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一人暮らしの部屋で人生初のソロ越年。しんどさの中で得た学び【小島慶子】

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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第37回は、新たに迎えた2021年をどう過ごすか、小島さんが思う「これまで」と「これから」についてつづっていただきました。

人生初のソロ越年

年末年始はどう過ごしましたか? 私は、いつも年末年始はオーストラリアの家族と過ごしているのですが、2020年は1月からずっとオーストラリアに戻れず、ついに東京の一人暮らしの部屋で人生初のソロ越年となりました。この分だともう当分は日本から出られそうにないので、長く楽しめる鉢花で寂しさを紛らわせようと、真冬に花を咲かせるクリスマスローズの鉢を買い、小さなしめ飾りや鏡餅を揃えて年迎えの準備。年越しは部屋に和バラの花束を飾り、パースの家族とビデオ通話を繋いで過ごしました。時差が1時間なのでカウントダウンも画面越しに一緒にできたし、離れているけどほんのりあったかいお正月でした。

元日には、一人暮らしの私を心配して、近所に住んでいる古い友人が手作りのおせちを届けてくれました。マンションの前で受け取って、ついでに一緒に氏神様に初詣。人気のないお正月の街を歩きながらおしゃべりして、マスクも弾む初笑いです。

知り合ったのは今からちょうど30年前! そんなに時間が流れたなんて嘘みたい。お互いにいろんなことを経験して、昔よりもしみじみとわかちあえる話もあって、ああ、年を重ねるっていいものだなあと思いました。

友達って、うんと近い時もあればしばらく疎遠になってしまうこともありますよね。結婚や出産や、仕事の都合なんかですれ違ってしまって。彼女とは、ほぼ同時に子供を産んで以来、お互いに忙しくなって会う機会が減り、ずっと連絡を取り合わない期間があったのだけど、だからこそ、その間のいろいろな出来事をお互いにいたわり合うことができるのだと思います。時間が経った今だから言えること、離れていたから言えることってあると思う。

私も彼女も、30年間、懸命に生きてきました。10数年ぶりにこうして一緒に大笑いできて良かった。近づいて、離れて、またふとした時に近づいて。星みたいですね。互いの軌道を回りながら、いっとき遠ざかっても、いい時にまた出会えるのだと思います。

地動説を唱えて裁判にかけられたガリレオ

昨年末には、木星と土星がすぐ隣り合わせに見えるという天体イベントがありました。好条件で見られるのはガリレオが生きていた時代以来、400年ぶりとか。それはぜひ見ねば! と思ったのだけど、ビルが邪魔したのか、間が悪かったのか、拝めずじまいでした。でもおかげでゆっくり夜空を見上げて、遠い時空に想いを馳せることができました。

ガリレオは地動説を唱えたがゆえにカトリック教会から異端とされ、裁判にかけられて軟禁状態になったのだとか。当時の人々は天動説を信じていたのですね。地球が中心で、天が回っているのだと。望遠鏡を使って天体を観測して地動説を唱えたガリレオは、教会の権威を脅かす存在だったのでしょう。

さすがに今は誰も天動説を信じないと思うけど、科学が全ての人を説得できるわけではありません。「実は地球は平たいのだ。地球が丸いというのは嘘で、みんな騙されている!」という陰謀論を信じる人たちもいます。400年前よりも進歩している現代でも、ネット空間はまだ誕生してから歴史が浅い。技術は新しいけどそこで起きていることはまるで中世のようです。

根拠のない噂話や作り話、陰謀論が瞬く間に広がって人を追い詰め、果ては暴動まで起こしてしまう。2020年は偽情報や誤情報の拡散で世界が混乱した年でもありました。どうか400年と言わず10年後にはこんなカオスがなくなって「2020年当時のネット空間は、今と違って極めて未熟で暴力的であった」と振り返れるようになっていますように。

