ローソンの「Uchi café Sweets(ウチカフェスイーツ)」や「渋谷ヒカリエ」「東急プラザ渋谷」など、幅広いジャンルのブランディングを手掛け、成功に導いてきたブランドプロデューサーの柴田陽子(しばた・ようこ)さん。
柴田さんが代表取締役を務める「柴田陽子事務所(通称、シバジム)」は20人ほどの少数精鋭組織。「営業を全くしない」のにずっと先まで仕事の依頼が詰まっているのだそう。その秘訣は誰でも身につけることのできる「思考回路」にあると言います。
柴田さんの「思考回路」についてつづられた著書『勝者の思考回路 成功率100%のブランド・プロデューサーの秘密』(幻冬舎)をフックに、なぜ彼女が求められ、結果を出し続けることができるのか、お話を伺いました。第2回では柴田流“人心掌握術”に迫ります。
野村監督の“ぼやき”に影響を受けて
——柴田さんが、仕事をするうえでお手本にしている方はいますか。
柴田陽子さん(以下、柴田):実は、2月に亡くなられた、元野球監督の野村克也さんにはすごく影響を受けています。
ネガティブなことや泣き言、いわゆる“ぼやき”をポロポロと周りに吐露されていく様子をテレビで見たとき、野村監督の心の変化が矢印のように見えた気がして、とても共感できたんです。
「何が起きても大丈夫!」とか「俺について来い!」みたいな強いリーダーもいると思いますが、それよりも「だから、大丈夫だよ!」と言えるまでに至った“気持ちの変化”を包み隠さず見せるほうが、周りに応援してもらえると思うんです。だから私もそこを省かず、野村監督のようにスタッフの前でぼやくんです。
——前回、「新型コロナウイルスの影響で、受注会が中止になってどうしよう」とスタッフに吐露されたお話を聞きました。
柴田:はい。「あーどうしよう、受注会がなくなったらボーダーズ*はダメかもしれない」とぼやくと、それを聞いたスタッフが「発注してしまった分、売り切ればいいだけじゃないですか」と、心強いことを言ってくれたりする。
自分の気持ちを素直に表現することは悪くなくて、そうすると助けてくれる人がわかったり、相手にお手柄が渡ったりして、気分を良くしてもらうことだってできると思います。
*ボーダーズ:「BORDERS at BALCONY(ボーダーズ アット バルコニー)」。柴田さんが2013年に立ち上げた洋服ブランドの通称。
頼り下手な人に覚えておいてほしいこと
——甘えたり頼ったりするのは「相手に迷惑をかけること」だと思いがちなので、「お手柄を渡す」という発想に目からうろこです。つまり柴田さんは、甘え上手……?
柴田:自分のお願いが迷惑ととられるか、または「頼られた!」と喜んでもらえるのか、そこを見極めるのは正直……すごく上手いと思います(笑)。
ただ見極めるにはかなり訓練が必要です。人に頼るという行為は「お金」と「時間」と「心」のバランスだと思っていて、たとえば「○○さんを紹介してください」とお願いするとき、それによって相手はどれくらいの時間やお金、心を消費するか、私はそのことをかなり具体的に想像します。
——たとえばどのように?
柴田:もし、相手が今週末空いていることがわかっていて、日曜日の午前中に動いてもらえば解決するお願いであれば、「この前の日曜日、陽子ちゃんのために潰れちゃったんだから〜」って相手が楽しそうに話すところまでイメージできてはじめて、日曜日の3時間を使わせてもらうお願いをします。
一方で、分刻みで動いているような方にとっては、電話一本かけていただくだけでも大きな負担になります。そのような相手にお願いをするときは、そのまま転送できるメールの文面を作って、「このメールの転送をお願いできないでしょうか」と頼んでみます。それだけなら1分もかかりませんから、相手の状況をよく想像して、その人に頼ってもいい「ギリギリのライン」を考えるようにしています。
——相手に恩を返さなくてはと思うとちょっと気が重くなってしまうのですけれど……。
柴田:お願いをきいてもらったら、お返しは3倍返しです。
——3倍……!!
柴田:でもすぐに返さなくてもいいし、自分がそれをできるようになったときにお返しすればいいんです。要するにそういう気持ちを持つことが大切だということ。
大きく言えば、お返しはその人にではなく、違う誰かにしてもいいと思いますよ。自分が誰かに与えられるものを持っているときに、それを出し惜しみせず周りに分け与えていくことが大事ではないでしょうか。
パートナーへの頼り方
——仕事と家事・育児を両立している柴田さんにとって、パートナーの協力も欠かせないかと思いますが、やはり旦那さんにも「ギリギリのライン」で頼られているのでしょうか。
柴田:彼の機嫌を損ねないであろう、ギリギリを攻めて頼っています(笑)。その工夫も、結婚してから欠かしていませんね。
でも、義母も昔からキャリアウーマンなので、夫は母親や妻が働くのが当たり前の環境で育っているんです。だからもともと、家事・育児にはとても協力的なんですけどね。
世の中には「家事・育児は妻の仕事」と考える男性もいるようですが、私はまずそういう人は好きにならないです。
今の時代、子どもを健康に育てるには夫も妻も互いに自立していないといけないと思うし、それには男女問わず、互いの努力が必要だと思います。
——32歳で会社を設立された後に結婚、出産をされています。キャリア形成とライフステージの変化をどのように考えていたのでしょうか。
柴田:結婚したのは35歳で、出産は37歳と39歳のときでした。正直、妊娠・出産はできるかどうかのギリギリだったと思います。
社長をやると決めた以上、社員の給料を払えなくなったり、受けた仕事を途中放棄したりなんて、あってはならないこと。ですから、子どもをつくる時期はかなり考えましたが……結局、自分だけでコントロールできるものでもないですからね。妊娠がわかったときは、「考えてないで、やるしかない」というスイッチが入った感覚がありました。
これは私自身の経験から感じることなのですが、子どもを持つタイミングは自立できるキャリアを得てからにしてよかったなと思っています。
産後はどうしても赤ちゃんに時間を取られてしまうので、できることがかなり制限されてしまいます。でも、自分がスペシャリストとして欠かせない人材だという認識が会社や周囲にあれば、向こうが合わせてくれるはずです。
働いてきた女性は産後、社会に戻れる場所がないと必ず不安になります。だからこそ、自立して1人でも立っていられる場所を簡単に手放してはいけません。
自立した状態を具体的に説明すると、会社員だとしたら、役職についていなくても、今すぐ転職しても納得できる金額で雇ってもらえる、というのはひとつの目安になると思います。
なので、自分のキャリアプランも含めてパートナーと妊娠・出産のタイミングについてよく話し合う。意識をきちんとすり合わせておけば、自分が高い志を持つこともできるし、味方がいるという安心感も持てるのではないでしょうか。
*このインタビューは3月2日に行われました。
*最終回は4月15日(水)公開予定です。
(取材・文:小泉なつみ、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
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情報元リンク: ウートピ
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