「嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名 サヨナライツカ」(手塚マキ)
東京・歌舞伎町に6店舗のホストクラブを構える「スマッパ!グループ」の会長・手塚マキさんとホスト75人による歌集『ホスト万葉集』(短歌研究社/講談社)が7月6日に発売されました。
2018年からの2年間、出勤前のホストが月に1回集まって開催された「ホスト歌会」で詠まれた約900首の中から300首を“一人のホストの成長物語”に見立てて構成した歌集で、歌人の俵万智さんと、野口あや子さん、小佐野彈さんが編者(選歌・構成)を務めています。
「『今』を忘れないことがホストの仕事。大事な『今』を31文字に閉じ込めてほしい」と話す手塚さんにお話を伺いました。
※取材は8月上旬にオンラインで行いました。
短歌を詠むことでホストたちの個性が磨かれた
——ホスト歌会は、小佐野さんの出版記念イベントでホストたちに即興で短歌を作らせる企画を行ったのがきっかけと伺いました。野口さんが『源氏物語』の光源氏を「元祖チャラ男」と評し「ホストは光源氏に通じる」とおっしゃったそうですが、短歌とホストは親和性が高いのでしょうか?
手塚マキさん(以下、手塚):恋の歌という点で言うと、単語の強さと余白を大事にするのは男性が女性を口説くときのテクニックですし、あるあるのシチュエーションだと思います。そういう意味で、ホストがやっていることと短歌の性質は似ているかもしれないですね。要は、相手に直接「好き」と言わなくても「好き」のニュアンスってあるじゃないですか。短歌も、31文字という限られた字数の中ではっきりは言わないけれど「きっとそうだろうな」と想像する余白があるので、親和性はある気がします。
ある日の歌会で、野口さんと俵さんがホストたちが詠んだ歌を聞いて「『街』と『待ち』が韻を踏んでる。実際に声に出してみないと分からなかったね」と話していたんですが、ホストの世界も読む文化というよりは音の文化なんです。
——音の文化?
手塚:ホストクラブで交わされる会話は短文の掛け合いで一人がダラダラ喋ったり、「君のことを好きだと思ったからこうやって手を回して頭を撫(な)でたんだよ」なんて回りくどく説明したりすることはありません。会話でもLINEでも感覚的な掛け合いがホストたちの特技というか個性。言葉の選び方や音に対する感度、リズミカルな文章、耳当たりの良い音選びなど、短歌を詠むことによって彼らの特技が磨かれていった気がします。
「あれ? 何の話ししてたっけ?」がホストクラブの魅力
——相乗効果があったんですね。
手塚:ホストクラブの魅力って、例えば1時間いて、「あれ? 何の話ししてたっけ?」っという部分ですよね。「なんだかよく分からなかった」「でもなんか楽しかったね」って。だからみんなすごく体感を大事にしますよね。なんか楽しいとか、なんか嫌だとか。
——感覚的なんですね。
手塚:理性で生きざるを得ない女性たちにとっては、感覚的に生きている男の子たちと関わるのは良い時間になるんじゃないかな。おそらく、男性よりも女性のほうが理性を持って生きざるを得ないと思うんです。そういうふうに生きなきゃいけないという雰囲気があるじゃないですか。男は破天荒でも許されるけれど。
——ありますね。同じ不倫でも男性より女性のほうが風当たりが強い。女性に対して「こうあるべき」という世間からの風当たりも強いし、女性自身も「こうしなければ」と内面化してしまっていると思います。私たちの媒体ではそれを「呪い」と呼んでいるのですが。
手塚:そういう意味で言えば、ホストクラブは呪いを気にしなくていい場所、呪いがない場所なんです。ホストクラブに足を踏み入れた途端、ただの「Aちゃん」になる。何歳だろうが、仕事が何だろうが、「Aちゃん」になるんです。別にAちゃんが本名である必要もないし「Bちゃんって呼んで」と言えば「Bちゃん」になるんです。
だから例えば、LINE交換する段階になって「実はAちゃんじゃなかった」というのはよくあることですね(笑)。何者にでもなれるのがホストクラブの面白さだし、余白を楽しむ場所。「こんなふうに対応されたけどどういうことなんだろう?」「頭をちょっと撫(な)でられて久しぶりにドキッとしちゃった」といろいろ想像して楽しむ。女性が主体的に楽しむ場所だし、そんなホストクラブの魅力が『ホスト万葉集』を読んでいただければ分かるのではないかなと思います。
「夜の街」と分断を煽るメディア
——最終章には「コロナの歌」も集録されています。ホストたちはZoomで歌会や勉強会を続けたそうですね。手塚さんは6月から新宿区と連絡会議を開催し、店内の感染予防策をとるなどガイドラインに沿った対策を積極的にとられていますが、歌舞伎町の「今」は「夜の街」という曖昧な言葉でひとくくりにされ厳しい目が向けられています。
手塚:まさに分断だと思います。感染拡大という観点から言うと、積極的に検査を受けて陽性だった人たちを糾弾するのは絶対に良くない。感染者に責任を押し付ければ名乗りづらくなります。
——手塚さんが積極的にメディアに出演して発言するのはなぜですか?
手塚:メディア批判のためです。例えば新宿区が感染者に10万円を支給する見舞金支給制度を創設するというニュースが流れたときも、記者から「わざと感染しようとする人がいると言われていますが、どう思いますか?」と聞かれたんです。僕は「それは誰が言っているんですか?」「実際にそういう人がいたんですか?」と逆に質問したのですが、その記者は答えられませんでした。憶測や自分たちが報道したいストーリーありきで取材をしてくるメディアは多いですし、まずはメディアの報道の仕方が変わらないと人々の意識も変わらないし、政治家をちゃんと選ぶこともできません。まずはメディアのあり方が変わっていくことが大事だと思います。
※参考記事:新宿区の見舞金支給制度の創設で、「わざと感染しようとする人がいる」「見舞金欲しさにホストが集団検査を受けている」との臆測が広がったことについて、区は事実と違うと反論しています。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/42760
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
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情報元リンク: ウートピ
ホストクラブと短歌の共通点は男女の間に漂う「余白」? ホスト万葉集誕生の裏側