「土の時代から風の時代へ」

占星術の世界では、この木星と土星の接近はおよそ200年ぶりの大きな時代の節目を示すとかで、最近「土の時代から風の時代へ」という文言をよく聞きます。固定的で重たいものから、流動的で軽やかなものに価値が移るということらしい。占いには詳しくないですが、この考え方はちょうど「所有からシェアへ、支配からケアへ」という今の時代の流れと合致していて興味深いです。

例えば、どこか一つの国がワクチンを独り占めしてもパンデミックは収まりませんよね。分かち合って初めてみんなが助かります。誰かが力にものを言わせて従わせようにも、ウイルスは目に見えません。感染症の制圧には、重症化リスクの高い人々を守り、人々が自ら感染を広げないよう行動を変えることが肝心です。ロックダウンもただ力でねじ伏せても持続しません。休業補償などの手当がなければ人は暮らしをつなげません。職を失った人には公的支援も必要です。

弱い立場の人のことを想像し、助けが必要な人をケアしなければ、パンデミックは終息せず、社会も持続できないのです。喫緊の課題である気候危機も、世界的な連携なくしては解決できません。

個人の暮らしを考えてみても、この20年ほどで価値観が大きく変わりました。ローンを組んで車や家を買うのが一人前という発想は過去のもの。パンデミックをきっかけに都市部を離れる動きも出てきました。かつては新卒で入社した会社に定年まで勤めるのが「まともな働き方」とされたけど、今は転職は当たり前だし、副業も珍しくありません。

ローンを返済しながら家と会社を何十年も地道に往復する暮らしから、2拠点生活やテレワークなどでその時もっとも快適な働き方や暮らし方を選ぶように変わりつつあります。何かを所有して固執するよりも、柔軟に乗り換えながら生きていくことを好む人は今後も増えるでしょう。

そうなると当然「いま自分にとって一番大事なものは何かな?幸せってなんだろう?」ということを考えなければ、行き先が定まりませんよね。今のような命に関わるような事態が起きている時には、本質的なことが平時よりも見えやすいもの。2021年も、そんなことをじっくり考える時間が多いのでは。

外出自粛の中で気づいたシンプルな幸せ

私も、去年は不安や孤独に震える夜が何度もありました。きっと今年もそうでしょう。そんな時は「自分が本当に喜びを感じることはなんだろう?」と考えます。答えはとてもシンプル。離れていても家族との時間を真剣に、大切に生きること、尊敬できる友人を持つこと、そしてささやかでも誰かの役に立つこと。どれも、外出自粛で家にこもっていても実行できることでした!

インターネットのおかげで、家族とも友人ともつながり続けることができたし、微力ではあっても、寄付で遠くの誰かとつながることもできました。人と自由に会えないからこそ、会いたい時に会えるのはすごく幸せなことなんだとも実感。喜びのもとは自分の手の中にあったと気がついたら、フワフワと闇の中を漂っていた心が、すうっと温かい体の中に戻ってきたような感じがしました。

2021年は、去年言われ始めた「これからの価値観」を「今の価値観」にする年。ケアの政治も環境問題への取り組みも、これまで散々「であるべき」とは言われてきたけど、みんなお腹の中では「けどそんなの理想論で、現実には無理だけどねー」と思ってきました。ガリレオが「星を見ればわかる、地球は回っている」と言っても「まさか、そんな馬鹿げたこと」と言っていた時代があったように、いま絵空事だと思われていることは、近い将来の「現実」や「常識」なのかもしれません。

まだしばらくしんどい日々が続くけれど、そのしんどさの分だけ深い学びがあったと思える時間にしたいですね。クリスマスローズの蕾も、寒さの中で膨らんでいます。大事な人たちと言葉を交わし、遠くの誰かに思いを寄せながら、一緒に乗り切りましょう。

情報元リンク: ウートピ
一人暮らしの部屋で人生初のソロ越年。しんどさの中で得た学び【小島慶子】

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