コロナ禍の時勢にあって、いまこそ免疫について知っておきたく、「免疫って何? 高めるにはどうする?」と題した連載で、感染症や免疫について詳しい耳鼻咽喉科・気管食道科専門医の遠山祐司医師に詳しいお話しを聞いています。
免疫とは、ウイルス、細菌、真菌(カビ)などの病原体が我々の体に侵入して感染を防ぐための防御システムであること、そしてそれがどのように働くのかについて、これまで次の回で教えてもらいました。
今回・第7回では、新しい免疫の考え方としていま注目されていることについて遠山医師にお尋ねします。
免疫システムには3つの段階がある
——これまでのお話しから、ヒトの体の免疫システムには、3つの段階があるということでしょうか。
遠山医師:そうです。外敵が侵入してきた時点から整理すると次のようになります。
・第1段階:さまざまな外敵を、皮膚や粘膜、涙、鼻水、だ液、胃液が侵入と同時にただちに防御にかかる……自然免疫(皮膚・粘膜バリア)の物理的・化学的防御 第1回・第2回参照
・第2段階:第1段階を突破した外敵(病原体)が侵入すると、免疫細胞(白血球の一種の好中球・マクロファージ)たちが数分~数時間で素早く発動し、食作用や炎症作用で排除する。
またナチュラルキラー細胞が感染した細胞を攻撃して防御する……自然免疫 第3回・第4回参照
・第3段階:第2段階までの自然免疫を突破してきた外敵(病原体)を攻撃、排除し、さらに記憶して将来の感染に備える。
自然免疫より数日の時間を要するものの、リンパ球(白血球の一種)が「特異的に作用」(はしか、インフルエンザなど特定の病原体にだけ働くこと)し、一度感染した病原体を記憶する。二度めはその特定の病原体(抗原)に反応して排除する……獲得免疫 第5回・第6回参照
自然免疫の役割の新発見が相次ぐ
——ここ20年ほどで、自然免疫のシステムが見直されていると聞きます。
遠山医師:その通りです。日本人の研究者を含めて、多くの研究報告が続いています。2000年ぐらいまでは、医学的に免疫と言えば、前回にお話しした「二度は同じ感染症にかからない『二度なし』」の現象のことである、つまり、獲得免疫の仕組みが免疫の主役なのだ、と考えられていました。
しかし、最近の20年ほどで新しい免疫細胞やその働きの発見が相次ぎ、2011年には「自然免疫系の活性化による発見」や、「樹状細胞と、その獲得免疫系における役割の発見」がそれぞれ、ノーベル生理学医学賞を受賞しました。
自然免疫は、いわゆる原始的な感染防御システムととらえられてきましたが、実はそうではなく、病原体を特異的に認識して獲得免疫を誘導している、これこそが免疫の主役ではないか、と考えられるようになってきています。
また日本人の研究者が、自然免疫と獲得免疫をつなぐ「トル様(よう)受容体」(TLR)という、病原体の特徴的な構造を見分けるセンサー(受容体)が重要な働きをしていることを発見し、それまでの免疫学の常識をくつがえす成果をあげています。
そこでいまでは、免疫とは何かというと、「自然免疫と獲得免疫、また皮膚・粘膜免疫と全身免疫、それらが互いに連携して協力し合うネットワーク全体を指す」ようになっています。
ただし免疫は今後も新発見が見込まれている分野であり、将来的にどんどん詳細が解明され、発展していくと考えられます。
自然免疫を担う皮膚、粘膜、白血球の力に注目
——免疫システムの第1段階、第2段階の「自然免疫」の力は、皮膚や粘膜、白血球の力によるのでしょうか。
遠山医師:皮膚や粘膜、白血球の力は、免疫のありようと比例すると言えます。ただし、自然免疫であるがゆえに、それらの力は加齢や生活習慣の悪化で低下していきます。
第3回で「自然免疫を担う白血球の免疫細胞は、警察官や保安官のように全身をパトロールして病原体から体を守っている」と話しました。そのため、これらの力をアップすることが、自分の免疫を高めることになります。
——皮膚や粘膜、白血球の力を高めるということでしょうか。
遠山医師:そうです。新型コロナやインフルエンザ、風邪の対策でも、手洗いやうがい、咳(せき)エチケット、身の回りのものの除菌や消毒、「密」な状態を避けるという方法とともに、栄養のバランスがとれた食事、充実した睡眠、ウォーキングや筋トレ、ヨガ、ストレッチなどの軽い運動を心がけて、心身ともにストレスを溜めない生活習慣を実践し、自らの自然免疫を高めておくことが重要になります。その方法論はまた後の回で紹介しましょう。
聞き手によるまとめ
「ヒトの体に備わっている免疫のシステムは3つの構えがある」こと、「かつては免疫と言えば獲得免疫を指していたけれど、近年、自然免疫に関する発見が続いている」こと、「全身の免疫のネットワークが注目されている」こと、それらの事実から、「自分の免疫を高めるためには、自然免疫の力に注目すること。つまり生活習慣の見直しを」とういことです。
次回・第8回は感染症を予防するワクチンについてお尋ねします。
■これまでの連載を読む
【第1回】いまさら聞けない…「免疫」って何のこと? 皮膚が外敵をバリア
【第2回】鼻水、唾液、胃液…免疫として「粘膜」が体を守っている
【第3回】白血球が病原体を食べる仕組みとは?
【第4回】感染した細胞やがん細胞を退治! ナチュラルキラー細胞とは
【第5回】 白血球の細胞がチームプレーで闘う…「獲得免疫」の力とは
【第6回】免疫の働き…同じ感染症に二度はかからない「二度なし」とは?
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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