「逆流性食道炎を治したい」と題し、兵庫医科大学病院の副院長で消化器病指導医・専門医、内科指導医の三輪洋人(みわ・ひろと)医師に、症状や病気の特徴、セルフケア法、治療法などについて連載でお尋ねしています。
第1回の「燃えるような胸やけ、重苦しい胃痛…逆流性食道炎の症状」では、多様な症状とその原因について伝えしました。続いて今回は、なぜ食道と胃の境目の筋肉がゆるむのかなどについて詳しいお話しを伺います。
食道と胃のつなぎ目の筋肉がゆるむ原因とは
——前回、逆流性食道炎は「胃酸や食べたものが胃から食道へと逆流して、食道の粘膜に炎症が起こる病気」だと教えてもらいました。胃酸の逆流は、普段は閉じている食道と胃のつなぎ目付近の「下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)」がゆるむからということでしたが、なぜそういったことになるのでしょうか
三輪医師:胃酸が逆流する原因は主に次の2つがあります。そのひとつが前回にお話しした「下部食道括約筋のゆるみ」です。まずそれを考え、次にほかの原因を見ていきましょう。
(1)下部食道括約筋のゆるみ
食べすぎや早食いをすると、胃が内容物で張れてふくらむため、胃の上の部分が引っ張られて食道とのつなぎ目が開きやすくなる、つまり下部食道括約筋がゆるみやすくなります。
また、揚げ物やスナック菓子、ファストフード、ケーキなど脂質が多く含まれるものをたくさん食べると、十二指腸からコレシストキニンという消化管ホルモンが分泌されます。このホルモンは下部食道括約筋をゆるめる作用があるので、胃と食道のつなぎ目にある噴門(ふんもん。第1回参照)が開いてしまいます。
さらに、肥満など太りぎみだと内臓脂肪(内臓に付着する脂肪)の蓄積でおなかの中が狭くなり、胃が外側からぎゅーっと圧迫されます。猫背やデスクワークなどで前かがみの姿勢が続く場合も、胃が圧迫されているでしょう。すると下部食道括約筋が胃の内容物によって押し広げられて、食道に逆流するようになります。
いずれの場合も、下部食道括約筋がゆるむために噴門で胃酸の逆流が止められないようになるわけです。
(2)胃酸過多
胃酸が逆流する2つ目の原因がこれです。まず、「胃酸」の働きを理解しましょう。
胃酸とは、胃液に含まれる強い酸性の消化液のことです。胃の内部を酸性に保ち、食物を消化するとともに、体内に入ってきた菌を殺菌する働きがあります。また、胃は、胃酸で胃の壁を溶かしてしまわないように、粘液を分泌して自らを守っています。
胃は食べ物が入ってくると胃酸を分泌し、食べ物がかゆ状になるまでこねるように動いて消化します。かゆ状になった内容物は十二指腸へ移動します。
食べ物の中でもタンパク質は胃酸の分泌を促すので、肉ばかりをたくさん食べると胃酸が過剰に分泌されやすくなります。胃酸が多くなり、胃の中に胃酸と食事が充満すると逆流しやすくなることは理解しやすいでしょう。歯磨き剤のチューブをイメージしてください。新しくて中身がいっぱいに詰まったチューブは少し外から押すだけで、容易に中歯磨き剤が飛び出てきます。これと同じことが胃の中でも起こっているのです。
ほかに、「加齢」や「胃の手術の経験」、「血圧、心臓、ぜんそくなどの内服薬」が原因で下部食道括約筋がゆるむこともあります。
食道の知覚過敏が原因になることも
——胃の粘液にすみつく「ピロリ菌」という細菌がいなくなることが逆流性食道炎に関わると聞きました。どういうことでしょうか。
三輪医師:ピロリ菌は慢性的な胃の不調、胃かいよう、胃がんの原因となるのですが、実はこのピロリ菌がいない人のほうが胃が元気なので胃酸が活発に分泌され、逆流することがあることがわかっています。
ピロリ菌の感染者は主にいまの50歳以上で若い世代では少ないため、「若い人が胃酸過多で逆流性食道炎を発症する原因」のひとつになります。
——ピロリ菌がいないがために逆流性食道炎を発症することがあるとは、なんとも複雑です。また、歯の痛みでよく耳にする「知覚過敏」も原因のひとつだと聞きます。
三輪医師:逆流性食道炎で強い症状を感じる原因として、食道の感受性が高くなっていることが考えられます。知覚過敏の状態です。少量の胃酸や、酸性度が低い胃酸でも、人によっては刺激を感じやすく、胸やけなどの症状が現れるわけです。これにはストレスが関係しているとされます(ストレスとの関係については後の回で詳しく説明します)。
——そうすると、主に、食生活、体型、姿勢、ストレスが原因ということになります。
三輪医師:そういうことです。食べすぎ飲みすぎをくり返す人、太り気味の人、猫背や姿勢が前かがみが続く人に多いと言えます。
また先ほど、ピロリ菌がいなくて胃が元気な胃酸過多の若い人に多いと言いましたが、最近では中高年の人でもピロリ菌がいなくて胃酸過多の場合が少なくありません。つまり、胃酸が多いうえに加齢によって下部食道括約筋がゆるんでいますので、逆流のリスクは高くなります。セルフケアにあたっては、生活習慣を見直して改善するようにします。
●聞き手によるまとめ
セルフケアについては、後の回で具体的に紹介します。下部食道括約筋がゆるむ原因はどれも普段の生活に関わることでどきっとしますが、いずれも胃が圧迫されている様子はイメージができました。また、よく耳にする胃酸について改めてその働きと、過剰に分泌すると食道を傷つける場合があることがわかりました。
次回・第3回は、食道にびらん(ただれ)や炎症が見られないのに症状があり、いま患者の数が急増しているという「非びらん性胃食道逆流症」についてお尋ねします。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)
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情報元リンク: ウートピ
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