人生100年時代、いくつになってもチャレンジできる——。
平均年齢72歳のチアリーディング・チーム誕生の実話を描いた映画『チア・アップ!』が7月3日に公開されます。ファッション・アイコンとしてインスタグラムも人気の大女優ダイアン・キートンが、余生を過ごすために移り住んだシニアタウンの仲間とチアリーダーになる夢をかなえる主人公を演じています。
実は日本にも88歳で現役として活躍しているチアリーダーがいます。53歳で米国留学、63歳でチアチームを設立した滝野文恵(たきの・ふみえ)さんに、いくつになってもチャレンジを忘れない心の持ち方、後悔しない生き方のヒントを聞きました。前後編。
「いろいろあったけど、いい人生だった」と思って死にたい
——53歳で米国に留学。米国にはシニアのチアリーディング・チームがあると知り、ご自身でも63歳でチアチーム「ジャパンポンポン」を設立されます。新しいことにチャレンジするのは、それが何であってもエネルギーや勇気のいること。特にチアリーディングは他人に見せるパフォーマンスで、自信を持って取り組むにはハードルが高いと想像します。始めた原動力は?
滝野文恵さん(以下、滝野):「シニアでもこんなことができるの? じゃあやろう」という、ただそんな気持ちでした。もし30代だったら、「もっと背丈があったほうがよかった」と思ったり、他のメンバーとの比較や競争があったりして、キツかったかもね。だけどシニアになってから始めるのだから、「シニアなりの、いいものができるのではないか」と思ったんです。
——チアもそうですが、50歳を過ぎてから米国留学に行かれたことも、すごくパワフルだと思いました。
滝野:こう言ったらおしまいだけど、性格だよね。
——やりたいと思うと、止められないタイプですか?
滝野:そうですね。実は52歳の時にいろいろあって、米国に行く前に家を出てしまっているんです。人生の最後に、「いろいろあったけど、いい人生だった」と思って死にたい。その気持ちが、そもそもの発端なんですよ。
何かをやるのに「ちょうどいい時機」はない
——「このままでは悔いが残る」と感じていたのですか?
滝野:昔の話にさかのぼってしまうんだけど、私の父が自分で事業をやっていた人で、結構いろいろあってね。すごく元気で、バイタリティもあって、世間から見れば成功した人生だったと思うのだけど、80歳の時に車の事故を起こして運転をやめることになり、それから引きこもりになってしまった。86歳で亡くなったんですけど、最後の半年は寝たきりでした。その時に「俺の人生は無だった」みたいなことを言い始めて……。元気な頃は「最後まで人生楽しむ」と豪語していて、いろんな心づもりもしていたのに、結局、寝たきりになってしまった。私はそんな父の言葉を聞いて、自分も年を取ったら「子供たちの犠牲になった」「私の人生、何だったのか」と言うに違いないと思った。それで家を出たんです。
当時の私は、家庭でいろいろ上手くいっていない部分もあったので、このまま続けていると、最後に「いい人生だった」とは言えないと思ったんですね。娘と息子がいるのですが、娘はもう働いていて、息子も大学を卒業した年でした。「私が出て行ったら料理は誰がするの?」とか、いろいろ引っ掛かりはしましたけど、「ちょうどいい時機」というのはないんです。何かしようと思ったら、その時にやっておかないと。チャンスは、自分で作るしかありません。
まわりの雑音を気にしてたら何もできない
——「いい時機が来たら挑戦する」などと言っていると、いつまでたってもチャンスは来ないという……。
滝野:来ないですね。あともうひとつ、反対しそうな友達には絶対に相談しないこと。例えば「娘さんが結婚するまで待ちなさい」などと言って反対されるので、自分ひとりで決めることです。
米国留学も、ほとんど誰にも相談せずに決めました。「相談」ではなく、「行く」と決めてから、3人の男性に「どうしたらいいのか?」「どういう場所に行けばいいのか?」と方法だけ相談したけれど、3人が3人とも反対しましたね。「なんで今さら、そんなつまらないことするんだ」って。もし私が男だったら、皆さんどんな反応をしたのかな……。そこは今でもすごく興味があります。
私は自分の人生をいいものにしたくて、留学したかっただけ。母は寝たきりだったので、「私を捨てて行った」と恨み言を言っていたようですし、自分でもその通りだと思います。はたから見れば、「あの人はわがままね」と言われて当然。いろんなことを言われるのも覚悟の上なので、決心はいりますし、つらかったですよ。でも、そういう雑音を気にしていると、何もできない。
——お子さんは応援してくださったんですか?
滝野:夫には「わがままだ」と言われましたけど、子供達は「いいんじゃない?」と言ってくれました。子供たちはちゃんと親を見ているから、家を出たがっている私が家庭の中にいる状態が重たかったんじゃないかな。
「私は子供のために人生を送った」と満足して言えるのなら、それでいいと思うんですよ。だけど、「子供のために自分を犠牲にした」と愚痴になってしまったら子供もつらいだろうし。子供は子供の人生を一生懸命生きればいいし、私は私で自分の人生を一生懸命生きるからゴメンね、という気持ちでした。
■映画情報
『チア・アップ!』
公開日:7月3日(金)
新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
コピーライト:(C)2019 POMS PICTURES LLC All Rights Reserved
(聞き手:新田理恵、写真:矢野智美)
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情報元リンク: ウートピ
「子供の犠牲になった」なんて言いたくない。88歳現役チアリーダーに聞くチャレンジの原動力