連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。
精神保健福祉士・社会福祉士で、著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『小児性愛という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)などで男性の“加害者性”について深く考察してきた斉藤章佳さんをゲストにお招きしています。第4回では、かねてから斉藤さんが違和感を抱いているという「かわいい」というワードをフックに話が弾みました。私たちが普段から安易に口にしがちなこの言葉の裏に潜むリスクとは——?
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子どもの頃から「かわいい」を期待され
——斉藤さんは今回、アルテイシアさんと話したいことに「“かわいい”を女性に求める男性たち」というワードをあげています。その理由について、詳しく聞かせていただけますか?
斉藤章佳さん(以下、斉藤):昨年、『「小児性愛」という病 ―それは愛ではない』(ブックマン社)という本を出版しました。「ペドフィリア(小児性愛障害)」をテーマにした一冊です。
——シッターによる加害が発覚するなど、小児性愛障害は最近でも社会問題になりましたね。
斉藤:ええ。加害者になぜ子どもを狙うのか尋ねると「成人女性のように恐怖心を与えたり、存在を脅かされたりせず、無条件に自分のことを受け入れてくれるから」と答えるんです。この感覚が、日本特有の男尊女卑依存症社会と非常に地続きだな、と感じまして。
同書のあとがきでも触れているんですが、2年前に話題になった上野千鶴子さんの東京大学入学式での祝辞。男子学生の価値と成績のよさは一致しているが、女子学生の価値と成績の良さとの間にはねじれが生じると。
——むしろ成績のよさは男性に脅威を与えてしまうので、女子学生は東大生であることを隠さないとモテない、という話でしたね。
斉藤:そこで上野さんは、「かわいい」という表現をされていました。女子は男性から愛される、選ばれる、守ってもらうために、子どものときからかわいくあることを周囲から期待される。「かわいい」には、相手を絶対に脅かさないという保証が含まれているからだ、と。このことを聞いたとき、まさに小児性愛障害の認知の歪みとつながりました。
現代の日本には、女性が自発的に「かわいい」を好むように思わされていると感じるんですよ。
「かわいく」振る舞えば、仕事も恋もうまくいくという刷り込み
アルテイシアさん(以下、アル ):まさに先日のコラムでも書いたんですが、私がこの世から葬り去りたいフレーズ選手権第一位が、「きみは強いからいいよね、でも強すぎる女はモテないぞ!」なんですよ。「守ってあげたい」というキラキラ粉飾と共にこの手の発言をする男性は、「自分より弱い女=自分を脅かさない、支配しやすい女」を求めているわけで、男尊女卑を内蔵した、モラハラ予備軍が多いなと実感してます。
ジェンダー観というのは、やっぱり刷り込みだと思うんですね。無意識に刷り込まれているからこそ、本人も自覚するのが難しい。
周りからよく聞く話なんですが、若い女性がセクハラや性差別に遭って、男性上司に相談すると「気にしすぎだよ」と言われてしまう。気にせずにいられるのが特権なのだ、と彼らは気づいていない。一方で女性上司に相談すると、「私ならうまく受け流すけどね」と返される。その女性上司も男社会を生き抜く中で「セクハラは笑顔で受け流せ」「それが賢い女だ」といった価値観を刷り込まれてしまっている。
——上司にそういう反応をされてしまうと、八方塞がりになってしまいそうですね。
アル:「女はいつも笑顔で愛想よく」みたいな圧は、いまだに根強いですよね。男尊女卑依存社会のヘルジャパンでは、「男にとって都合のいい、かわいい女」を演じないと、仕事も恋愛もうまくいかない。本人はやりたくてやってると思い込んでるかもしれないけれど、それは刷り込みによるものだと思います。
斉藤:なるほど。刷り込みによって、望みもしないかわいらしさを演じさせられているとするならば、勇気を出して変わる必要があるかもしれませんね。まずは何から始めればいいのでしょうか。
アル:ジェンダーを学ぶこと、ジェンダーに自覚的になることだと思います。
嬉しいことに、私のコラムを読んで「性差別やセクハラに怒っていいと気づいて楽になった」「自分らしく生きられるようになった」と感想をくれる女性が多いんですよ。「上司にプーチン顔*をキメて撃退しました!」とか(笑)。自分のためだけじゃなく、ジェンダーに自覚的になることで、差別の再生産に加担せずに済みますし、自ら行動を起こすことで、より良い世の中をつくるための一歩になると思います。
*プーチン顔…「あまり私を怒らせない方がいい」という殺気をこめた表情
社会を変える鍵は「傍観者」
——より良い世の中をつくるために、私たちにはどんな行動ができると思いますか?
アル:たとえば、セクハラの現場を見かけた時に「それセクハラですよ」と注意するとか。周りにいる第三者が注意することは、きわめて効果的だそうです。
2015年にカナダのオンタリオ州政府が「Who Will You Help」というセクハラ・性暴力啓発キャンペーンの動画を制作して、最近日本でも話題になりました。
動画では、女性が性的嫌がらせを受けるシーンが次々と登場するんですが、ワンシーンごとに加害者の男性がクルッと振り返って「黙っていてくれてありがとう」とカメラに向かって言うんです。「無視してくれてありがとう、おかげで続けられるよ」と。
——うわ……。
アル:加害者でも被害者でもなく、「見て見ぬふりをする周囲の人」に向けられた痛烈なメッセージなんですね。そして動画は、「何もしないなら、加害者を助けたことになる。でも何かしたら、被害者を助けられる。あなたは誰を助ける?」というセリフで締めくくられます。
斉藤:ゾクッとしますね。ただ黙っているだけで、自分が性暴力に加担することになってしまうんですから。
アル:できることがあるのに何もしないのは、消極的に加害に加担することになるんですよ。
たとえば、痴漢をタックルで仕留めることは難しい。でも被害を受けていそうな女性に「ひさしぶり!」と声をかけるとか、それぐらいなら私にもできる。
自分ができることからやっていくこと、それが性暴力や性差別を許さない社会に繋がるんじゃないでしょうか。
サイレント・マジョリティの関心をどのように高めていくか
斉藤:アルテイシアさんの意見に大賛成ですね。痴漢問題でもよく、加害者と被害者、どちらにアプローチするのが有効なのかという議論が起こります。しかし、現実的にはどちらもピンポイントでアプローチするのは非常に難しい。そうなったときに、その状況をとりまく第三者である傍観者=サイレント・マジョリティの関心をどのように高めていくことができるかという視点が重要になります。
痴漢行為を見て見ぬふりをしないように啓発していくことが、痴漢を防止するためにもっとも効果的なのではないか、という結論に達しました。痴漢問題のうち被害者が女性であっても男性であっても加害者の99%は男性であり、痴漢問題は「男性の問題」だと言えます。今後、彼らに啓蒙していくためにどんなアプローチができるか、今考えているところです。
アル:男性に「性暴力は自分たちの問題である」と自覚してもらうことは本当に大事ですよね。加害者がいなければ性犯罪はなくなるし、痴漢がいなければ女性専用車両も必要ないのだから。
痴漢の話題になったときに「自分が責められている」と身構える男性は多いけれど、加害者でも被害者でもなく、傍観者として自分に何ができるのか?
それを考えてほしくて、「#性暴力を見過ごさない」「#ActiveBystander」という動画を作ることになりました。
ActiveBystanderとは「行動する傍観者」という意味です。たとえその場で加害者を捕まえられなくても、「助けてくれる人がいる」という安心感、社会に対する信頼があれば、被害者は助けを求められる。そういうメッセージを伝えられたらいいな、と思ってます。
最終回は9月29日(火)公開予定です。
(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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