを丁寧に伝えてくださる。演じてみたら「今の感じよかったです」ときちんと感想を伝えてくれます。
私が考えたことを尊重してくれるけれど、任せっぱなしにもしない。そのやりとりの積み重ねで、由香という人物がより立体的になりました。考えるほどに、どんどんふくらんでくる感じが気持ちよかったです。いつも気遣ってくださって、ちゃんと見ていてくれている安心感もありましたね。
藤井:あたたかい言葉を、ありがとうございます。
インタビュー後編は1月29日公開予定です。
(スタイリスト:伊藤佐智子(BRÜCKE)、ヘアメイク:黒田啓蔵(Iris)/ともに尾野真千子さん担当、取材・文:菅原さくら、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
彼女はなぜその男を愛せたのか—『ヤクザと家族 The Family』 藤井道人・尾野真千子