『すべての女子はメンヘラである 22年間メンヘラだった私がたどりついた悩まないセブンルール』(飛鳥新社)を上梓したエッセイストのスイスイさんへのインタビュー。
本書はweb連載「メンヘラ・ハッピー・ホーム」を大幅に加筆修正のうえ、再構成したもの。メンヘラといっても「イタい」「病んでいる」といったステレオタイプのイメージとは一線を画し、「まじめで自己肯定感が低い」「恋愛で思うように愛されていない」「満たされていない感じがある」などなど、誰にでも当てはまるような広い定義でのメンヘラを対象にしています。
「私にとって、メンヘラだった過去自体は黒歴史なんかじゃなく、むしろ宝」と言い切るスイスイさんに、3回にわたってお話をうかがいます。
「リア充」は最高進化の象徴
——本の中では、メンヘラと対比する形で「ハッピーリア充」という単語が頻出しますが、この言葉を使おうと思った理由を教えてください。リア充ってちょっと死語になりかけていますし、メンヘラ同様「(笑)」な感覚で使われがちな“取り扱い注意”な言葉だと思いまして……。
スイスイさん(以下、敬称略):「今世私のリアル生活が充実することなどありえない」って絶望していた私にとって、「リア充」こそ最高進化の象徴なんですよ。大学3年生のときに壮大な失恋をして、そのときの彼氏(ラスボスさん)のことは今でも引きずっているのですが、その元彼から「スイスイと結婚する人生がよかった」って思われたいんです。
そうなると完全にハッピーでリアルが充実している人になりきりたいので、「リア充」以外の言葉が作れなかった。「リア充」は私にとって一番わかりやすいゴール。すごい重要なゴールだったんです。
——「完全にハッピーでリアルが充実している人」って、いわゆる「VERY妻」みたいなイメージでしょうか? 高収入の夫がいて、自分のやりたいことをやり、SNSで自分の生活を発信して……みたいな。
スイスイ:時代に合っていないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、リア充という言葉には、むしろそういうイメージも含めているんです。私は「VERY妻」的な生き方のほうがむしろ自分に合っていると思っていて。
自分の特性を考えると、何年も会社に勤めて同じ仕事をして……という働き方はできないだろうと思ったし、子どもが小さいうちはそばにいて、なるべく自分で育てたいと思っていたし。だから絶対に私が専業主婦になってもいいと言ってくれる、きちんとした収入のある、安定した会社に勤める人と結婚したいと思っていました。
もちろん、これが人類のハッピーの形ですって言いたいわけでは全くありません。それはひとりひとり違うと思うので。
——みんなこうして私と同じような暮らし、同じような物を手に入れればハッピーリア充ですよってわけじゃなくて、私は自分の幸福を最大限に追求したらこの形でしたっていう感じでしょうか。
スイスイ:はい。だってラスボスさんを14年引きずりながら夫と子供と暮らしている今の幸せこそ、私が考え抜いた最高の形なんですけど、これってほかの人にあてはまるとはあんまり思わないというか。そこを目指す人ってまずいませんよね。この幸せの形は、どこにも当てはまらない。私だけのものなんです。
「メンヘラ」と「結婚」
——ラスボスさんを引きずっていることに対して、配偶者の方は何も言わないんでしょうか。
スイスイ:全然知らなかったんですよ、夫は。だけどこの前、急に普通のテンションで「後輩が本読んだって言ってたよ」「あとがきは元彼が書いてるんだね」と言われて。……ということはですよ!? これはつまり公認ってことです! もう私は胸を張って生きるって逆に思いました。
——うーむ、普通のテンションで言われるのはなんか怖い気も……。
スイスイ:いやいや、夫は裏がない人なので(笑)。出産に2回立ち会ってるんですけど、そのときも「出てきたの?」みたいな感じで全然なんの感慨もなかったんです。出会って13年くらいになりますけど、涙を流したのを見たのは、仮面ライダーの映画で泣いたときだけですね。逆に仮面ライダーすごすぎって感じですけど(笑)。
——そういうパートナーの性格が、スイスイさんに向いているのかもしれませんね。
スイスイ:メンヘラが爆発しにくいですからね。私よりもっとメンヘラな友達も、振り返ってみるとそういうパートナーと結婚しているパターンがすごく多いんです。メンヘラを爆発させていた相手とは全然違う、無感情で穏やかな人。意外と冷静な側面も持ち合わせているので「結婚するならこういう人」っていうのがわかってるんですよ。
——逆に、メンヘラホイホイの男性*は、どんな人と結婚するんでしょうかね?
*「メンヘラ」と呼ばれる女性たちと恋愛に発展しやすい男性のこと
スイスイ:こちらも逆の組み合わせになることが多いですね。「私調べ」ですけど。承認欲求もなくて、インスタはやってるけどフォロワー20人の鍵付きで……みたいなメンヘラとはまるで正反対のタイプと結婚してる。元彼はほぼ全員そのパターンです。
ステレオタイプなメンヘラ像は捨てる
——最後に、書籍を書くにあたって苦労したことを教えてください。
スイスイ:実は、初稿を出したらほぼボツになりまして。
——えっ、なぜ?
スイスイ:つい、「本を出すからには」と気負いすぎてしまって(苦笑)。真面目なモード、重すぎるモードで書いたら、編集さんに「もっとポップな感じで書いてください」と言われてしまったんですよ。それでハッとしたんですよね。メンヘラだから過剰につらいことに寄り添わなきゃってモードになっていたなって。自分に向き合いすぎて暗くなってるみたいな雰囲気の原稿でした。
全ボツになったあとは、メンヘラ性がちょっとでもある人が「自分に関係あるかも」って思える本にしないと意味がないということを改めて意識して、ステレオタイプなメンヘラ像にならないように、狭くなりすぎないようにすごく気をつかいました。
——「私のほうがメンヘラだし!」みたいな反応は意識していましたか? メンヘラマウンティングというか。
スイスイ:ちょっと意識はしましたね。私の中にも、自分はメンヘラカースト的にそんなに上位じゃないみたいな卑下はあって、私なんかがメンヘラを名乗っていいわけがないってすごい思ってたんですよね。でも、周りの知人に「いや、まさにメンヘラだよ」「気づけてよかったね」と言われて、やっぱりそうかと(笑)。
——気づくところからすべては始まりますもんね。気づいて自分を見つめなければ、ずっと悩み続けることになるかもしれない。だからこそ、ステレオタイプなメンヘラ像をとっぱらって、この本をすべての女子に読んでほしいですね。
スイスイ:そうですね。私は、この本を読むすべての人に「できるだけ悩まない日々」を捧げたいと思っています。それに、メンヘラは応用次第で相当な力を発揮するんですよ。私の場合は仕事のシーンでメンヘラ特有の「力」を操れるようになりました。読者のみなさんにとって、メンヘラだからこんなに良いことがあったんだって、寄り添えるような本になってるとうれしいなと思います。
(文:須田奈津妃、撮影:大澤妹、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
元彼への思いと夫の反応。元「メンヘラ」で現「ハッピーリア充」の私が思うこと【スイスイ】