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コロナで感じたパートナーとの価値観の違い。対話でどう乗り越えていく?

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2020年4月に『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』(大和出版/以下、メンタル・クエスト)を上梓した、心療内科医で秋葉原save クリニック(東京都千代田区)院長・鈴木裕介さん。SNSではDr. ゆうすけとしても積極的に情報発信を行なっています。

インタビュー前編(第12回)では、鈴木先生に「なかなか自分の弱さを認められない」「人に頼るのが苦手」という悩みについて、後編ではコロナ禍によるコミュニケーションの変化について伺いました。

最終回となる今回は、コロナ禍で浮き彫りになったパートナーシップ、家族とのすれ違いを解説していただきます。

揉めるのは「当たり前」

——コロナの影響でパートナーや家族といる時間が増えたり、その一方で全く会えなくなったり、という状況になっています。環境変化によって揉め事が多くなったという声もよく聞きますよね。

鈴木裕介さん(以下、鈴木):この状況で揉めないほうが難しいですよ。物理的な制約によってほぼ全員が「会いたいけど会えない」とか「一緒にいるのはキツイのに同じ空間にいなきゃいけない」という状況に置かれる。これはすごいストレスだと思います。

——「コロナ離婚」というワードを目にしたり、パートナーシップを解消したなんて話もちらほら聞きます。

鈴木:「月2〜3回会えたら満足」とか「同じ家に住んでいても、顔を会わせるのは朝と晩くらいがいい」といったように、もともと一人ひとり「相手との理想の距離感」があったと思うんです。ただコロナ以前はそれを言語化してすり合わせる必要があまりなかった。

でも、コロナの影響で「どれくらい顔を合わせるのか」「どのくらいの距離感を保つのか」を言葉にして話し合わなくてはいけなくなりました。それが揉め事のきっかけになってしまっているのかもしれません。

——もともと持っていたニーズの違いが表面化してしまった可能性が高いということですね。

鈴木:そうですね。しかも、今回は感染症なので、「安心」の感覚のすり合わせも必要になります。人とどのくらい接触を避ければ安心なのかという感覚ですね。

難しいのが、客観的な基準をもたせやすい「安全」に比べて、「安心」は完全に個人の主観だということ。感染者数が数百人を超えたという報道を見て「まだ大丈夫だな」と安心する人もいれば、「もう家から一歩も出たくない」という人もいるでしょう。

2メートル離れたら「安全」性が高まるといった客観的で科学的な基準ではなく、「安心」はあくまで主観。主観をすり合わせるのってなかなか難しいんですよね。

——だから揉めやすくなる、と。

鈴木:ええ。だから揉めるのが当たり前くらいに思っておいたほうがいいかもしれません。

親密な人間関係が悪化すると、メンタルヘルスにも大きな影響を与えます。とりわけ家族やパートナーといった身近な人間関係が大きな影響を与えるんですね。

「対人関係療法」という治療法があるのですが、薬ではなく、その人の周りの親密で影響力の大きい人間関係の質を向上させるアプローチをとることで、状態がよくなるんです。今回のコロナのような状況は、対人関係の質を大きく変えうる危機でもあったと思います。

——それもあって調子を崩す人が増えているのかもしれません。

鈴木:うつ病と診断を受けた女性の直前の6ヶ月に報告された問題として最も多かったのは夫婦間の問題であるとも言われます。それくらい、心身の健康のためには親密な人との対人関係を良好に保つ努力が必要なんです。

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価値観のすれ違いは、良好な人間関係の入り口

——そんな揉めやすい状態のなかで良好な関係を維持するためには何を大切にすればいいんでしょうか。

鈴木:そもそも価値観のズレが浮き彫りになって揉めているときって「関係性が悪化した」と捉える人が多いんですよね。でも、実はこれは真逆だと捉えたほうがいいです。

——「良好」になってると捉えるってことですか?

鈴木:その通りです。正確に言うと「良好になる途中」というイメージですね。

これまで表面化していなかったズレや違和感を対話の遡上(そじょう)に乗せられた。これって関係性においては大きな前進なんです。「どうせ聞いてくれないだろう」「話し合っても無駄だろう」という諦めがあったら、見ないフリをしたり、放っておくはずです。このズレについて話し合うことが、私たちの関係にとって大切なことである、という思いが共有できていなければ、対話を前に進めることはできません。

——お互いのニーズにどう折り合いをつけるかを話し合い、より良い関係性をつくる第一歩目を踏み出しているということですね。

鈴木:そうなんです。この時に気をつけなきゃいけないのは、一方的に意見を押し付けるのは対話ではないということです。「私は会うのは週1でいい。あなたもそれで我慢して」というのは対話ではありません。

「あなたは週3がいいんだね。でも私は週1がいい。じゃあどうしていけばいいんだろう」などと、お互いの要望が妥当かどうかを検証したり、良いおとしどころを探っていくのがフェアで誠実なコミュニケーションだと思います。

——自分がしんどいと意見を押し付けがちなので、気をつけなくては……。

鈴木:今、みんながストレスを抱えた状況なので、対話にエネルギーを割くのが難しい人もいます。だから多くの人が対話の努力をする前に「自分が悪かった」「相手が悪い」「やっぱり私たちは合わなかった」と結論づけてしまっているのかもしれません。

しんどさ真っ只中で対話をする必要はありませんが、落ち着いたときにお互いの価値観を言語化して伝え合うプロセスは必要になってくると思います。

家族の分まで”荷物”を背負いすぎない

——家族と一緒にいる時間が長くなって、プレッシャーが強くなったという人もいます。例えば、子どもが学校に行けずに自宅で学習をしなくてはいけない。でもなかなか計画通りに進んでいないようなときに「私がもっとちゃんと見てあげないからダメなんだ」と感じてしまったり。

鈴木:自責思考が強い人は、他者との境界線が曖昧になりやすいのかもしれません。境界線とは「私の課題」と「あなたの課題」を分けるラインのことです。一緒にいる時間が長くなってくると、「家族の課題」を「自分の課題」であるかのように感じやすくなってしまうんですよね。

しかも、今回に関しては未曾有の事態で「こうしたらいいよ」という確かな方針を示してくれる人もいない。なおさら「自分がもっと頑張らなきゃ」と追い詰められる人が多かったのではないでしょうか。

——そのプレッシャーからは、どう抜け出したらよいのでしょうか?

鈴木:家族の分まで「荷物」を背負い過ぎないことが大切です。例えば、先程のお子さんの例でいうと、勉強ができないのって「あなたのせい」じゃないですよね。子どもだって、急に授業がなくなってよく分からない状態で、外遊びもろくにできないストレスの中、勉強なんかしたくないと思うんですよ。むしろ机にかじりついて毎日長時間勉強できている子がいたら、凄いことだと思います。だから、子どもが勉強しないのは「あなたのせい」じゃないんです。

——「家族の問題」や「環境によって引き起こされた課題」を自分の荷物として背負すぎないことが大切だということですね。

鈴木:その通りです。そもそも今は非常事態。それに対して「完璧に対応しなきゃ」なんて思うこと自体が不可能ですから。「家族みんなが、とりあえずご機嫌でいたらそれでいいや」くらいに目標をできるだけ下げておいたほうがいいんじゃないでしょうか。

(構成:岡本実希、撮影:青木勇太、聞き手、編集:安次富陽子)

情報元リンク: ウートピ
コロナで感じたパートナーとの価値観の違い。対話でどう乗り越えていく?

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