25歳のときにAVやアダルトグッズを制作・販売するメーカー「トータル・メディア・エージェンシー」(以下、TMA)に入社し、以降、営業職として4年目になる堀江もちこさん。
堀江さんの著書『“オナホ売りOL”の日常』(光文社)には、若い女性がアダルト業界の裏方として働くことについて、リアルな現状が事細かに書かれています。
たぶん多くの方が気になるであろう「なんでこの仕事に就いたの?」「具体的にどんな仕事なの?」「偏見はないの?」の三本柱を中心にお話をうかがいました。全3回に分けてお届けします。第2回は、堀江さんの業務内容について話を聞きました。
ミッション!お尻型の巨大オナホを売れ
——今回は「“オナホ売りOL”とはなんぞや?」という具体的なところについてお聞きしたいです。日々の業務内容やスケジュールって?
堀江もちこさん(以下、堀江):10時に出社して、営業に行く日はお昼前からアダルトショップに営業に行きます。いかない日はデスクワークしながら電話営業したり、資料をつくったり。それで19時の定時か、残業しても20時には退社しています。
——意外と退社が早い。営業といっても、接待とかはないんですね。
堀江:この業界、お金がないんですよ……。羽振りが良かった時期もあるそうなんですけど……。
——アダルトショップに自社の商品をおいてもらうように商談に行くわけですよね。初めて行ったときは抵抗ありませんでしたか。
堀江:女性の裸の写真がいっぱいあるし、当たり前ですがオナホやアダルトトイが並んでるしで、最初は多少抵抗がありましたけど、けっこうすぐ慣れました(笑)。慣れるものですね、人は……。
——営業先には1人で行くんですか? それともチームで?
堀江:営業職は東京に3人、大阪に1人いるのですが、それぞれ個人で店舗を担当して動いている感じです。
——本の中で、大きなお尻の形をしたオナホを売るのに苦戦したエピソードがありました。入社してすぐにあのキャンペーンを担当するのは、相当キツそうでしたね。
堀江:はい、最初はすっごく苦しかったです……。電話営業のリストだけ渡されて、面識がない相手に一軒一軒電話して、「お尻型のホール買ってください!!」って粘るんです。相手は一応商品カタログを送っている店舗ですけど、普段はほとんど営業電話もしていないのに、いきなり巨大なオナホのキャンペーン案内ですよ。買ってくれるわけないじゃないですか。店舗の棚をどれだけ占拠するんだ、って(苦笑)。
——確かに。置き場所に困っちゃいますね。企画開発から上がってきた商品で、ぶっちゃけ「これ売れるの?」と思うことは?
堀江:あります、いっぱいあります。弊社は、お店から「変なのばっかりつくってる」って言われてるんです。お店だけじゃなくて、ユーザーさんも「タマトイズ=変なオナホのメーカー」って認識されている方が多いです。脳みそ型のオナホ、便器型オナホ、耳型オナホ、とか出してるから、しょうがないですよね。自社工場で作ったオナホールなど、実用性を重視した人気商品もあるのですが、いかんせん、ユニークなホールのイメージが先行してしまって……。
※タマトイズ=堀江さんの勤めるTMAのアダルトグッズレーベル名
——脳みそ型のオナホ(笑)、すごい角度からきた感じがします。正直「え???」って思うものでも、営業さんとしては売らなきゃいけないじゃないですか。どう工夫してるんですか?
堀江:たとえば脳みそ型のホールは、外国の方に人気があるんです。ECサイトに英語のレビューがついているのを見たら、それを翻訳して資料として持っていくとかしてますね。実際、秋葉原の店舗で聞いてみたら、観光客がネタ的に買っていくそうですよ。そうやって、置いてくれそうなところを見つけて、アプローチしています。
実は「普通」のお仕事
——どんな商品でも売るのが営業のお仕事ですが、売るときに大事にしていることってありますか?
堀江:お店に寄り添うことでしょうか。つい押し売りしそうになるんですけど、一旦おさえて、お店の状況を考えるようにしています。たとえば脳みそのオナホだって、1店舗で10個も買えないじゃないですか。一応、最初はダメ元で「10個どうですか」って言ってみますが(笑)。
——10個は多いかもなぁ。セールストークはどんな感じですか。
堀江:「この商品を導入するとお店にこんなメリットがあります」と店側のメリットを明確にしたり、「こういうデータがありますから、売れますよ」とデータで攻めたり、「こちらのお店は年配のお客さんが多いから、口の開いた安いオナホールが売れますよ」と提案したり、という感じです。
もちろん、最初からこういうセールストークができたわけではなく、徐々に身につけていった感じです。突然の営業電話も平気でできるようになりましたし、なんだか図々しくなった気がしますね。
——つまり、メンタル的にタフになった?
堀江:そうですね、仕事のときだけは。キツイことを言われたりノルマが達成できなくても、しょうがないかって思えるようになりました。いい意味で開き直って、「今月は決算のお店多いから売れなくてもしょうがないや」とか、あんまり自分を責めなくなりましたね。
——本を読んで思うのが、取り扱う商品のインパクトで特殊なように感じてしまうけど、普通の営業とやっていることは変わらないんですよね。
堀江:そうなんです。取り扱っている商品が特殊なだけで、ほかの営業職と変わらないと思います。
自分でオナホを試せなくても…
——今、アダルトグッズ業界の現状ってどんな感じですか?
堀江:外出自粛の影響で、もう、ものが売れなくて大変です……。ECサイトの発注は増えているんですが、実店舗の売り上げはすごく落ちています。特に都心はインバウンド消費が大きかったので、観光客がいない今は厳しいです。
——グッズを買う層って若い方ですか?
堀江:そうですね、若い方は気軽に買います。一方で年配の方はDVDや勃起薬を買っていきますね。
——グッズの中でも、オナニー用のものとカップルで使うもの、どちらが売れてます?
堀江:弊社ですと、やっぱりホールとかローションとか、一人で使う用の商品が売れます。業界全体でも、おそらくオナホールのほうが売れてますね。
——女性向けのものはどうでしょう。
堀江:弊社の場合、女性向けの商品は出しても売れないから、ほとんどなくなっちゃいました。バイブとディルドが少しあるくらいです。通販だと買いやすいと思いますが、私の営業先の店舗は、女性が実際に買いに行くにはハードルが高いから売れないんでしょうね。
——堀江さんは、実際にオナホを試せないわけじゃないですか。そういう点は、男性の営業さんと比べて不利に感じたりしませんか?
堀江:あまり感じません。たとえば、介護をしたことがなくても介護用のオムツを営業してる方っていらっしゃると思うし、自分が当事者でなくても物を売らなきゃいけないのが営業の役割。「使えない=良さがわからない」とは、私は考えてないですね。
——改めて、「ほかの営業のお仕事と変わらない」ことを理解しました。次回は、アダルト業界で女性が働くということについてお聞きしたいと思います。
(取材・文:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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